契約書で著作権譲渡の対象に「ソースコード」を含まなかったため、他の会社に類似ソフトを作られてしまった判例
登場人物
「ベンダー」 原告、被告双方からそれぞれ頼まれ、ソフトウェアを開発した。
「Y社」 被告 訴えられた
「X社」 原告 訴えた
事実の概要
Y社は、ガラケーの着メロ、待受画面や、似顔絵その他テーマをPCを使用して作成できる「携快電話」というソフトを販売することとし、ベンダーに開発を委託。委託契約には以下の文言があった。
「携快電話」の開発は終了した。ベンダーとY社は、追加で以下を含んだ「合意書」を取り交わした。
X社は、(Y社とは無関係に)ベンダーに、ガラケーの着メロ、待受画面や、似顔絵その他テーマをYCを使用して作成できるソフトの開発を依頼。ベンダーは「携快電話」のソースコードを改良して「万能携帯」を開発した。
X社は著作権等については、ベンダーから使用許諾(ライセンス)を受けた。
「携快電話」と「万能携帯」は、起動画面、スケジュール編集画面、メール編集画面、ブックマーク編集画面、着メロ編集画面、画像編集画面、iアプリ作成画面が極めて類似しており、さらに内部に同じデータ(画像ファイル、音源ファイル)が多数含まれていた。
Y社は、「万能携帯」の販売を知り、複製、販売、展示の停止を求め、仮処分の申し立てを裁判所におこなった。
X社は、上記の仮処分申し立ては不法行為であり、それにより900万円の損害が発生したとして、賠償を求めてY社を訴えた。
X社の主張
ソースコードはベンダーに帰属しており、万能携帯はY社の著作権を侵害していない。
画像等のファイルは、ベンダーの下請け会社が著作権を保有しており、ライセンスを受けている。Y社の著作権を侵害していない。
Y社は著作権侵害でないことを認識し、または通常人であればその旨を容易に認識し得たにもかかわらず、あえて仮処分申し立てをしたことはあきらかであり、不法行為を形成する。
Y社の主張
合意書の「ソースコード」とは、充電ケーブル等パソコン内部機器と周囲のドライバを指し、ソフトのソースコードを指したものではない。ソースコードの著作権はY社に帰属している。
画像ファイルそのものがY社の著作物ではないが、1000億通り以上に組み合わせて似顔絵を作れるようにしたものであり、「データベースの著作物」にあたる。この著作権はY社に帰属している。
音源などその他データについては、X社とY社が、ベンダーから著作権の二重譲渡を受けた関係であるとしても、X社はいわゆる背信的悪意者にあたり、Y社は対抗要件なく著作権を主張できる。
上記により、仮処分の申し立ては不法行為でない。
関連条文
裁判所の判断
Y社に著作権は無いが、仮差し止めを申し出たことは不法行為にあたらない。
ソースコードはプログラムのソースコードを指すと解するのが相当である。
合意書によりベンダーはソースコードの著作権を保有している。Y社はX社の著作権を侵害していない。
画像データは、似顔絵を作成するため、顔の目、鼻、眉などの部分ごとの画像をフォルダに保存しただけのものであり、「情報を電子計算機を用いて検索できるように体系的に構成したもの」ではないから、著作権法の「データベース」にあたらない。X社の著作権を侵害していない。
音源やその他のデータは、ベンダー社を起点として、X社とY社が二重に譲渡を受けていたということができる。X社がY社に著作権を対抗するには、著作権を登録する必要があるが、X社は登録していないので、Y社が万能携帯を販売しても著作権の侵害にならない。なお、Y社は背信的悪意者とはいえない。
仮処分申立については、主張した権利又は法律が事実的、法律的根拠を欠くもので、しかもそのことを知りながらまたは通常人であれば容易に知り得たといえるのに、あえて申し出たなど、裁判制度の趣旨に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに不法行為となる。
今回は、Y社が自身の著作権侵害があったと信じたことにつき、相応の事実および法律的根拠があったと言えるから、不法行為を構成しない。
得られた教訓と感想
ソフトを独占したい場合、契約書・知的財産権の条項に、正しく内容を記載する。
主旨・効果の不明瞭な「合意書」などを締結しない
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=10560