HACCPを日常生活へ(改訂版)~不安症に捧ぐ~


筆者は普段、主に食の安全・安心に関わることについて相談を受け、その問題を解決する為の助言やサポートなどに関わっております。

その過程で、HACCP(ハサップ)やPDCAサイクルなどのMS(マネジメントシステム)の導入についても関わってきました。

HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point(ハサップ))は、直訳すると「危害分析及び重要管理点」となり、従来の食品製造における食品の安全性を確認する衛生管理の手法が、最終製品の抜き取り検査による確認であったのに対し、HACCPでは、食品提供の一連の各工程(原材料受入~最終製品の提供)それぞれについて、食品事故に繋がりうる危害を分析(Hazard Analysis(HA))し、見出された危害を排除する方法を挙げ、一連の行程中でその危害を排除する工程を絶対に外せない重要な管理点(Critical Control Point(CCP))と定義し、CCPを実行することで、理論上、全ての危害を排除し、安全な食品を製造することを実現するという仕組みとなります。
ただし、そもそも汚い手指で食品に触れてしまったり、不衛生な環境での食品製造をすることで環境に由来して食品の安全性が損なわれてしまうなど、HACCPそのものではカバーしきれない部分が食品製造の現場にはあります。このような衛生管理の考え方をHACCPでは「前提条件プログラム(Prerequisite Programalysis(PP)」といい、HACCPは前提条件プログラムがあって、はじめて成り立つ仕組みとなる訳です。尚、この前提条件プログラムは日本国内では「一般衛生管理」と考えられております。

またPDCAサイクルは、企業などをはじめとする組織を対象に、提供するサービスや製品の品質を維持しつつ、さらに計画(Plan)をたて、実行(Do)し、その効果を評価(Check)し、その評価に従って行動を起こし(改善(Act))、これらを循環することで組織として目標を達成していく仕組みとされています。

ここまで述べてきました「HACCP」や「PDCAサイクル」の考え方は、何も組織や食品製造の現場でしか利用できない!…というものではありません。一部の解釈を変化させることで、その他の仕事や日常生活を含む全ての分野で取り入れることの出来る考え方であると筆者は考えております。

本書では、筆者の経験も含め、HACCPを日常生活に取り入れる考え方とその応用例についてご紹介させて頂きたいと思います。
尚、HACCPの考え方に不慣れな方でも、なるべくイメージしやすいよう、かみ砕いた説明を心がけておりますが、文章慣れしていないため、拙い文章となってしまっているかもしれませんが、ご容赦下さい。

1.HACCPを日常生活へ

HACCPは先も述べたように、一連の工程について、各工程における危害を分析し、絶対に外せない重要管理点(CCP)を設け、管理していく考え方です。従って、日常生活においても同様に危害分析と重要管理点を設けることで日々の日常生活を理論上安全に送ることが出来るようになる訳です。
では具体的にどのような場面でHACCPの考え方を日常生活に応用できるのか?
それは、普段あなたが日常生活を送る上で「リスク」を感じている部分について、HACCPの考え方を用いて「リスク管理」をすることで、日常にHACCPを取り入れられる訳です。

例えば、よく「財布を忘れた…」とか「こたつの電源切ったっけ…」など、日常生活を送る上で「困った…」や「不安だ…」といったご経験はありませんでしょうか?
いざ旅行に行こうとした日に、駅前まで来た所で、「あれ…こたつの電源切ったかな…」とか、いざ切符を買おうとしたら財布がなく、家に忘れたのか、それとも駅に行く道中で落とした可能性はないか…といったような不安が生じると、折角の楽しい旅行も不安や不備によって楽しめなくなってしまうことがあるかもしれません。
しっかりとした管理がされていないと、精神的な負担が増え、不利益が生じる恐れがあります。

このような時に、「財布を忘れるリスク」や「こたつの電源を切り忘れるリスク」について、HACCPをすることで、そのリスクを理論上、解消することが出来るようになります。
その方法を下記に具体的にご紹介します。

【危害分析】
まずは各リスクについて、危害分析を行いましょう。食品製造では、危害分析は主に「生物学的危害」「化学的危害」「物理学的危害」の3つの危害について分析を行いますが、

日常生活HACCPについては「物理的危害」「心理的危害」「経済的危害」について考えていきましょう。
例えば「財布を忘れるリスク」については、「財布をカバンにしまい忘れる」「机の上に置きっぱなしにしてしまう」「家を出る直線に棚上に置いて、そのまま忘れて外出してしまう」などといった危害が挙げられるかと思います。

