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うそのある生活 13日目

10月31日 晴れときどき曇り 乾いた空気の日

娘の保育園では英語のクラスがある。毎週水曜になると英語の先生が来て、やっと日本語を話し出したばかりの子どもたちを並べて、英語を教えてくれる。

わたしと妻は教育熱心というわけでもなく、娘に英語を覚えさせたいとは少しも思っていないのだけれど、たまたま入ることができた保育園がそういうことをするところだった。娘のほうではそのクラスをずいぶん楽しんでいるようで、よく家でもそこで教えてもらった英語の歌なんかを歌っている。

英語のクラスでは毎回チャンピオンを決めることになっている。チャンピオンと言っても、元気に英語の歌を歌ったとか、積極的に手を挙げたとか、そういう理由でもらうようで、そういうことに物怖じしない娘はよくチャンピオンになっている。

チャンピオンになると、景品をもらえる。その景品というのがゴム製のまん丸い人形で、やわらかいとげがたくさん生えていて、強く振るとピカピカと光りだす。お祭りの夜店に売っていそうなその人形を、娘は嬉しそうに「もらったんだよ」と見せてくれるのだけれど、毎回同じものをもらうしそれが家にたまっていくので困っている。

賃貸の狭いアパートに三人で住んでいるうえに、娘のおもちゃもずいぶん多くなった。古いおもちゃで、たとえば乳児用のようなものから捨てていけばいいのだけれど、人からもらったものが多いのでなかなか捨てにくい。それに、もう遊ばないだろうとうっかり捨ててしまってから、あとで娘にあれはどこいったの、と怒られたりすることもあるので、捨てるのにも注意が要る。

そんな事情でなかなか捨てないでいるので、狭い家が混雑してしまっていて、そこにまたそのやわらかいとげの生えた丸い人形がいくつも加わるので、ますます片付かなくなった。もういくつもあるのだし人形は捨ててしまいたいと思ったけれど、娘がチャンピオンになってもらったのだと思うとやはりこれも捨てにくい。

その人形が近頃、夜中に勝手に光りだすようになった。まるでパチンコ屋の看板のように色とりどりに光っては、行列をつくってリビングでパレードをする。そうして、昨日はついにパレードをしながらの英語の歌を歌いだした。

ちいさな人形だけれど声量は一人前で、うるさくてとても眠れないので注意すると、人形たちはどうやら英語しか話せないようで、何を言っても「I can't speak Japanese」としか答えてくれない。それで、仕方ないので英語で注意すると、どうやら伝わったらしくその人形たちがうつむいて反省した。注意してからは人形たちの光がずいぶん弱くなって、さっきまでは色とりどりだったのに、みんな薄暗い青に変わったので、少し強く言い過ぎたなと思ったが、いやいや夜中に騒ぐのがいけない。そもそも小さな子どものいる家庭で夜中にパレードは非常識だ、という風に思い直した。

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