裸足で過ごす路上のクリスマス
季節はめまぐるしく移り変わった。肌寒くなり、人肌が恋しい時期に瀬村みきはいない。僕は人妻であるみきを抱くことはできなかった。いや、それは言い訳だ。なぜなら僕は彼女が独身であったとしても、生身の女性を前にして怖じ気付いただろうから。僕は何を恐れたのか。あの日以来、僕はあの日みきと再会したときと同じ場所で寝泊まりしていた。やがて12月になり、朝と晩はかなり冷え込み、路上で裸足でいるのが辛い時期になった。駅前を行き交う女性たちはコートにマフラー、黒やグレーのタイツにパンプスやブーツ、厚手のスニーカーを履いて闊歩していた。それなのに、僕だけがあの日と変わらずランニングシャツに空手のズボンを履き、足元は裸足だった。爪の中まで埃と垢で黒い。僕だけが季節に置いてかれて、取り残されていた。
ここから先は
4,157字
¥ 300
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?