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入金リンク条項は「払うか払わないかわからない」ではなく「必ず払うがいつかわからない」だと認定された事件
入金リンク条項とは
入金リンクとは、第三者から入金され次第支払う、という支払条件を指します。
例:「お客様から入金され次第、御社に払います」法律用語でなく、業界用語?です。
事実の概要
Aは、入札により、浄水所の監視設備設置機器の納入(公共工事)を請け負った。
商流は以下のとおりであった。
水道局→A社→B社→C社→D社→Y社(被告:訴えられた)→X社(原告:訴えた)Y→Xの発注請書には「支払いは入金リンクとする」との記載があった。
Xは機械を作成し、水道局に納入した。
水道局は機器の代金3億円を支払ったが、A社→B社→C社と支払ったところで、C社が破産してしまったため、Yも、Xも代金を受け取れなかった。
Xは、Yに対して、支払いを求める訴訟を提起した。
本件特有の事情
機器はすべてXが作成し、実際の打ち合わせはAとXが直接行った。
A→Xの契約としなかったのは、AとXが、どちらも入札に参加した業者であったため、談合の疑いを招かないためBCDYに頼んで間に入ってもらったものである。
Yの利益はゼロ(仕入れと販売価格が同じ)であり、Yは、万一入金がなければ支払わなくても良いと、Y社を勧誘したC社から説明をうけていた。
裁判の経緯
第1審 地裁 請求棄却。(X敗訴)
入金リンク条項があり、Yが代金を受け取っていないのだから、Yは支払う必要はない。
第2審 高裁 請求棄却。(X敗訴)
同上。Xも、Yも、Yは請負代金を通過させるだけの役割であるとの理解していたのだから、入金リンク条項に基づき支払う必要はない。
最高裁の判断
判決破棄差戻し。(X勝訴)
入金リンク条項は、「停止条件=払うか払わないかわからない」を定めたものではなく、「不確定期限=いつかわからないが必ず支払う」を定めたものであり、Yには支払う義務がある。支払期限がすでに到来しているかどうかは、高裁であらためて審議すること。
下請負人が、仕事を完成させ、引渡しを完了したにも関わらず、その支払を受けられない旨の合意をするということは、通常想定し難いというほかない。
特に今回は、「3億円と高額である」「公共機関の支払いで、確実な支払いが想定される」ため、Xが自分が代金受領できないことを承諾していたとは到底解し難い。
まり、本件においては、発注請書の「入金リンク条項」は、支払いの「停止条件」を定めたものでなく、「不確定期限」の合意だと解することが相当である。
補足説明(条件・期限)
停止条件=ある条件が達成された場合、そこから法律効果が発生する条件。
不確定期限=必ずやるが、いつやるかわからない期限。
例:支払いは出世払いとする
停止条件であるとした場合:「出世しない限り支払う必要はない。」
不確定期限であるとした場合:①「出世できた時点払う」②「出世の見込みが完全になくなった時点で支払う」のどちらか。
※余談ですが支払いは出世払いとする、は過去の判例で、後者「不確定期限」の方であるとされています。(大判大4.3.24)
得られた教訓と感想
「入金リンク」をやむを得ず利用する場合、停止条件なのか、不確定期限なのか、明確に書いておく。
相手に不利な条件で作成する場合には、なぜ相手が不利な条件を飲んだのかの経緯も明確にしておく。
入金リンク条文で、取引先に入金がなかったとしても、不確定期限であることが明らかであれば、支払いを請求できる可能性があるので、あきらめない。
利益も無いのに、無駄に商流に入らないこと。
最判平22.10.14 請負代金請求事件
※この裁判では、Xは、Aに対して「不法行為」「暗黙でYの債務をAが連帯保証していた」とも主張していますが、どちらも裁判所に認められませんでした。