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会社と完全精算条項をもって和解した従業員が、代表個人に対する訴訟を提起したのは問題がないとした判例

事実の概要

  • 原告「X会社」と 被告「Y社員」は、Y社員の解雇について労働審判を行い、調停において、Y社員がX会社の役員および従業員と今後一切の接触をしないことを条件に、X会社がY社員に1350万円の和解金を支払い、和解した。

・ X会社とY社員は、互いに、自らまたは第三者を介し、当事者双方、X会社の役員および従業員全員に対して、電話、郵便、電子メール等手段のいかんを問わず、一切接触しないことを確約する。
・ Y社員は、X会社に対し、Y社員が在職中に知ったX会社の企業秘密について一切口外しないことを確約する。
・ X会社とY社員の間には、本件調停内容を除き、何ら債権債務が無いことを相互に確認する。

調停内容 一部抜粋
  • Y社員は調停終結後、X会社社長に対して、事実の根拠を欠いた損害賠償訴訟を提起した。

  • X会社は、Y社員のX会社社長に対する訴訟提起は、完全精算条項違反であるとして訴訟を提起した。

X会社の主張

  • Y社員の訴訟提起は、完全合意条項違反である。

  • Y社員は訴訟の中で解雇に関連する状況を説明しており、口外禁止条項にも違反した。

  • 弁護士を通じてX会社社長に連絡しようとし、口外条項、接触禁止に違反した。

裁判所の判断


訴訟提起は調停合意に違反していない。

  • 調停では、清算条項は「X会社とY社員」の債権債務関係が存在しないことを確認する内容であり、「X会社社長とY社員」間の完全清算条項が合意されたことを認めるに足る的確な証拠はない。

  • 和解金の1350万円は、被告の主張する未払い分賃金を支払ったにすぎず、和解金の支払いをもってX会社社長とY社員間の完全精算条項が合意されたと認めることは困難である。

  • 口外禁止条項があっても、自己の正当な権利行使のために第三者に開示する必要が生じたり、公法上の義務に基づいて当該事項を第三者に開示する必要がある場合には、正当行為として当該事項を開示する必要性が認められる範囲の者に対して、該当事項を開示することが許容されるものと解される。

  • 例えば、本件訴訟において、Y社員が調停の内容を証拠として提出しても、その行為が違法と評価されないことは明らかである。Y社員には、憲法上の権利として裁判を受ける権利があり、結果敗訴したとしても違法と解されるわけではない。調停後、裁判で解雇に関する事実を主張したとしても、上記口外条項に違反したとはいえない。

  • 接触禁止条項があっても、特段事情のない限り、裁判や調停など公の手続きを利用する場合や、弁護士等の公正な第三者を通じて連絡をすることは、禁止されていないと解されるべきである。

得られた教訓と感想

  • 訴訟は憲法上の権利で制限できない→裁判内で必要な主張は許される→裁判は基本公開である

  • 必要に応じて完全精算条項に代表者や従業員も入れておくことを検討する


東京地判平29年3月27日

※その他、Y社員がX会社の虚偽情報を流布したり、企業秘密を近隣企業に配布した行為をしており、その点はY社員に不法行為上の損害賠償義務が認定されていますが、今回は省略しています。

#完全合意条項

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