【Switch版Cresteaju特大ネタバレ】歴史から消えた「戦う者」と銀の輪の軌跡について
(※注意)本ページはSwitch版Cresteajuを完全クリアした前提で記載されております。別ページに、PCオリジナル版の内容(クリア前提)のみを下地にして記載したほぼ同一項目の記事がありますので、Switch版未プレイの方はそちらの記事を参照することを強く推奨いたします。
(本記事は、PCオリジナル版の記事をもとに、Switch版追加シナリオで判明した内容を加筆したものです。そのため、PCオリジナル版記事で記載された部分についてはほぼ同一の文書となっております)
Cresteajuの世界の物語は、大筋で言えば本編ラスボスが自身の目的達成のために筋書きを描き、ルナンたちは彼の筋書きに引き寄せられる形で動いていました。
しかし、Switch版の追加シナリオで真の黒幕の存在が描写され、本編ラスボスの行動が真の黒幕の差し金であったことが示唆されたため、本編ラスボスと真の黒幕の目的、および目的達成のための行動を一度整理してみたいと思います。
エンディング、ならびにクリア後のSwitch版追加シナリオの完全なネタバレとなります。Switch裏ボス2を倒さないうちは閲覧しないことを強く推奨します。
また、本稿の記載内容については原作者Shouさんに確認したものではありませんので、その旨ご了承願います。
【R5.12.3追記】Switch裏ボス2の戦闘前会話を掘り下げたことにより、裏ボス2の策略の一部がほぼ確定したことを受けて「クレイシヴの10年前の悲劇」のことを大幅に加筆改訂しました。
【前提の整理:ふたりの語られざる「戦う者」たちの目的、および達成のための計略】
先程も書きましたが、Cresteajuの物語の大多数は本編ラスボスたるクレイシヴ、またの名を生命兵器CR-Aが自身の目的達成のために様々な人を巧みに操ることで描かれたものです。
しかし、Switch版追加シナリオにより、クレイシヴをそのような行動に駆り立てたのは、クレイシヴ以前に作り上げられた原初の生命兵器CR-0の干渉によることが新たに判明しました。
失敗者の烙印を押されたことで史実に残す価値を見出されなかったCR-Aと、その脅威の甚大さゆえに歴史からの抹消を余儀なくされたCR-0、この歴史に残らなかったふたりの「戦う者」の目的と行動を追うことで、Cresteaju世界の物語の背景の解明を進めていきたいと思われます。
論じるに際して、まずは両者の最終目的、およびその達成のために必要となる手段を整理します。
整理してみると、この両者に共通する目的の核となりえるのがシルバーリングです。
そのため、次項ではシルバーリングの性質や生成過程について整理します。
【シルバーリングの性質に係る推察について】
シルバーリングはCR-0の表現を借りると「生命兵器と人間を繋ぐ」という性質を持つ機構です。
そもそもは「自分の意志で力を操れた」CR-Aが何らかの理由で失敗作とみなされたため、その反省を生かし、操作する者の意図する時にだけ生命兵器の力を発出できるようにするために考案されたものです。本編では生命兵器CR-Eことクレスティーユがシルバーリングに操られる対象として描写されていました。
原理としては、恐らくはシルバーリングを所持した人間は生命兵器と精神の深い部分でリンクして、生命兵器に直接的な意志を送り込んで侵食することが可能な状態になるものだと思われます。
通常想定された使い方であれば、操作者(人間)の意志がCR-E(生命兵器)の精神に流れ込んでCR-Eの意志を侵食し、CR-Eはその意志に従って力を放出するという流れです。
これは想像ですが、CR-Eことクレスティーユはシルバーリングによる意志の侵食が容易になりやすいように、通常は敢えて人らしい感情を抑制されていたのだろうと思います。ただ、CR-0の失敗を繰り返さないように理性と最低限の感情だけは保持する必要があったので、そのためにクレイシヴが目付け役として傍にいたのでしょう。
