【コトダマ023】「あなたは、これまで生まれてきた・・・」
ヘレン・ケラーは、たぶん「世界で一番有名な障害者」でしょう。目が見えず、耳が聞こえず、話せないにもかかわらず、超人的な努力で苦難を克服した「奇跡の人」。子どもの頃、伝記を通してその人生に触れた人も多いでしょうね。
でも、自らも視覚障害者である著者は、そんなヘレン・ケラーに文句タラタラです。何しろみんなが、ヘレンを引き合いに出して言うのです。「もっとがんばりなさい。ヘレン・ケラーを見習いなさい!」と。
でも、ヘレン・ケラーは本当に、そんな人間離れした「偉人」だったのでしょうか? 本当は彼女にもまた、「奇跡の人」というイメージの裏側に隠された、一人の人間としての人生があり、愛憎があり、ドラマがあったのではないでしょうか。
そんな問いかけのもと、著者はヘレンに手紙を書きます。もちろん、返事が返ってくるわけはありません。でも、一方的な問いかけを重ねるうちに、著者はヘレンと、そして自分自身との和解を果たすのです。
上の引用は、そんな「和解」の末にたどり着いた著者の境地をあらわす言葉です。だからある意味、これは本書の「ネタバレ」なのですが、とても大事なことだと思うので、あえて取り上げさせていただきました。
ヘレンが単なる「平凡な人」だったのではないのです。逆なのですね。ヘレンが「奇跡の人」であったのと同じように、誰もが「奇跡の人」なのです。ヘレンがそうであったように、誰もが葛藤や矛盾や欲望を抱えた平凡な人間であり、そして同時に偉人なのですね。