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顧客への教育指導ができていなかったとされ、火災の7割の責任をとらされた事例
関係者
メーカー ゴミ処理場を建設した。(原告、訴えた)
衛生組合 ゴミ処理場の所有者で発注者。(この裁判には参加していない)
運営会社 衛生組合から業務委託され、ゴミ処理場の実運営をしている。また、火災後、衛生組合から、ゴミ処理場復旧に関する債権債務を譲渡された。(被告 訴えられた)
事実の概要
メーカーは、衛生組合から、「プラズマトーチの火炎によりゴミを溶解するガス化焼却施設」(ごみ処理施設)の建設を請負い、完成させ、引き渡した。
引き渡しから2年半後、落雷により、4度停電があった。
ごみ処理施設は、3度は正しく停電から復旧できたが、4度目は操作手順が誤っていたことにより、炉内が高温になったうえ排気が塞がれ、火災が発生。一部箇所が火災で滅失した。
衛生組合は、メーカーに復旧工事を要請。メーカーは復旧工事を行い、代金として2,896万円を請求した。
衛生組合の債権債務の譲渡先である運営会社が復旧工事の代金を支払わなかったため、メーカーは代金の支払いを求めて訴えた。
運営会社の主張
火災はメーカーの責任であり、復旧工事費用を支払う必要はない。
ごみ処理施設建設工事の仕様書には、メーカーが「本件施設に配属される職員に対し、円滑な創業に必要な機器の管理、取扱いについて十分な教育指導を行う」とある。
メーカーは、異常時対応の指導を怠り、誤った内容を伝えたうえ、マニュアルも交付していなかったので、火災が起きた。「十分な教育指導」とはいえず、債務不履行責任がある。
「本件施設に配属される職員」とは、衛生組合だけでなく、実際に運営する運営会社の職員への指導も含まれており、運営会社職員は、異常時の正しい指導を受けていない。
なお、復旧工事の発注は、メーカーに責任がなかった場合に代金を払う、と約束したにすぎない。今回はメーカーに責任があるので、そもそも契約は錯誤により無効である。
メーカーの主張
復旧工事契約を締結し、合意書がある。
産業廃棄物処理法上、マニュアルの作成は、衛生組合の「技術管理者」の仕事である。契約上も、メーカーがマニュアルを作成するとの内容は含まれていない。
メーカーが指導すべき「本件施設に配置される職員」とは、産業廃棄物処理法の「技術管理者」を指し、運営会社含む、その他職員全体への指導は「技術管理者」の責任である。
なお、運営会社への教育指導も実施している。運営会社の職員14名の指導は、通常の能力を有することを前提に実施すれば足り、フォローは運営会社で行うとの合意書を締結しているので責任はない。
2年半施設は問題なく稼働しており、教育は十分であった。
裁判所の判断
メーカーは、本件火災の発生について7割の過失割合がある。メーカーは775万円のみ復旧工事費用を請求することができる。
復旧工事契約は書面合意があり、成立したと認めるのが相当。錯誤があったと認めるに足る証拠はない。
本件施設のように複雑かつ大規模なものは、その操作も複雑であり、メーカーから教育指導を受けなければ、特徴に応じた複雑な操作を的確に習得することは困難である。教育指導は、契約における重要な債務であるといえる。
教育指導義務は、契約から生じるものであって、産業廃棄物処理法の解釈から直ちに導かれるものではない。メーカーの教育の対象が「技術管理者」のみとは到底解されない。
メーカーは、マニュアルを交付するか、マニュアルを作成できるだけの十分な情報を提供すべき義務を負っていたというべきである。
運営会社が教育をフォローするとの合意をしても、メーカーが適切な教育をする義務を免れるものではない。
メーカーの異常時対応の指導は、不十分であったにとどまらず、不正確な内容であり、教育指導を尽くしていないと認められる。
さらに、正しい情報が伝えられていれば、火災が起きていなかったと考えられ、教育義務違反と火災の発生に因果関係が認められる。
上記を考慮すれば、火災の発生についての過失割合は、メーカーが7割、衛生組合と日本管材が3割と認められる。
得られた教訓と感想
「顧客に、使用方法を十分に教育する」といった条文には一定効果があり、注意したほうが良い。
東京地判平22年3月8日 判タ1353号138頁