再録ハコボレ落語研究会『世別レ心中』稽古場こぼれ噺〜最終回
おまくら
最終稽古といっても変わらずで。稽古場に入って、筋トレをして台本を眺める。口を滑らせて落語の馴染みを確認する。そして真剣な顔をしてカメラで自分を撮って、宣伝。ただ当たり前のように。それでも丁寧に稽古を重ねる。稽古を重ねるって表現はその通りで。一枚一枚の薄膜みたいな。役を着ていくような。構築していくイメージ。
この話を何周しただろうと。
だけれど一周だって同じ景色はない。
だから積み上がる。重ねるといったイメージだ。
このノートは、重ねた物を脱いでいく。ぺろっとめくって、こんな裏側もあるんだと思う。そんな作業。振り返りとも違うのだが、今日、想うことを脱いでいこう。
稽古が終わった。
厳密には稽古場での稽古が終わっただけで。明日も台本は読むしストレッチもする。劇場入りしてからも、本番の幕が開けてからも考え続けるよ。
だけど、今日、間違いなく点が打たれた。
北川さんとここまでやってきた。5年ぶりに演出家としての顔を見た。
あの時は、出演者のひとり。今回の再会は、前田と北川。そのタッグだ。考えてみれば、誰かの指導を受けるというのはもう何年ぶりか。いつも一人で書いて演出をして作った『世別レ心中』と今回の『世別レ心中』は別の作品になった。
当たり前だが、やってる本人は自分を見れない。だからこう見えているだとう、こう聞こえているだろう。と不確定のまま進んでいた。し、見てもらった際も、演出という視点では誰も言葉を投げなかった。
今回は違った。
演出席に座って、対面で作品を見てくれる。この対面というのがミソだ。一緒に寄り添うでなく、時に客観的に、よりこの作品を伝わりやすく、本質を見抜く力。的確な指導。今回、「演出」を受ける。という事を改めて肌で感じた。再演する意味。そして一人では登れない山もあると教えてくれた。
これまで毎日書いてきた、考え方。演出。作品の見せ方、時にはメンタルまで。この公演で私という人間に向き合ってくれた。私よりもこの作品を、そして私を信じてくれた。そういう出会いだ。
帰りの車内。
これは恵まれたことと教えてくれた。運とタイミングがよかったこと。
彼が何度も「前田とこんなにがっつりやるのは今回で最初で最後だ。俺は長くは君と伴奏できない」そう伝えてくれた。その言葉に寂しいこと言うなあ。と想ったし「いや、もっとこれからもお願いしますよ」と言いたくなった。けれど、真意はそうじゃなくて、これはエールなんやな。と思えるようになった。前田が自分の足で立てるように。たくさんの道を、それこそ演出力からスタッフとの打ち合わせ。宣伝とプロモーションについて。多方面から学ぶことが幾らもあって。それは背中じゃなくて正面で語ってくれた。
だから僕にストレートに伝わったのだ。
伝わってから自身に変換して、実践していく。それは次は僕の番で。
こんなにも頂いておきながら、今後もともに。それこそ「心中」ってのは野暮なものでしょう。バチが当たるわな。
だからこそ。この『世別レ心中』という一人芝居。
今後も芝居に向き合う、だけれど誰かと共に死ぬことは許されない。
「化け物」になっていく物語。これを自分の話と説いてくれた。
最後の稽古を終えて、この芝居がいかに大きな想いに支えられているかを実感しました。見えないところでたくさんの『世別レ心中』の成功を願う想い。それはスタッフさんだけでなく、大阪の仲間。そして幕が開くのを楽しみにしてくれているお客様。なにより自分自身が、そんな想いの上で舞台に登れることを本当に幸福だと思います。
今日もたくさんの応援ありがとうございます。
もう次は劇場でお会いすることになるでしょう。
まず4月8日。私の生まれた日でございます。厚かましいですが、何よりのプレゼントは観にきていただけることでございやす。晴れ晴れした気持ちで舞台を迎えれるように残り2日を過ごします。
ハコボレ 前田隆成
公演詳細
再録ハコボレ落語研究会
「世別レ心中」
◎日時
4月8日(木) 18:00
4月9日(金) 15:00/18:00
4月10日(土) 11:00/15:00/18:00
4月11日(日) 11:00/15:00
◎会場
花まる学習会王子小劇場
東京都北区王子1-14-4 地下1F
◎チケット料金
前売:2000円
当日:2500円
あさハコ:1500円 ※11:00の回のみ
-----作品内容-----
◎作・演出・出演
前田隆成
◎古典落語「鰍沢」のあらすじ
旅人は身延山に参詣へ向かう道中、吹雪に見舞われた。遠くに灯りを見つけ尋ねてみると、美しいが喉元に傷のある「お熊」と名のる女が現れた。見覚えがある彼女は元、吉原の花魁で旅人も一夜を明かした過去がある。羽振りの良い旅人に、お熊はそっと卵酒を差し出した。雪山のあばら屋から鰍沢へ駆ける、一夜の物語。
◎演劇「世別レ心中」のあらすじ
旅人は激流を下る際に、本当にご利益があって助かったのか。お気楽なニンゲンの言い伝えに嫌気がさすモノがいた。彼らの村に伝わる「鰍沢」の伝承とは話は少し違う、旅人との関わり。ケモノの九太はあの夜目にした真実と森に伝わる呪いについて語り出す。
それでは、おやすみなさい。l
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