(本来のクレスティーユの性格は、クレイシヴをなじった研究員に食ってかかったり、ガゼールに「戦うための名前なんて要らない」と断言していたことを見るに、今のルナンに通じる勝気な性格だったはずです)
しかし、CR-0は「シルバーリングを所持した人間は生命兵器と精神の深い部分でリンクできる」という機能を逆手に取り、逆にCR-0(生命兵器)の意志でシルバーリングを手にしたフォールン(人間)の意志を侵食して深淵の遺跡に向かわせることで目的たるシルバーリングを手元に呼び寄せ、さらには彼を追ってきたルナン、もといCR-Eの身体をも自分のもとに呼び寄せる離れ業を成し遂げました。
この時のCR-0→フォールンの精神侵食シーンを踏まえると、生命兵器⇔シルバーリングを所持した人間の精神侵食は1対1の片側通行でしか行えないと考えられます。
もし仮にCR-0(生命兵器)がフォールン(人間)を支配下に置き、CR-0支配下のフォールンがさらにCR-E(生命兵器)を操ることが可能であったなら、記憶の遺跡深部でルナンは間接的にCR-0に操られてフォールンと共に自分から深淵の遺跡のCR-0のところに赴いて、CR-0の望みのままに身体を差し出していたはずです。
それができなかったということは、フォールンがCR-0に精神を侵食されている段階では、フォールンは他の生命兵器(CR-E)とのリンクはできなかったと考えるのが妥当でしょう。
記憶の遺跡深部のフォールンは元々、シルバーリングを再生したらその力でルナンを操り、ルナンの手で仲間を皆殺しにした後にルナンを自害させるという計略を練っていましたが、その成り行きを見ていたCR-0にとっては、ルナンもといCR-Eの身体は自分の新たな肉体として保持すべきものであり、ルナンを自害させることは絶対にあってはならない展開です。なので、フォールンがルナンを操るより先に、逆に自分がフォールンを操って深淵の遺跡に向かわせ、後を追ってきたCR-Eの身体をその場で乗っ取る計略を仕掛けた形になります。
(※なお、これは筆者の個人的推測ですが、もし仮にフォールンがルナンを操っても「自害」の命令だけは本能レベルで拒否されて聞けなかったのではないかと思います。その命令が可能であったなら、もし敵国サイドにシルバーリングが渡ってしまった際にCR-Eに自害を命じるだけで、簡単に神聖帝国の戦力の要たるCR-Eを葬ることができていたでしょうから)
【シルバーリングの生成過程に係る推察について】
また、作中でクレイシヴが作り上げたシルバーリングは「精錬された100%の純銀に大量の精神体を取り込む」ことで完成したものです。
クレイシヴはシルバーリングのことは当然知っていたものの、立場上シルバーリングの生成方法を知ることはできなかったはずなので、上記のシルバーリング生成方法は数少ない帝国時代の文献やクレイシヴ自身の研究をもとに、自力で編み出したものである可能性が濃厚です。
(記憶の遺跡でルナンたちがメモリーオーブを求めてクレイシヴを追ってきた際に、クレイシヴが記憶の遺跡深部に行ってシルバーリングの研究成果を読み、それで生成方法の補強をした可能性もありそうですが、大部分の生成方法は本編前の時点で自力で編み出していたと思います)
このうち、大量の精神体は降神祭で集まった大勢のエターナルから強制的に精神体を抜き出して賄われましたが、それに伴って下記の2点の疑問が生じえます。
①については推測ですが、精神体を抜き取る対象のエターナルに事前に投薬、あるいは集団催眠のような措置を施して精神体を抜き取りやすい状態にしていたため、そのような事前措置を施されていなかったディザたちは無事だったと考えられます。
そもそも精神体の大量抜き取りは千年前の神聖帝国時代でも行われていたはずなので、神聖帝国の技術で安定して行えるものである必要があります。集団催眠については、神聖帝国はメモリーオーブの存在が象徴するように人の記憶、ひいては人心に干渉する技術を確立しています。
クレイシヴも保存装置でルナンの失われた記憶の一部を解放したため、神聖帝国時代に記憶干渉技術を多少なりと会得していたことはほぼ確実であり、またアズグレイ殺害後にあっさりと多くのエターナルの支持取り付けに成功していることを鑑みるに、自己の目的意識が希薄な人間の心を引き付けて虜にする暗示などを施すことも可能であった可能性があります。
