見出し画像

偽装請負だったため、委託先社員を「直接雇用している」と判断された判例

関連法令

派遣法では、以下の場合、自動的に「会社が派遣社員に直接雇用を申し込んだ」とみなされます。

労働者派遣法40条の6(意訳)
派遣先の企業が、以下に該当した場合は、派遣元企業と同じ労働条件で、派遣社員に直接雇用の申込みをしたものとみなす。ただし善意無過失の場合はこの限りではない。
派遣が禁止されている業務で、派遣を受け入れていた場合
(建設業、警備業務、湾岸運送など指定の業務は派遣が禁止されています)
無許可の派遣会社から、派遣社員を受け入れていた場合
 (派遣会社は免許が必要)
派遣が可能な期間を超えて、派遣社員を受け入れていた場合
 (同一組織・事業所への派遣契約で3年期限、同一個人で3年期限)
・偽装請負の場合

登場人物

  • Xら 原告(訴えた)Y社に派遣され、業務を行っていた。

  • 「Y社」 被告(訴えられた) 派遣を受けていた

  • ライフ社 Xらを派遣していた

事実の概要

  • Y社はライフ社と業務請負契約を締結。XらはY社の工場で業務をしていた。

  • ライフ社は経営不振で請負契約を終了することとし、その後を派遣会社Q社が引き継ぐことになった。

  • Q社が面接をした結果、XらはQ社に雇用されることができず、整理解雇されてしまった。

  • Xらは「Y社での請負業務は、偽装請負だったたため、自分たちは労働法60条の6により直接雇用の申込みをY社から受けている状態であり、その申込に承諾する。Y社との雇用が成立した」と主張して、労働組合を結成し、Y社に団体交渉を申し込んだ。

  • さらに、Xらは上記申込みに承諾した時期から、裁判判決確定日までの給与の支払いを求め、Y社を訴えた。


判断基準

派遣か請負かを区分する判断基準は、更生労働省が告示を出しており、裁判所もこれを基準に判断をしています。

労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準を定める告示(昭和61年4月17日労働省告示第37号)
(内容意訳)以下にひとつでも該当しないものがある場合、派遣である。
業務指示や管理を自社で行っている。
①業務遂行の指示を自社で行っている ②評価も自社で行っている
労働時間に関する指示や管理を自社で行っている。
①始業終業休憩休日を自社で管理 ②残業や休日出勤の指示を自社で行っている。
企業の秩序維持のための指示を自社で行っている。
①服務規律その他を自社で定めている ②配置を自社で決定している
請負した業務を自社で独立して処理している
①業務処理のための資金を自社で調達して払っている ②事業主として法律上の責任を負っている ③単に肉体的な労働力を提供するのではなく、自己の責任で道具・機材を準備し、自己の有する技術や経験で業務を処理している。

Y社の主張

  • 業務連絡はライフ社の責任者にしており、Xらに直接業務指示をしたことはないので、派遣ではない。

  • 「製造依頼書」を発行し、それに対してライフ社から「製造日程表」が出された。これにより請負契約を締結しているものである。

  • 製造ラインはY社のラインを月額2万円で貸出しており、ライフ社はこれにより、自社で機材を確保していたといえるから、派遣ではない。

  • 派遣法40条の6により直接契約になるとしても、条件は「派遣元との契約と同じ条件」であるが、Xらはすでに整理解雇されているため、ライフ社との雇用契約がなく、40条の6を適用することはできない。

  • ライフ社と派遣社員との元の雇用契約は「4ヶ月更新」であった。仮に直接雇用になるとしても、Y社と派遣社員の雇用契約も同じ条件となるため、雇用契約は短期で終了している。

Xらの主張

  • ライフ社に入社する際、社長から「うちは請負でやっていて、派遣と違い期限の定めがないから、ずっと同じ職場で働ける」と言われている。

  • ライフ社との契約の署名捺印は入社時にしかしていないし、4ヶ月ごとの更新手続きをしたことはなく、無期限の雇用契約である。

裁判所の判断

偽装請負であった。Y社とXらは直接雇用が成立する。Y社はXらが直接雇用に承諾した日から、裁判判決確定日までの給与をXらに支払え

偽装請負かどうか

  • Y社は、業務指示はライフ社責任者へしており、Xらに直接指示していないと主張する。しかし、上長を経由して情報伝達するのは自社内でも同様であるし、直接やりとりしていないからといって業務指示をしていないと言うことはできない。指示の内容を見ると、具体的な作業手順であり、具体的な業務遂行上の指示がなされていると評価するほかない。

  • Y社は、ライフ社が「製造日程表」をYに提出しているので請負であると主張するが、ライフ社が「製造日程表」を作成するにあたり、作業速度、作業の割付、順序を自らの判断でできたとは考えられない。また、品質検査や検品もライフ社が行っていたとは考えられず、「製造日程表」の存在はむしろ、Y社が現場の労働力を直接支配していたことを伺わせる。

  • ライフ社は、就業時間、休憩時間、休日、休暇について定めて勤怠管理を行っていた。しかし、Xらが、ライフ社が管理していない品質会議に出席していたり、Y社社員がXらに残業が必要と伝えていたり、また、不良品が発生しXらの労働時間を変更した際も、ライフ社がこれに関与していた事実が認められない。ライフ社、単に労働時間を形式的に把握していただけで、労働時間を管理していたとは認められない。

  • さらに、ライフ社従業員が事故を起こした際、請負であれば自社で有給休暇をとらせたり、応援者を手配するはずが、有給の取得はライフ社従業員がY社の係長に連絡することで調整されており、請負の要件を満たしていない。

  • 製造品に不具合が発生した場合も、ライフ社が法的責任の履行を求められたことがなく、請負人としての法律上の責任を負っていたとは認められない。

  • 製造品の材料も、Y社が調達しており、ライフ社が調達していたものではない。Y社の製造ラインをライフ社が2万円で借りて使用していたことについては、2万円の計算根拠が不明であり、これをもって機材や材料をライフ社が自己の責任で準備し、調達したということはできない。

  • 製造についての知識は、Y社からOJTで教わっており、自社の技術で独立して業務遂行していたということはできない。
    以上により、ライフ社の請負契約は、偽装請負状態であった。

雇用契約の内容

  • 雇用契約の期間については、ライフ社の社長が団体交渉で「そもそも、だってうちは有期雇用じゃないから。もともと」と発言しており、ライフ社とXらの雇用契約は、期限の定めのないものであったと認めるのが相当である。

  • Xらの雇用契約の申し出に承諾する意思表示をもって、直接雇用契約がされたと解するのが相当である。

  • 労働者派遣法40条の6の申し出は、偽装派遣などがあってから1年以内という制限があるだけであり、同期間内であれば、派遣元から整理解雇されていても、派遣先との間で労働契約が成立する。

得られた教訓と感想

  • 偽装請負と判断されないよう、業務請負の場合は、判断基準に明記された内容で業務を区別する。


東リ事件 大阪高判令3.11.4(労判1253号60頁)

いいなと思ったら応援しよう!