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祖父の庭

チューリップの球根が花屋の店先に並んでいるのを見かけた。ああ、冬が来る。

チューリップなどの球根は10月ごろに植え始める。春に向けて準備をするのだ。
10月に植えて芽が出るのは、いつ頃だっけ。忘れてしまった。

ずっと昔、小学生の頃だ。庭いじりが趣味だった。
なんとなくパンジーの苗を買ったのが始まりだ。それから一年くらいは飽きずにやっていただろうか。

種をまいて育つ草花を見るのが楽しかった。
その頃ちょうど梨木香歩さんの小説が大好きで、「西の魔女が死んだ」や「からくりからくさ」の世界が大好きだった。それもあってせっせとお小遣いで花を集めた。

小学生の少ないお小遣いでは買えるものにも限りがあった。
それでも続けたのは、家にいる祖父に見せたい一心だった。
祖父は家にいることが多く、外出は週二回の老人ホームの行き来のみだった。

だから、祖父の部屋から見える庭を綺麗にしよう、楽しんでもらおう。
そう思っていた。

「おじいちゃん、花が咲いたよ。外に出よう。」

家と老人ホームを往復する祖父を不幸だと思っていた。
なんて勝手な考え方だろう。
勝手に祖父の幸せを決めつけて、私は、傲慢で愚かだった。

喜んでもらいたい、楽しいと思ってほしい。
その気持ちは嘘ではなかった。
けれども、祖父は別にそんなこと望んでいなかったのかもしれないと今は思うのだ。
ただ、暖かな窓際で穏やか日々を紡いでいたのではないか、充分に満たされていたのではないかと。

ちなみに私の庭いじりブームは育てていた苺を摘んだ際に穴の空いた苺からナメクジが出てきた瞬間、庭いじりが怖くなってやめてしまった。
祖父への気持ちはどこにやらである。子どもならではの飽きっぽさである。

生まれてから20年間住み続けた家を引っ越し、その庭ももうなくなってしまった。
今はアパートが建ったそうだ。
祖父はその年に亡くなった。

もう祖父はあの庭にいない。
私は祖父に幸せを押し付けることもないのだ。

#エッセイ #思い出 #庭 #祖父とのこと

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