(ファスラクリアをその暗示媒体として使った可能性もあります。神剣の模造品とはいえ、神聖帝国時代の皇帝が使っていた剣であるため、何らかの特殊な性質を有していてもおかしくありませんし)
②についてですが、必要となる材料が単に「大量の精神体」だけならば、記憶の遺跡深部やバイツ近郊の神の山に行けば精神体は大量にいますので、そこの精神体を利用すれば事足りたはずです。恐らくクレイシヴもシルバースターで研究していた際には、神の山の精神体を利用することも考えたと思われます。クレイシヴ自身も生命兵器ですから、精神体に取りつかれて命を落とす危険性はありませんし。
しかし実際にはそれをせず、生きている大勢のエターナルから強制的に精神体を抜き出し、純銀に宿らせてシルバーリングを生み出しているため、シルバーリングを一から作り出す場合は普通の精神体では無理だということになります。
そこから推察するに、恐らく一からシルバーリングを作り出す(ただの純銀に精神体を宿らせる)には、生きている人間の身体から抜き取って間もない精神体を、一度に大量に封入しなければならなかったと思われます。
生命兵器(少なくともCR-E)は精神体に大量のエネルギーを注ぎ込まれた人間であるため、シルバーリングの核となる精神体も同じ人間の物でなければ、精神へのリンクを成す力が得られなかったと推測されます。(もし小動物の精神体などでも良ければ、大勢の人間を集めるよりも大量の小動物などを集めて精神体を抜き取った方がまだ手間はかかりませんし)
よって、クレイシヴはシルバーリング作成のために「自分の意のままに動く大量の人間」を「純銀製の輪が完成次第、いつでも一か所に集めて精神体を抜き取れる」状況を作っておく必要があり、いずれエターナルを乗っ取ることをかなり前から計画していたのだと思います。
しかし、クレイシヴが一から作ったこのシルバーリングは「内部の精神体が消耗品であり、比較的短期間(恐らく1日程度)しか効力がない」という致命的な欠点がありました。
クレイシヴもその欠点は承知していて、その内容をフォールンに語っていましたが、クレイシヴにとってはルナン(クレスティーユ)にオイルレイクの油を吹き飛ばしてもらえればそれで充分なため、シルバーリングの効力が短期間でも特に問題はなかったのでしょう。
(※オイルレイク蒸発後もルナンを洗脳したままイリーディアに降りていこうとする描写がありましたが、あれば恐らく自分の護衛兼、後を追おうとするディザたちへの牽制も兼ねて、洗脳状態が続いている間は連れて行こうとしただけだと思います。なので、ユミに腕を飛ばされてシルバーリングを失った後はルナンを置いてイリーディアに下る方を優先したわけです)
フォールンは崖下に落ちて効力を失ったシルバーリングを手に入れて記憶の遺跡深部に行き、そこに漂っている大量の精神体を再封入することでシルバーリングの機能を蘇らせています。つまり一度シルバーリング化した銀であれば、生きている大勢の人間から取り出して間もない精神体でなくても、普通の精神体を宿して機能を復活させることは可能であるとみられます。
余談ですが、記憶の遺跡でルナンたちを追ってきた精神体や、深部でフォールンによってリングに封入された精神体、および神の山にいた精神体は、本人たちの恨み言を鑑みると、大部分が神聖帝国時代にシルバーリングに魂を封じられて命を落とした人のなれの果てで間違いないと思われます。
これを踏まえると、シルバーリングに封入された精神体は時間が経って、自身の持つ精神エネルギーが切れたら、リングから抜け出ることが可能であると考えられます。シルバーリングの効果時間が通常では短いのはこの特性故でしょう。(その精神体は千年経って再びルナンたちを害したり、シルバーリングの効力を回復させたりするだけの精神エネルギーを取り戻していたので、精神体は時間の経過で失った精神エネルギーを回復することが可能とみられます)
