契約書の取交中に業務を初めてしまった&業務内容があいまいだったため、業務代金を受領できなかった判例
関係者
原告 訴えた 建設業者A
被告 訴えられた 医療法人B
経緯
医療法人Bは特別養護老人ホームの新設を計画。そのために必要な、社会福祉法人を設立しようと考え、建設および手続きに詳しい建設業者Aに相談を行った。
建設業者Aと医療法人Bは業務委託契約を締結。業務内容は「特別養護老人ホームの公募に関する事前打ち合わせ及び要望書の作成・提出」とし、医療法人Bは報酬682万5000円を支払った。
その後、建設業者Aは医療法人Bの行政への申請などに同席し、手続きをすすめた。
建設業者Aは医療法人Bに、追加の業務委託契約書、建設設計監理契約書を郵送、押印を依頼した。(裁判時点で未締結)
その後、医療法人Bは資金調達の見込みがなく事業遂行が困難であるとして、行政に手続辞退の申請を行った。
建設業者Aは、報酬未払いの業務委託契約および建設設計監理契約が存在する、または商法512条により未払い報酬が存在するとして、建設業者Aに報酬2500万円の支払いを求めて訴えた。
建設業者Aの主張
追加の業務委託業務と設計監理業務はすでに大部分が着手済みで終わっている。
医療法人Bより、Aの追加業務委託900万円、建築設計監理3720万円を支払うと記載した行政への手続き書類(資金計画表)のFAXを受信している。これは契約の「申込」にあたる。これに対して、建設業者Aは契約書類を郵送した。これは「承諾」にあたる。契約書が未締結でも、契約は成立した。
仕事は一部未完成であるが、医療法人Bが独断で応募を辞退し、債務の履行ができなくなったのだから、請負部分は報酬請求権を失わない(民法536条2項)また準委任部分は履行部分の報酬請求権を有する(民法648条3項)
被告医療法人Bの主張
追加契約は締結しておらず、Aはすでに締結済みの契約書に基づいて業務を行っているとの認識だった。追加契約と報酬が必要との説明を受けていない。
そもそもAが、事業に必要な資金は見せ金(一時的な残高のみ)で問題なく、また見せ金のための寄附行為は税制還付が可能と説明をし、それが誤りであったため資金の目処が立たなくなり、事業を辞退したもので、中止はAの責任である。
関連条文
裁判所の判断
追加契約は締結されておらず、医療法人Bは追加報酬を支払う必要はない。
Bは、追加報酬を支払ってそれに必要な作業を建設業者Aに依頼しようとし、その程度の合意があったことまでは認められる。ただし、具体的な契約は別途検討することを前提とする合意に留まる。
建設業者Aは具体的な業務の説明をしておらず、資金計画表にAの報酬を記載してBがAに送付したことは、契約申込と認定することは到底できない。
建設業者Aは業務の内容や報酬について、また設立に必要な資金についても不十分な説明しか行わないまま業務を行っており、締結済みの業務委託契約書の文言も、対象となっている業務が一義的に明確ではない。
建設業者Aが行う業務の全容は明らかにされておらず、報酬を含めた具体的な契約については、別途契約書を準備したうえで締結することが予想されていた以上の明示的合意があったことを認めることはできないし、黙示合意が成立したと評価することもできない。
まとめ
契約書を締結せずに業務を始めない。
業務委託の内容は明確にしておく。
東京地判平27年12月24日 平成25年(ワ)23277号