名もなき抒情詩 ①
幼いころ、両親のいう事を聞かないと手を上げられた。
平手打ちは日常。
父親からは鬼の形相で睨みつけられたあと、拳を振り降ろされ、
仏壇から持ち出したろうそくに火をつけたかと思うと、背中やお尻に
溶けたロウを垂らされた。
熱さと激痛で逃げようとする身体を母親がしっかりと抑え込む。
「も゛ゔ・・・やめでぇぇ!!」
喉の奥から絞り出した精いっぱいの声で叫んでも、その手を離してはもらえなかった。
まだ熱を持った蝋に覆われた、柔らかく張りのある肌に、母は籐でできた棒を力いっぱい叩きつけた。
線香のにおいのする、誰だかよくわからない遺影の前で、それは行われた。
他の兄妹と違って私と「お前んちの親父」と実の夫をまるで赤の他人のように蔑む母の姿をみて、自分は両親の本当の子ではないと思っていた。
若いころの両親は、感情が不安定で、常に顔色の変化を伺っていないといけないほど、とても気難しい人だった。
そんな私にとって、両親に身体を痛めつけられることが唯一自分が愛されているという事を確かめる手段なった。
それから十数年。
打撲より裂傷の方がより多くの快感を得られる。
痛みが続く時間が長いからだ。
流れ出る血液の色がさらに気持ちを高揚させる。
身体を切り裂く痛みは殴られるそれと違って、痛みの周波数が高く、それが高ければ高いほど、より多くの快感を得ることができた。
世の中にあふれる愛というものはすべて偽り。
私はどこかで愛されるという思考回路がこんがらがってしまった。
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