記憶の遺跡にいた精神体は同地で行われていたシルバーリング実験の被験者と確定できますが、神の山にいた面々は恐らく、流砂の遺跡で大量に罪人を処刑するのを兼ねてシルバーリング生成時に魂を吸わせたのではないかと個人的には推測しています。
閑話休題。
ただ、戦時下の神聖帝国では、このような効果時間の短いシルバーリングでは実戦には不向きなのは間違いありません。精神体を再封入すれば機能が復活するとはいえ、その度に最低でも百体分くらいの精神体をいちいち用意することなどできないでしょうし。
なので、神聖帝国時代のシルバーリングは何らかの形で内部の精神体の劣化を防ぐ措置を施して、シルバーリングの効果時間を延ばしていたと思います。
神聖帝国時代のシルバーリングも、通常ではクレイシヴ製のシルバーリング同様に、何らかの措置をしなければ1日くらいで精神体の力が抜けて、生命兵器への干渉能力を失ってしまうでしょうから、仮に敵国にシルバーリングを奪われてもすぐに使い物にならなくなり、敵国に生命兵器を蹂躙される危険は少ないと思われます。
そういうこともあり、シルバーリングの劣化防止措置はシルバーリング生成方法と並び、極めて限られた人しか知らない超機密事項といえますし、クレイシヴは立場上その方法を知りえる可能性はゼロです。
それゆえ、クレイシヴは生成方法こそ何とか自力で見出したものの、劣化防止方法については自分には不要として探そうとはしなかったと推測されます。前述のとおり、クレイシヴにとってはオイルレイクの油を無くせればそれで充分であったわけですし。
ただ、封印されても世界をずっと見てきたCR-0は当然、シルバーリングの生成方法も劣化防止方法も知っているはずです。しかし、本人は如何せん封印されている身であり、自力でシルバーリングを作り出すことはできないため、現在のフィルガルト大陸で唯一シルバーリングの存在を知り、再びシルバーリングを生成できる可能性があるクレイシヴによってシルバーリングを作ってもらう必要がありました。
一度シルバーリングの生成が叶えば、その後はシルバーリングを手にした人間を自分の支配下に置き、その人間の手で劣化防止策を施せばすみます。さらに、そのように手先と化した人間を利用してCR-Eを何らかの形で自分のもとに呼び寄せ、その身体を乗っ取って自由の身になった暁には、自分の手で半永久的に使えるシルバーリングを増産することもできるので、CR-0にとっての難関は「いかにしてクレイシヴにシルバーリングを作らせるか」という一点のみであったといえます。
推測ですが、CR-0は割と早い段階から、シルバーリング完成後にリングを通じて精神を乗っ取り、自分の手先として働いてもらう人間の候補として、クレイシヴに付き従うフォールンに目を付けていたと思います。フォールンの性格からして、リングが完成したら何らかの手段でリングを奪い取ろうとするのは確実なので、リングを手にした瞬間に精神を乗っ取って自分の手先となすことを考えていたと思います。
筆者の勝手な考えでは、恐らくCR-0の描いていたシルバーリング入手シナリオは「シルバーリングが完成した後、フォールンがCR-Aの隙を見てシルバーリングを奪い取ってCR-Eの操作権を奪取し、CR-Eの力を駆使して用済みのCR-Aを殺す」→「シルバーリングを手にしたフォールンを操って配下に置き、気絶したCR-Eの身体を深淵の遺跡に連れて来させる」→「CR-Eの身体を乗っ取って自由の身になる」→「シルバーリングを量産して人類を自分の配下に置き、千年前のように真の戦う者として君臨する」という感じだったのではないかと思います。
そう考えると、フォールンがシルバープラントで敗れてシルバーリング完成の時に不在だったことと、ユミがクレイシヴの腕を撃ち抜いてシルバーリングが崖下に落ちたことは、CR-0にとっては大きな誤算だったはずです。特に崖下にシルバーリングが落下した件については、誰もシルバーリングに触れないうちに時間切れとなり、シルバーリングの効力が失われてしまったため、CR-0の目論見が一時的に頓挫したわけです。
