ハチマル

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Honk If You’re Lonely

南の方向に進む列車に乗っている。理由はわからないが、列車は左側のドアを全て開けて停止している。ケータイに夢中になっていたおれはいつから列車が停止していたかはわからない。今、気持ちのいい風を受け、顔を上げた時に初めて列車の停止に気づいた。まばらに居る他の乗客は皆んな下を向いていて気づいていない。気持ちのいい風は知らない名前の駅から吹き込んでいる。そこでは雨が降っている。気温は低いが、雨で湿気ているので寒さは感じない。気温と湿度のバランスが良いことで吹く風が気持ち良い、と体感する

    • 黄昏後の〆サバ

      未だ日が落ちる前から玄関先の明かりを点けて夜に向かう家がある。住む人間たちの静かに太い熱を感じて、たじろぐ。なんせ今日の私はただ酒を飲みに家を出ただけのことである。私の家が放つ光は道ゆく人からどう見えているだろうか?或いは明かりは全て消してきてしまったかもしれない。気づけば私の関心は今月要求される電気代へと移っている。 玄関先の柔く確かな明かりは、抵抗だろうか?住む人間たちの、外部に結界を張るが如き意思だろうか。なんの気なく道を歩く私、その家の外部の立場から横目で明かりを見

      • 珈琲屋が開いていない

        時間が止まっているんだと思う。 しばらく珈琲屋を探して歩いている。もちろん闇雲に歩いているわけではなく、ケータイで近くの開いている珈琲屋を調べてからそこに向かうというのを繰り返している。ことごとく開いていない。プロント、ドトールも開いていない。開いていない訳がわからない。そういえばさっきから道端には作業服を着た人間がたくさん、日陰を狙って座り込んでいる。よく見ると彼らは動いていない。一つの集団のように見えるが会話もしていない。今気が付いたがここはビル街だ。気がついたことで、大

        • 移動

          速い速さで他動的に移動している。 とは言え果たしておれの毎日においてどれほどの移動が自動的なのだろうか。思い返して驚くが、どこをどう移動したかすら思い出せない。 登山家と宇宙飛行士に思いを馳せる。山を登る足は自動的に斜面を蹴るだろうか、ロケットのエネルギーは自動的に噴出するだろうか。きっと彼らは自動的に移動し、到達する。 車窓から外を見ると自分が移動していることがわかる。なんのために他動的な手段をとったのか、時代に静止することもせずSNSを覗く。しかしこれは一体なんのための

        Honk If You’re Lonely