【重要管理点(CCP)】
ここで、これらの危害を排除する為には、「家を出る時に財布を所持している」状態にすることで、その危害を排除することが出来る訳です。つまり、「家を出る時に財布を所持している」ことが「財布を忘れるリスク」における、絶対にはずせない重要な管理点…つまりCCPとなる訳です。
では、どのようにすれば「家を出る時に財布を所持している」ことを確実に行えるか?ここからのやり方は人それぞれ、やりやすい好みの方法を考えて採用して下さい。「チェックリストを設けて家を出る際に確認記録をとることを習慣化する」でも良いですし、「常に財布を首からぶら下げて肌身離さず所持することで絶対に忘れないようにする」とかでも良いです。とにかくCCPは絶対外せない重要管理点ですので、この確認は絶対に怠ってはいけない訳です。自分自身が確実に実行できる方法を採用するようにして下さい。ちなみに筆者の場合は「家の鍵を財布の中にしまう」ようにしています。これにより、家を出る際には必ず鍵を掛ける必要があり、理論上、財布を忘れられないような仕組みにして管理をしています。

以下に財布忘れ物防止HACCPについてまとめてみます。

もう一例として「こたつの電源を切り忘れた時のHACCP」についても同様に考えてみましょう。

【危害分析】
こたつの電源を切り忘れた場合、「こたつの電源を消し忘れたまま外出をして火事に発展してしまう」や「消したつもりが誤動作によってタイマーが設定がされてしまった」などといった危害が挙げられるかと思います。

【重要管理点】
ではこの危害を排除する為にはどのようなCCPを設ければ良いか、「電源を確実に消して確認記録をとる」「家を出る前に電源コードを抜く、ブレーカーを落とすなどを習慣化し記録する」などが挙げられます。
筆者は「スマートプラグに接続し、外出の際は電源タップの電源が切れる仕組みとすること」としています。この電源タップを用いた管理は、電源タップの電源を切ることをCCPとして、外出時に必ず確認記録する仕組みにすることで、こたつに限らずに電気アイロンなどの様々な電化製品の切り忘れ防止に繋げられる為、お勧めです。

こたつの電気切り忘れ防止HACCPについてまとめてみます。

【前提条件プログラム】
これらHACCPを行う上で、HACCPを成り立たせる為の「前提条件プログラム」があることも忘れてはいけません。上述した例題で例えれば、「家の鍵を財布の中にしまう」ことで「財布を忘れるリスク」をクリアする為には、そもそも「家を出る時に鍵をかける」という行為が抜けてしまうとこのHACCPは成り立たなくなる訳です。このようにHACCPを成り立たせる為には、その前提となる条件が正しく機能しているかを検証することも重要な要因となります。

【PDCAサイクル】
色々と述べさせて頂きましたが、HACCPを行う上で一番大事なことは、「いきなり完璧なものを求めることはしない」ということだと筆者は考えております。よく危害分析をする時に、「自分が思いつく限りは危害を挙げてみたが、自分が思いついていないだけでもっと危害があるかもしれない…」や、「重要管理点も本当にこれで良いのかわからない…、自分の思いつかないもっと良い方法があるかもしれない…」といった不安が働き、なかなか思うように行動に移せない、HACCPを実行できないという方もいらっしゃるかと思います。「完璧な管理」というものは残念ながら存在しません。どんな場合でも思いもよらないリスクが潜んでいる可能性は否定できないものです。従って、自分の思いつかない危害については考える必要はなく、実際にHACCP運用を行っていき、その過程で「あれが足りないな…」とか「もっとこうした方が良いな…」といった改善点が見いだせたなら、その都度、新しい危害分析と重要管理点を設けていき、常に「改善」を施して運用していくことが重要となります。このように、HACCPを計画(Plan)し、実際に実行(Do)し、改善点がないか確認(check)し、改善点が見いだされた場合には、都度改善を施していく(Act)、PDCAサイクルを回していくことこそが重要だと筆者は考えております。

いかがでしたでしょうか?
他にも「ガスコンロの火の消し忘れ」「洗濯機の水漏れ」等、様々な日常生活にHACCPの考え方が応用可能になります。
ぜひ、日々の生活にHACCPの考え方を導入して不安のない生活を送りましょう!

お読み頂きありがとうございます。

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