(もし仮にクレイシヴの手からシルバーリングを引きはがすことができても、効力が消えないうちにうっかり人間の誰かが触ってしまえば、その瞬間に即座にCR-0の支配下に置かれてしまい、その意志に従って無理やりにでもルナンを深淵の遺跡に連れて行こうとしたはずですし)
長くなりましたが、クレイシヴとCR-0の双方にとっての目的であったシルバーリングのこのような特性を踏まえて、改めて本編中の両者の行動について整理したいと思います。
【「10年前の悲劇」に至るまでの過程】
前述のとおり、CR-0は何としてもクレイシヴにシルバーリングを作ってもらう必要がありました。そのため、封印が弱まって無防備な生命兵器に干渉できるだけの力を取り戻した段階(概ね本編の30年ほど前)でクレイシヴを目覚めさせた次第です。
ただ、クレイシヴの目覚めを促すことこそできたものの、双方とも生命兵器ということもあって、通常ではCR-0がクレイシヴ自身の意志に直接介入することはできないと思われます。なので、クレイシヴにシルバーリングを作らせるためにCR-0が取ることができた手段は、何らかの形でクレイシヴの周りの環境を操作することにより、是が非でもリングを欲する状況にクレイシヴを追い込むことしかなかったわけです。
CR-0は深淵の遺跡でルナンたちに対し、「自分が望むが故、CR-A(クレイシヴ)はシルバーリングを作った。それは偶然ではなく必然」と断言しています。
なので、『CR-0が計略を仕掛けたことによって、クレイシヴはシルバーリングを求めてそれを作らざるを得ない環境に追い込まれた』ことはほぼ間違いなく、逆を言えばクレイシヴがシルバーリングを欲するほどの絶望的な状況(サンピアスが伝説の盗賊団に襲撃されて妻を喪った)に叩き落されたのは、CR-0がそのために様々な下準備をしてきたからだと言い切れます。
クレスティーユの新たな未来のため、自分は彼女と別の人生を歩むと決めていた昔のクレイシヴは、そのままではまず間違いなくリングを欲することはありません。
そのため、CR-0は下記のような思考を経て、クレイシヴがシルバーリングを欲さざるを得ない環境を設えることを検討したのだと思います。
CR-0は目覚めた後のクレイシヴの動向を見て、彼が愛する女性と出会って結ばれ、子供を設けて人並みの幸せを得たのを見て、クレイシヴを絶望の底に叩き落とすには彼の大切な家族である妻や娘を死に追いやることが最も効果的だと確信したと思います。
ただ、この時点のクレイシヴはルナンやユミの回想を見る限り、人としての思いやりを携えた冷静な思考を持つ大人であったことが垣間見えます。
なので、これは個人的な筆者の想像ですが、もしクレイシヴの妻が亡くなった理由が病気や事故や天災などの、クレイシヴには防ぎようのない不可効力による場合だったら、クレイシヴは妻を喪った強い喪失感を生涯胸に抱きつつも、遺されたユミをただ一人の親としてきちんと育て上げる責任感を糧として生きることを選び、世界全体の時を戻すということは考えなかったと思います。
また、同じ「妻が殺された」という状況でも、それが盗賊団ではなく単独の通り魔などであったら、クレイシヴは敵討ちとしてその犯人を容赦なく血祭りにあげると思いますが、それでも世界全体の時を戻すことまでは考えないと思います。
千年前からずっとクレイシヴを監視してきたCR-0にはそんな彼の思考はお見通しでしょうから、CR-0は「CR-Aの家族を単純に殺すだけでは、奴は時を戻すことまでは考えないだろう。奴が『自分が保存装置に入ったのは間違いだった』と後悔させるような形で、家族の喪失という最大級の絶望を与えなければいけない」と考えたと思います。
事実、クレイシヴは南部大雪原のシルバープラントで「私が保存装置に入ったのは間違っていた。ディーンに話をしてクレスティーユの封印を思いとどまらせ、フィルガルト帝国の滅びを回避するべきだった」と述べています。つまり、シルバーリングを作り上げてイリーディアを現出させることを目指したクレイシヴの根底の思考は「保存装置に入るという己の選択ミスによって導かれた『フィルガルト帝国の滅亡』という歴史は誤ったものであり、時を逆流させてそれを修正する必要がある」というものであり、選択ミスを強く悔いるが故のことだったというのが伺えます。
