いや、お前は怖がれよ!
ハチロウです。
20年くらい前のこと。
親友のドリルから電話がかかってきました。
「バンジージャンプいけへん?」
「おしゃれなこというやん。いこか」
琵琶湖に遊園地があり、そこにバンジージャンプがあるとのこと。
ドリルの3トントラックに乗り、もし人間と同じ大きさだったらどの昆虫が一番強いか議論しながら、琵琶湖に向かいます。
ついた遊園地は、この上なくボロボロで、それはもう本当にボロボロで、入り口からアトラクションまで、ほぼすべての鉄骨がさび付いています。
テント類は、日焼けして色あせしているどころか、大半、どこかに穴が開いています。
遊園地内のゲームセンターには、1981年発売のギャラガがいまだに置いてあり、照明は所々切れ、なぜかスタッフは老人しかいません。
「ああ、これ。洋ゲーやったら頭いかれたピエロ出てくるやつや…」
若い時のノリできたものの、さび付いたジェットコースターはさすがにヤバいと感じ、真顔になってしまいます。
なにより、池の鯉の繁殖がハンパないのにエサが足りていないのか、カップルたちがエサをあげると60~70匹ほどいっせいに群がってきて、やっぱり真顔になっていました。マジできもかったです。
で、肝心のバンジージャンプです。
これが意外ときれい。
どうやらこれだけ最近作られた様子。
おそらく、つぶれかけた遊園地が再起を図ったのでしょう。
僕は内心、一安心しました。
でも、そこはまだまだ20歳そこらの男の子。
ドリルの手前、ビビった様子なんて見せられません。
「これがテレビでよく見たバンジージャンプか~」。
下から見ると思ったほど、高くありません。
テレビと違って低めに設定してあり、30メートルでした。
ちょうど10階建てのマンションくらいでしょうか。
受付に行くと、まず誓約書を書かされます。
万が一、事故があっても一切の責任は取らないとのこと。
まあ、こういうのって、そんなものでしょう。
でも、その下に、僕たちにとってはとても重要なことが書いてあります。
「体重制限100キロまで」
その時のドリルの体重、98キロ。
「ヤバかったな~。あとちょっとで出来ひんところやった」
「せやな。ギリギリセーフでよかったやん」
おお、ドリルのやつ。えらい余裕かましてるやん。
でもきっと本当は、体重制限ギリギリで怖いはずや。イヒヒ。
僕たちはいよいよバンジージャンプをするため、階段をのぼりはじめます。
30メートル分の階段はものすごい段数で、3分の1も登れば息が切れてきます。
そして何より、下から見ていたのとは違い、登れば登るほどその高さを実感し、どんどん怖くなってきます。
半分登ったところで、受付のカウンターがずいぶんと小さく見え、てっぺんまで登ると受付のカウンターはそのさらに半分の小ささ、小豆くらい見えます。
それだけ高いところに行くと不思議なもので、なんだか体が宙に浮いたようなフワッとした感じがします。そして、ちょっとした風が吹いただけで、思わず足に力が入ります。
「あれ、これ思っていたより怖いな…」と思いつつ、やっぱりドリルの手前、ビビってる様子は見せられません。
「よし!オレから先行くわ!」。
「これにしっかりとしがみついてくださいね。絶対に途中で離さないように」。スタッフの人が指示を出してくれます。
サンドバッグみたいな細長いクッションに全筋肉を総動員してしがみつき、僕はありったけの勇気を出し、飛びました。
ビュンッッッッッ。
ボヨン~~、ボヨン~、ボヨン・・・・。
僕は下にある巨大なクッションに落ちました。
まさに刹那とはこのことで、飛んでしまえばあまりにも一瞬。
それでも20年たった今でもしっかりその感覚を覚えているくらい、インパクトのある一瞬でした。
さて、次はドリルの番。
こりゃ、びびってるやろ。なにしろ体重制限100キロのところ、あいつ98キロやで。どう考えても本能的にビビってるはずや。
ビビったドリルを見れるなんて、こんなんめったにないチャンスやで。イヒヒ。
なんて思ってると、ドリルはあっさり飛びました。
ビュンッッッッッ。
ボヨン~~、ボヨン~、ボヨン・・・・。
98キロの巨体が、巨大なクッションの上に落ちます。
そして2秒ほどたって、ドリルの横4~5メートルほどに、サンダルが落ちてきます。
「あっぶな~。サンダルなくすとこやったわ。飛んでみたら一瞬で味気ないな。ほなソフトクリーム食べに行こか」。
いや、お前は怖がれよ!!!
そんでサンダルでバンジージャンプしてたん!!!
そこスタッフも止めろよ!!!
それからなに人生で一回のバンジージャンプの直後に食欲だしてんねん!!!
そんなんやから98キロやねん!!!
頭いかれてんのはピエロじゃなくて、お前とスタッフやったわ!!!
いろいろなところツッコミたかったのですが、バンジージャンプの恐怖で疲れ切っていた僕には、ビビってないふりをするのに精いっぱいで、ツッコミの元気も残っていませんでした。
で、数年後。
その遊園地はつぶれました。
この話の本当度。98%。
体重制限が100キロだったか、98キロだったか正確に覚えていません。
ただ、ドリルの体重がギリギリ2キロ差だったことだけ、しっかりと覚えています。