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一方が随時内容変更できるとした契約は、公序良俗違反で無効か?が判断された判例

登場人物

  • X社 中古車業者 原告

  • Y社 ネット企業 中古車情報ポータルサイトを運営 被告

事実の概要

  • X社は、Y社の中古車ポータルを利用することとし、約款に同意、さらに契約書を締結し、利用を開始した。

  • 数年後、Y社はソフトバンクに買収され、中古車情報ポータルサイトはYahoo自動車情報に統合されることなり、サイトは閉鎖されることとなった。

  • Y社はサイト閉鎖の2ヶ月前にXに「サービス終了のお知らせ」を送付したが、Xから抗議をうけた。その後YはXに解約合意書を送付したが、Xはこの作成に同意しなかった。

  • Y社は予定どおりの期日でサービスを終了した。なお、X社とY社の契約期間終期は8月、サイト終了は6月であった。

  • X社はサイトの一方的な終了により損害を受けたとして、1500万の損害を求めてYを訴えた。


契約書と約款の条文

有効期間
契約締結日から契約締結日の翌月1日の1年後までとする。有効期間の1ヶ月前までにXまたはYによる更新をしない旨の通知をしない限り、さらに1年間更新されるものとし、以後も同様とする。

契約の変更
本件契約に定める内容を変更又は修正を行う場合には、Yにおける事前の書面、もしくはYウェブサイト上における通知をもってのみ、本契約を変更することができる。この場合、対象車種、対象地域、サービス料金その他の条件は、変更後の内容に従うものとする。

Xの主張

  • サイトは、Web告知のうえXに事前通知をして終了したものであり、契約内容に従ったものであるから、債務不履行や不法行為にあたらない。

  • 仮に上記の主張が認められない場合も、本サービスは委任契約であり、民法651条項に基づく無理由解除がみとめられる。

  • 予告期間をおいてサービスの停止を行った。またXに不利な時期に解除したものではないから、損害賠償義務を負わない。

Yの主張

  • 契約書、約款におけるYのみが一方的かつ無制限に契約内容を変更できるという著しく不均衡な規定は、公序良俗に反し無効である。

  • 有効期間と自動更新が定められており、民法651条1項の無理由解除は放棄されている。

  • 仮に無理由解除が有効であるとしても、不利な時期に解除されたことによる損害が発生しているからXは賠償責任を免れない。

関連条文

民法 第651条(委任の解除)
委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
前項の規定により委任の解除をした者は、次に掲げる場合には、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。
一 相手方に不利な時期に委任を解除したとき。
二 委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき。

裁判所の判断

Yのサービス停止は、不法行為や債務不履行にあたらない。

  • 契約書(契約の変更)条項は、所定の手続きを経て契約変更できることを両者が合意したものということができ、同合意が直ちに公序良俗に反し無効ということはできない。

  • もっとも、両者の合理的意思などに照らせば、(契約の変更)条項がYに無制限の変更権を付与したと解することはできず、その範囲は内容、理由、当事者の不利益の有無やその程度に照らし正当なものに限られると解される。

  • 提供するサービスの内容を停止することは、それが合理的なものである限り許容し得るものと解され、本契約の約定においてこれを禁止する定めは見当たらない。

  • 本件においては、Yは筆頭株主の変更に伴う事業統合の一貫としてサービスを停止したが、それ自体が不当な理由によるものということはできない。

  • Yはサービス停止の2ヶ月前にXに予告している。契約上の更新拒絶の予告期間が1ヶ月であることからすれば、予告期間が相当性を欠くということはできない。

  • 契約期間は1年契約であり、1ヶ月前予告により不更新できるいということからすれば、本件でよって生じるXの不利益が看破し得ないものと評価することはできない。

本件から得られる教訓

  • 契約期間は、当事者の合意内容として考慮される。自動更新があるからといって適当に設定せず、取引実態に合わせる。

  • 「当社は一方的に契約を変更することができる」との条項は即座に無効とはならないが、その範囲は『内容、理由、当事者の不利益の有無やその程度に照らし正当なものに限られる』」

民法改正「定形約款」

本判例は民法改正前の判例であり、改正後の現在、「定形約款」であった場合には、一方的変更に以下の変更がかかります。

民法第548条の4
1.定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。
一 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
二 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。

東京地判平27年8月21日 D1-Law 判例ID:29013398

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