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秘密管理できていなかったため、退職者が持ち出した顧客情報が営業秘密でないと判断された判例

登場人物

  • 原告 R社 まつげエクステ店

  • 被告 A  R社で働いていた元従業員

事実の概要

  • AはR社が運営するまつげエクステ店に入社し、しばらくして退職した。

  • AはR社から数百メートルの同業に転職した。

  • Aは転職後、R社で一緒に働いていた元同僚に「私の友達のカルテ,もらえたりしないかな?誰にもバレずに」と連絡。Aの中学の同級生の顧客カルテ画像を2件送ってもらった。

  • 元同僚は送ったのち、店長に送ったことを報告。R社店長は激怒し、「不正競争防止法違反で刑事告訴を検討している」旨の通告書をAが働いている店の経営者に送付。

  • Aは、上記通告書をうけて元同僚に「「私に友達のカルテ送ったことだけは内緒でお願いします!」「それがバレるかどうかで左右されるっぽい!」などのメッセージを送った。

  • その後、R社は、Aと経営者を共同被告として、不正競争防止法上のにより損害賠償15万円の支払いと、顧客情報の使用差止を求める民事訴訟を提起した。


関連法令

不正競争防止法2条6項
6 この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。

R社の主張

顧客カルテの秘密管理性について

  • 閲覧、使用できる者は従業員に限定されていた。

  • バインダーに綴じて専用の棚に保管していた。

  • 就業規則で退職後の漏洩を禁止しており、顧客情報を持ち出さないことが約束されていた。

  • 店内に防犯カメラを設置し、情報の不正取得や漏洩を監視していた。

  • Aはやりとりを内密にするようメッセージを送っており、これは秘密として管理されていることを認識していた証拠である。

顧客カルテの有用性、非公知性について

  • 顧客カルテは、顧客に施術をした太さ、長さ、本数、カール、デザイン、顧客の好みや要望、まつ毛の状態、クセ、流れ、エクステを装着する目的、技術担当者に求めるニーズ、顧客の特徴、性格、人柄、注意点などを瞬時に確認することができる情報であり、事業活動にとって有用な営業上の情報であるといえる。

  • 顧客情報は開業以来、外部漏洩したり、第三者開示したことがなく、公然と知られていない。

裁判所の判断

営業秘密には該当しない。賠償の必要はない。

  • 顧客カルテには、それが秘密であることを表すマークは付いていなかった。

  • 顧客カルテが綴られたバインダーが保管されていたバックルームは施錠されず、従業員は自由に入退室できた。

  • 顧客カルテをスタッフ間でやりとりする場合、従業員全員が加入したLINEグループに顧客カルテを撮影して、画像を共有していた。送信後のメッセージ消去はされていなかった。そのため、全従業員の私用スマートフォンにも画像が保存されていた。この画像共有は、店長の許可など特別な手続きは必要なく、日常業務として行われた。

  • R社は就業規則と顧客カルテの管理マニュアルを定めているが、LINEグループなどの事項は定められておらず、また顧客カルテが秘密であるとは示されていない。

  • 監視カメラが設置されていたが、一般的な防犯対策のためのものであり、顧客カルテを秘密として管理していたことになるとは言えない。

  • R社は、Aが隠蔽しようとしたことは、顧客カルテが秘密情報だと認識している証拠だ、と主張するが、AとR社店長は退職時点で関係が相当悪化しており、単に自身の行為を知られたくないだけとも考えられる。逆に、頼まれた元同僚はすぐに送信していることもあり、このやりとりが、AやR社の従業員が、顧客カルテが秘密情報だと認識していたという根拠となるものではない。

  • 以上のとおり、客観的な利用、保存を含めた管理の状況、顧客カルテが秘密であることを直接示す記載の欠如や、それが秘密であると認識させる事情の少なさ等を総合的に考慮すると、顧客カルテは「秘密として管理されている」とは言えない。

  • 秘密管理性を欠くため、その他を判断するまでもなく、顧客カルテは営業秘密であるとは認められない。

得られた教訓と感想

  • 施錠、秘密の表示など、情報セキュリティルールを作成して遵守する。


平成31(ワ)10672等 損害賠償請求事件https://ipforce.jp/Hanketsu/jiken/no/13003

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