庭について
1.
ハコニワの木下です。以前から庭というものが好きです。植物が好きだから、というのもありますが、当然それだけではなさそうです。
2.
似たような空気が漂う、二つの小説があります。『猫の客』(平出隆)と『春の庭』(柴崎友香)。どちらも、ゆっくりと、ぬるりと、たんたんと、時間が進んでいきます。このなかで登場する庭がとても印象的ですので、そこから庭について考えてみます。
3.「猫の客」
ある日、夫婦の住む借家に隣家の猫が訪れてきます。チビと呼ばれるその猫と、夫婦と、その周りの生活が描かれたお話です。
チビは最初、小さな庭に現れます。窓に浮かぶ白いシルエットをみて、夫婦は窓を開けチビを迎え入れます。
家に入るには家主の許しが必要ですが、庭にはその必要がありません。
雑草の種、落ち葉、スズメ、お隣さん、どれも家に入られるといやだけど、庭までならおっけーな感じがしますよね。
庭は常に、訪問者の侵入を許しています。
庭はふところが広くて、ゆるいです。
4.「春の庭」
太郎と、西と、水色の家。これらを主題にして淡々と話が進んでいくのですが、突然状況がハッと変わって、すぐに元通り、を繰り返していく、そんな物語です。
状況の変わり目、例えば同じアパートに住む太郎と西が庭きっかけで知りあう場面だったり、西が渡してくる写真集「春の庭」をめぐるやりとりだったり、太郎が庭にモノを埋めるシーンだったり、、、どれも庭が絡んでいます。庭での出来事によって、物語がグッと進んでいるんです。
きっかけのある場所、きっかけを起こす場所として、庭が書かれているように思えます。
5.
「猫の客」ではゆるい庭が、「春の庭」ではきっかけに満ちた庭が、それぞれ登場しました。
ふところが広くて、きっかけや発見がある。私は、庭のそんな状態に惹かれているのだと思います。
6.
突然、旅の途中の人間がはいってきたり、訪れた人同士で新しいことを始めたり。どれも、これまで私たちが開いてきたハコでの出来事です。ゆるさときっかけに満ちています。まさに庭です(!)。
ニワの魅力を持ったハコを、これからも目指していきます。
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