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「自社施工の場合のみ部品を売る」は独禁法違反とされた判例
登場人物
被告 Y エレベーターメーカーの、系列の保守会社
原告 X1 ビルを所有している会社
原告 X2 独立系の保守会社
(今回は訴えた側が共同原告=複数の方が一体となって訴えています)
事実の概要
事件1
X1はビルを保有し、Y製エレベーター保守を独立系業者に委託していた。
エレベーターでトラブルが発生、部品交換が必要となり、X1はYに部品を発注。
Yは「取替工事とセットでなければ部品を販売しない。なお納期は3ヶ月先になる」と回答。
X1はトラブルを解消できず、Yに督促したが、その後も部品は提供されなかった。
事件2
X2は独立系の保守会社であった。製品トラブル発生時、Yから部品を売ってもらえず、別会社経由で発注したが、納期は3ヶ月後と言われた。
ビル所有者から「部品が入手できないようなら完全なメンテナンスはできないのではないか」と言われ、保守契約を解約することとなり、その後ビル所有者はYに保守委託先を切り替えた。
X1とX2は、Yの行為は不公正な取引方法に該当し、独占禁止法19条に違反するとして、不法行為による損害賠償を求めて訴えた。
Yの主張
Y製エレベーターは、Yだけが安全に保守できる。安全性に影響を及ぼす部品は、Yで工事をする必要がある。
部品販売を強制されることは、Yのノウハウ流出につながり、ライバルの育成を強制されることであり不合理である。
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関連法令
独禁法 第十九条(不公正な取引方法の禁止)
事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。
独禁法 2条(定義)一部抜粋
(9) この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。
六 (略)公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの
不公正な取引方法(昭和五十七年六月十八日公正取引委員会告示第十五号)一部抜粋
(抱き合わせ販売等)
10 相手方に対し、不当に、商品又は役務の供給に併せて他の商品又は役務を自己又は自己の指定する事業者から購入させ、その他自己又は自己の指定する事業者と取引するように強制すること。
(競争者に対する取引妨害)
14 自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引について、契約の成立の阻止、契約の不履行の誘引その他いかなる方法をもつてするかを問わず、その取引を不当に妨害すること。
裁判所の判断
Yの行為は独占禁止法違反であり、不法行為にあたる。YはXらに損害を賠償しろ
Y製エレベーターの保守に関しては、Yが90%のシェアを有している。Yは保守を一手に独占し、独立系保守業者を排除しようとの意図の下に本件行為を行ったものと推認できる。
Yは以前から部品供給について公正取引委員会から警告をうけていた。独占禁止法違反することを認識していたか、認識が可能であったといえ、故意または過失でXらに損害を与えたものであり、不法行為にあたる。
Yでないと、安全に施工できない、との主張について
Yは自社でないと安全に施工できないと主張している。安全性確保の必要性は、「不当に妨害」したかどうかの検討にあたり考慮できる。今回の判断は以下のとおり。
独立系保守事業者のほうが事故が多いという証拠はない。
本件に関連する独立系事業者は、Yと比較すれば技術が劣るとしても、安全性に関して、部品単体の供給を受けて、現実的故障を修理するに足りる程度には技術水準が達していたとみてよい。
本件では部品単体を販売すると安全性を確保できないと認めるべき証拠は存しない。
Yのノウハウ流出、ライバル育成の強制になる、との主張について
長期使用が前提のエレベーターで、部品に関して安全性の危険が予想される場合、Yは販売者として、警告や指示を可能な限り行うべきである。
ノウハウ保護の名目で、これらの警告や指示を行わず、自己の系列の保守会社にだけ部品を供給し、市場支配力を高めようとすることは許されない。
販売者は部品を迅速に提供する義務がある
エレベーターは長期使用が前提で、他社部品は使用しにくい。またYは販売者として、製品数、部品数、耐用年数、故障の頻度を容易に把握できる。
上記考慮すれば、部品を一定期間常備し、必要に応じて迅速に供給することは、販売に付随した当然の義務である。
上記のとおり、Yは部品の供給義務があるところ、保守契約がないことなどを理由に、納期を3ヶ月も先にする事に合理性があるとは到底みられず、事件1は「抱き合わせ販売」にあたる。事件2は「不当な取引妨害行為」にあたる。
まとめ
メーカーは(製品の性質によりますが)の当然の義務として、機器の運用に通常必要な知識は伝えなければならない。ライバル会社でも。
メーカーは(製品の性質によりますが)部品を一定期間常備し、迅速に供給する義務がある
大阪高判平5年7月30日 判タ833号62頁、判時1479号21頁