ならば、どのような形でクレイシヴに家族の喪失という絶望を与えれば、保存装置に入った自分の選択を過ちだと後悔し、時の逆流を望むようになるのかをCR-0は色々と検討したと思われますが、そこでCR-0に見込まれたのが伝説の盗賊だったと推測されます。
伝説の盗賊は周知のとおり、マークス・ダイ・サンピアス(ツーリアの襲撃は別の盗賊団の可能性もあるので差し当たり除外)を襲撃して町に大きな損害を与えた強盗集団であり、アズグレイとクレイシヴの運命に大きな影響を与えた存在です。
ただ、伝説の盗賊をはじめとした数多くの盗賊や賞金首が大陸中に跋扈し、さらには手の付けようがないほど凶悪化していったのは、神聖フィルガルト大陸が滅亡して大陸の市町村が相互不干渉状態となり、確固たる協力関係を結ばなくなったことが大きいと言えます。
逆を言えば、「絶対君主によって厳密に統治された神聖フィルガルト帝国では、盗賊団が発生してここまで凶悪化することは有り得ない」ということになり、いわばフィルガルト帝国が滅んだことによって、千年後の現在に伝説の盗賊が跋扈する歴史になってしまったということでもあります。
フィルガルト帝国滅亡(=クレイシヴがクレスティーユとともに保存装置に入った結果)が遠因となって大陸各地に跋扈するようになった盗賊は、「保存装置に入った」という己の選択ミスをクレイシヴに突き付けるには、これ以上ない格好の材料です。ましてや、大陸でも有数の力を携えていたという伝説の盗賊であれば、なおのことクレイシヴの罪の意識を刺激することになるでしょう。
なので、CR-0は「伝説の盗賊にCR-Aの住む地(サンピアス)を襲撃させ、CR-Aの大切なものである家族を殺させる」という計略を練り、クレイシヴが「自分が保存装置に入ってフィルガルト帝国の滅亡を招いた選択ミスのために盗賊が跋扈し、家族は殺された。家族を死に至らしめたのはこの自分だ」と絶望し、時の逆流を望むように仕向けたのでしょう。
つまり、Cresteajuの物語の全ての発端ともいうべき伝説の盗賊によるサンピアス襲撃は、かなり高い確率でCR-0が陰で糸を引いていたと推測されます。
なので、ほぼ仮定に近い話になりますが、伝説の盗賊は13年前のマークス襲撃の辺りから少しずつCR-0の精神侵食を受けていき、市町村の襲撃を厭わない非道な強盗集団に変貌していったのではないかと個人的に考えています。
その変貌ぶりの根拠の一つとして考えられるのが、シューティングスター2人組による伝説の盗賊についての言及です。
シューティングスター2人組は伝説の盗賊を「20年くらい前に活躍した、盗めぬものはなく武術にも優れた凄腕の盗賊」と称して憧れの対象の盗賊と見ていますが、その一方で彼らは少なくとも13年前のマークス襲撃以降は完全にただの非道な強盗集団と化しており、後世に憧れられるような存在とは程遠くなっています。
この両者の見解の食い違いについて、単にシューティングスター2人組の中で印象が美化されていると片付けるのは簡単ですが、あるいは「かつては後世の憧れに値する比較的真っ当な盗賊団であったが、13年前のマークス襲撃の辺りから何らかの理由で悪質な強盗集団に変貌した」と考えることも可能ではないかとみられます。
そうであれば、前述の「盗賊団にサンピアスを襲撃させる」策略のためにCR-0が伝説の盗賊および盗賊団の意識に働きかけて破壊と混沌の感情を増幅させ、悪質な強盗集団に変貌させた可能性が極めて高いと自分は考えています。
かくしてサンピアスは伝説の盗賊の襲撃を受け、クレイシヴの妻が亡くなる結果となりました。絶望と後悔によってクレイシヴはCR-0の目論見通り、アージェによる時の逆流を欲してシルバーリングを求めるようになります。
【「10年前の悲劇」以降から本編開始前までの、銀の輪を求める者たちの動向について】
ここでようやくクレイシヴの動向がメインになりますが、まずクレイシヴが千年の眠りから目覚めた直後、どの辺りまで神聖帝国の状況を調べたかを考えてみたいと思います。
