![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/159413155/rectangle_large_type_2_6950c9cc223543ce5f15f19d78f4cdc4.png?width=1200)
契約書の「いつ壊れてもおかしくない」「現状有姿」「一切免責」は、不具合わざと伝えず売った場合、無効とした判例
登場人物
売主 不動産を売った 訴えられた
買主 不動産を買った 訴えた
「本件物件」埼玉県坂戸市、139㎡の土地に建っている築42年の木造2階建て延床91.64㎡
事実の概要
買主は、不動産投資に興味があり、不動産を探していたところ、本件物件の情報を見つけ買うことにした。
内見不可とのことであったため、室内を見ずに本物件を350万円で購入。売買契約を締結した。契約には以下の条文があった。
・本契約が契約違反により解除された場合、解除者は相手方に20%相当の違約金を請求できる。違約金は損害の多寡にかかわらず増減しない。
・本物件は築42年経過しており、建物および付属設備は耐用年数を過ぎている。屋根、躯体、構造、電気は異性などについて、相当の自然損耗、経年劣化が確認されています。いつ壊れてもおかしくない状態です。
・本件は中古のため、現状有姿での引渡しとなり、瑕疵担保責任および付帯設備保証は免責とします。
・売主は対象不動産の隠れたる瑕疵について、一切責任を負わないものとします。
買主は、購入2日後、本件物件を借りて住んでいる賃借人に挨拶に行ったところ「雨漏りで生活ができない状況なので退去する。不動産会社経由で前の家主にも伝えている」と言われてしまった。
買主は上記を知っていれば物件を買わなかった、代金、登記費用、仲介手数料、違約金20%、弁護士費用、また売主を詐欺で刑事告訴するのにかかる費用も合わせて507万円を払えとして、売主を訴えた。
![](https://assets.st-note.com/img/1729932123-TtryQfwYzJD6plEm84GMCFn1.png?width=1200)
売主の主張
賃借人からは、カーテンが湿気っているなどの相談を受けていただけで、雨漏りは知らない。そもそも物件が相当ボロボロであり、いつ壊れてもおかしくないことを買主に説明していた。虚偽の説明はしていない。
雨漏りは70万程度の小修繕で修理でき、契約の目的を達せられないほど重要なものではなく、契約解除は認められない。
もし、買主の損害が認められるとしても、契約により、支払いが必要なのは違約金20%だけである。
物件をきちんと調査せず、漫然と物件を購入した買主にも過失がある。過失相殺がなされる。
さらに、買主から、自分が詐欺の犯罪を行ったかのような通知が来て恐怖を感じた。この精神的苦痛は慰謝料30万円相当にはなるので、過失相殺で減額された違約金と相殺され、支払いは必要ない。
買主の主張
契約書類の物件の状況確認書には、「現在まで雨漏りを発見していない」にチェックがあり、売主の署名捺印がされている。この説明は虚偽であり、欺罔行為である。
契約書の瑕疵担保免責は、売主が悪意の場合は適用されない。
違約金は、債務不履行の場合の上限を定めたもので、今回は不法行為での請求のため上限として関係がない。
関連条文
民法第572条(担保責任を負わない旨の特約)
売主は、(中略)担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。
裁判所の判断
売主は404万円を買主に支払え
売主は、本件物件の価値を大きく毀損する雨漏りが生じており、賃借人がこれを理由に退去する予定であると知りながら、この事実を告げず、さらに雨漏りを否定していた。
売主は投資用物件としての資産価値を決定的に左右する点について、虚偽の事実を告知したと言わざるをえず、それにより買主に契約を締結させ、代金を得ている。
買主は不法行為に基づく損害賠償請求権を有するというべきである。
売主は瑕疵を知っていながら買主に告げなかったものであるから、契約書の瑕疵担保免責の条文は、援用することはできない。
賠償額の計算について
違約金は、契約違反の場合の責任を定めたもので、不法行為の場合の責任について上限を定めたものではない。
売主は物件代金、登記費用、仲介手数料、弁護士費用を賠償すべき。
違約金20%は契約違反の違約金のため、今回不法行為の請求では、買主は請求できない。
売主を刑事告訴するためにかかった費用は、本件と相当因果関係の範囲といえず、請求できない。
得られた教訓と感想
(売主側の場合)免責を付けた場合でも、相手が重視するポイントで、自分がすでに把握している情報は、正しく相手に伝える。
東京地判令和4年2月17日 令和2年(ワ)10411