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えんどう豆の串揚げ誕生秘話!見るだけの修行。

六覚燈物語その五


「えんどう豆の串揚げ」

私の一言から始まった
弟・淳也の修業。

実はその頃淳也は
家業の肉屋と兄貴の焼き鳥屋と両方手伝っていました。
どこかに修業へ行く間もなく
肉屋と焼き鳥屋の手伝いが忙しくなってきてました。
私は大阪の豆腐屋へ丁稚奉公へ行った経験があるのですが。
結局、どこにも修業に行ったことがなかったのです。

その事をオヤジさんは知ってて淳也を短期間ではあるけど「引き受けましょう」
と言ってくれたのだと思います。
その事が嬉しくて嬉しくて
有難くて有難くて。

淳也も喜んで行きました!

やはり、商売人はどこかで預かってもらうのが一番大切な経験なのです。

後から聞いた話ですが
私では無理だろうと思ったらしいです。。。涙

「レシピは簡単には教えられまへん。
ウチでは見るだけの修業をしてもらいます。
その時、チラッと作るところ見えたりするんかなぁ。。。どやろ?笑」

【見るだけの修業】

淳也が気を利かせて言ったらしいです。
「洗いもんでも
便所そうじでも何でも
させてください!」
「そんな楽なことは、せんでよろし!
集中して見ときなはれ!」

ピシャッと言われたそうです。
同じ場所にずっと立ちっぱなしでめちゃくちゃキツかったそうです。

見るポイントは
お客さんの表情や
あごの動きなどです。
【見る目を養う修業】
だったのです。

《見ることがすべの始まり
見ることができないと
何もできない。
特に接客は何もできない。
察すること
察するためには
まず見ること
それが接客
人手は集めれば足りる
しかし、いつも目が足りない
ちゃんと見れる目が足りない
押し付けのサービスはいらない
まず、ちゃんと見ること
ちゃんと見れること
まずはお客様のために
それを繰り返していくと実力となる》

しかし、立ちっぱなしの見るだけはキツくてキツくて、洗いもんや便所掃除の方がマシやと思ったらしいです。

考えてみればそうですよね。

仕事が終わると
オヤジさんの家に泊めてもらい
朝方まで立ちっぱなしで
商売のコツを聞いたそうです。
ほぼ寝てなかったと。
もちろん、オヤジさんも寝てないのです。

その時のノートには
ビッシリと商売の基本や飲食の基本が書き込まれていました。

 
マンツーマンの授業です。
商売の基本を叩きこまれたのです。

なしてこげな兄弟の面倒をみてくれると…
なして…

そんな修業をしながら
八兵衛の
えんどう豆の串揚げは
誕生したのです。

一つのメニューにしかすぎませんが、八兵衛の大切なメニューです。
大切にせないかんとです。

本当に感謝とか言う言葉では言い表せないものがあります。

一人の男の人生を変えるほどの修業のお礼をどうしていいかわからず。。。。

淳也が帰ってきて
話を聞いて
すぐに
糸島の胡蝶蘭やら
明太子やら
女将に花束やら
高いウイスキーやらを
持って
とにかくをお礼をと
大阪へすっ飛んでいきました!

しかし、オヤジさんは…

つづく

六覚燈物語 最終話

「次第仕送り」

初めて六覚燈さんにお邪魔して大迷惑をかけたあの日から3年あまりたっていました。

その間に六覚燈さんには何回通ったかわかりません。
いつも私に色んなヒントを与えてくださったり
いつも高いワインをお勉強やからと、こっそり飲ませてくださったり
ワインのお話を沢山してくださったりしたオヤジさん。

そして、弟の修業まで引き受けてくれたのです。

弟・淳也から修業の中身を聞いてビックリしました。
オヤジさん、寝る時間を惜しんでまで飲食についてお話しをしてくれてたのです。
短期間やからと。

「うそやろ!そりゃあ1日も早よお礼ば言いにいかないかんばい!」
たくさんのお礼の品
たくさんのお礼の言葉をたずさえて
大阪・六覚燈さんへスッ飛んて行きました。

「もう。。。
そんなことはせんでよろし!って言うたでしょ。
気持ちは十分伝わってますから、こうして大阪まで来てくれただけで十分ですやん。笑」

「いや、もう、どうお礼を言っていいかわかりませんし、
どうしていいかもわかりませんから…
しかし今回は弟が大変お世話になったわけでして…」

いつもオヤジさんは
お礼を受け取ってくれません。
受け取ってもそれ以上のサービスをしてくれるのでうかつにお礼もできないのです。

受け取ってくれないのはわかっていましたが、どうしてもお礼をしなければと。

そのことはわかっていたのですが今回ばかりはそうともいかんやろと。

そして、
席に座っていると
オヤジさんが私の目の前で
最高級ワイン
「1961シャトーラフィット」を
ポンと置いて
ポンと抜栓されて
私にサーブしてくれてる

えっ??

「お礼のお礼やね。笑
このワインは素晴らしいよ。
あなたと同じ年数生きてきたんとちゃいますかね。
はい、ワインのお勉強しなはれ。笑」
にこにこしながら言ってくれました。

1961、それは私の生まれ年…

その瞬間にとっさに席を立ち
頭を下げて
こう言いました。

「もうこれ以上のことは私にせんといてください!
もう何もせんといてください!
お礼のしようがなかとです!
私にはお礼のしようが…」

オヤジさんは私をさとすように言ってくださいました。

「次第仕送りいう言葉がありましてな。」

「しだいしおくり…」

「受けた恩は下に返すいうんです。
(親から受けて
嬉しかったことを
有難いと思ったことを
親に恩返しするのではなく
それをそのまま子に返すのです。
親(大人)はそういうつもりで
子に伝承し
子はそういうつもりで
伝承され
親(大人)になったら
子に伝承するのです。)

私もこの世界で
沢山の人さまに面倒みてもらってきました。
沢山の方々によくしてもらったり勉強させてもらいました。
決して一人で生きてこれたわけではありませんがな。
こうやってお客様の前に立ててるだけで幸せなんですよ。

そのご恩をあなたにちょこっと返してるだけやから気にせんといて。笑

もし、あなたが
私みたいのに恩を感じてるのなら
どうかそれを
今のスタッフさんや
これから出会う人に返してみてはどうでっしゃろ。
若い人にしてあげてはどうでっしゃろ。
それでええんですよ。

それに商売さしてもらってて一番嬉しいんは人の成長ですわ。
これ以上の喜びなんてありはしません。
なっ、そうでっしゃろ?
受けたご恩は下に返す。
その人がそれで成長する。
そんでよろし!」

その時のワインの味は残念なくらい覚えてないのです。
美味しい!って言ったまでは覚えているのですが。

 
そのオヤジさんが
今年の三月いっぱいでセミリタイアされると聞いたのです。
私はいてもたってもいられず
すべての八兵衛社員を連れて六覚燈さんへ行ってきました。


みんな
それぞれの感性で
何かを感じとってくれたと思います。
その感じとったことをそれぞれのフィルターを通して
仕事や人生で表現してくれたら嬉しいです。

でも、
一番嬉しかったのは私かもしれません。

あれから16年。。。。
こうやって
みんなと一緒に美味しい串揚げを食べれて
美味しいワインを飲めて。

本当に有難いです。

オヤジさんも喜んでくれたのではないでしょうか。




これからも
私はオヤジさんに受けたご恩を
沢山の方々に受けたご恩を
少しづつですが
返して
生きていこうと思っています
この大好きな
飲食人生で。

焼とりの八兵衛
店主 八島且典
2016.3.27

 

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