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お揃いのカップを手に取って
「今日、何のお茶にする?」
妹の部屋の方に向かって、声を掛ける。
程なくして、壁の向こうから「紅茶がいいー」と、声が返ってくる。
たまに「緑茶ー」なときもある。
台所に向かって、10種類近く茶葉が入ったカゴを取り出し、どの紅茶にしようか考える。
妹は紅茶なら何でも良いらしいが、私はお茶には少しうるさい。
今日は、友人から貰ったアッサムティーにした。
お湯を沸かしている間に、ラップにくるんであったパウンドケーキを取り出し、少し薄めに4切れ、スライスする。
おととい作って、寝かせておいたやつだ。大分しっとりしている。
手のひらよりも、少し小さいサイズのお皿。それに2切れずつケーキを載せて、デザート用のフォークを添える。
それをせっせと、妹の部屋の座卓に運ぶ。
整頓が苦手な私の部屋には、とてもじゃないけどお茶をするスペースなんか無い。
「二人で一緒に何かするときは、妹の部屋」という流れが、気付けば自然に出来ていた。
ぱちん、と電子ケトルのスイッチが切れる音がする。お湯が湧いたみたいだ。
ガラス製のポットにお湯を注ぎ、ティーバッグを落とす。茶葉を蒸らす時間は3分。
その間に、いつもお茶を飲むときに使うカップを、戸棚から取り出す。私が瀬戸内を旅行したときに、一目惚れして買ったものだ。
妹とお揃いのそれを、ドライな彼女は嫌がるかと思いきや「フォルムが可愛いよね」なんて、まんざらでもない感じで使ってくれている。それが私はとろけそうに嬉しい。
座卓の上には、パウンドケーキ、ティーポット、お揃いのカップが2つ。お茶会の準備は万端だ。
ティータイム開始から5分後には、パウンドケーキは全部、胃袋の中に消えていた。姉妹揃って早食いなものだから、仕方がない。
でも、お茶だけはなかなか減らない。二人で飲み干すには多すぎる量を、毎回私が淹れるからだ。
ポットから、ちびちびとカップに移しながら、そしてそれを口に含みながら、私たちはテレビを見たり、何か話したり、何も話さなかったりする。
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妹は、とてもクールだ。
私から口数と表情筋を動かす回数を減らして、理性と落ち着きをマシマシにすると、妹になる。
妹は、あまり悩まない。愚痴も言わない。
クヨクヨしたり、誰かにぶつくさ言ったりしても、何かが好転するわけじゃないでしょ?と、少し前に話していた。
友達との関係が上手くいかない、と私が相談したときには「会わなきゃいいじゃん」と一言返されて、轟沈した記憶がある。
私たち姉妹は、あまりにも似ていない。
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でも妹は、優しい。
姉は知っている。
私が仕事に追われているとき、普段は面倒くさがってやらない洗い物を、こっそり済ませてくれていることを。
私が力尽きて寝落ちしているとき、布団を掛けてくれたことを。
誕生日プレゼントを、一ヶ月も前から吟味してくれていたことを。
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クールで、サバサバしてて、でも優しい妹。大好きな妹。
そんな彼女とだからこそ、生活を共にできている。
一日の終わりが絶望的でも、一杯のお茶を飲んで、明日もやってやろうじゃないの、と思える。
今日も彼女と、早々に無くなったパウンドケーキのお皿を尻目に、お揃いのカップを手に取った。
二人の夜が、更けていく。
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