クレイシヴは自分の目覚めた世界が千年後のフィルガルト大陸であり、既に神聖帝国が滅びていることを知った後は「自分たちが封印されてからどれくらい後にフィルガルトが滅びたのか、どのように滅ぼされたのか」「かつての敵国であった四国はどのようになったのか」「イリーディアや他のフィルガルトの都市や各地の実験場はどうなったのか」などを一通り調べたと思われます。
ただ、フィルガルトの歴史は四国の焚書でかなりの部分が逸失しており、当時は古代図書館などの限られた施設で調べるのが関の山であったと思われるので、当時のクレイシヴが知りえたのは下記の内容くらいだと思われます。
もっとも、当時のクレイシヴは新たな人生を生き直すことを決めていたと思われるので、ある程度必要な内容を知った後は、それ以上の情報は差し当たり不要だと割り切っていたと思いますが。
これを踏まえて、10年前のサンピアス滅亡以降のクレイシヴの動向を考察してみますが、ます前提条件として、クレイシヴは10年前の時点ではアージェが既に完成していることを知りません。(Switch版追加のユミの回想内で「アージェが完成していればフィルガルトは滅びなかったはずだから、恐らく誕生することはなかったのだろう」と述べているため。アージェ関連の情報は四国が特に念入りに抹消していたはずなので、クレイシヴも知る機会がなかったのでしょう)
サンピアスを滅ぼした時点では全てに絶望していて何も考えられる状態ではなかったと思われますが、その後はCR-0の目論見通り「自分がフィルガルトを見捨ててクレスティーユとともに封印装置に入らなければ、フィルガルトは滅ばず、妻が死ぬ今の歴史が刻まれることもなかった」という後悔に苛まれることになり、それが高じて「アージェがあれば、歴史を過去に帰してやり直すことができる」という目標を見出すことになります。
この時点ではアージェが既に誕生済みと知らないので、恐らく最初はアージェを自分で作り出すことを目的として、フィルガルト期の遺構などで手がかりを探していたと思われます。
その過程でアージェが既に生成済みで、オイルレイクに沈んだイリーディアの皇宮奥に封じられていることを知るも、オイルレイクを一気に蒸発させるにはクレスティーユを操って力を解放させる必要があり、それにはシルバーリングの生成が欠かせないことが判明します。
(余談ですが、ゼビアマイン炭鉱遺跡にファスラクリアが安置されていることや、土砂に埋もれたジーダイの遺跡にメモリーオーブがあることは、この時の研究過程の副産物として知った可能性が高いと思います)
ただし前述のとおり、シルバーリングの生成方法はトップクラスの機密事項であり、クレイシヴは当然知るはずがありません。(万一シルバーリングがクレイシヴの手に渡ったら、クレスティーユとともにイリーディアを脱走する危険が充分考えられますし)
神聖帝国時代の情報が極めて限られている中でここまで辿り着くにはそれなりの年数を要したと考えられるので、個人的にはサンピアス滅亡からアージェの行方を知るまで4年くらい経過したと思います。
そして、クレイシヴがシルバーリング生成に向けて動き出すのを待ち構えていたであろうCR-0は、この時点でちょうど良い頃合いだと判断してCR-Eことクレスティーユに働きかけて彼女を目覚めさせ、ガゼールの元で安全に成長できるように仕組んだと考えられます。
(この時点のクレスティーユは12歳相当であり、CR-0にとって肉体的な成長が不十分とみなされて、クレイシヴがシルバーリングを完成させるまでの期間で大人に成長するのを見越してこの時期に目覚めさせたと考えられます)
アージェの行方を知ってから本編開始時点までは6年くらいあると考えられますが、この期間はシルバーリングの生成方法の調査と、それに紐づく金属の精錬および精神体の研究に終始していたと思われます。(その過程でサヴィアーが弟子入り。また、精神体について研究していたディザナック兄妹の両親を殺害して研究成果を奪ったのがゲーム開始の1年前なので、1年前の段階ではまだ精神体についての研究が不充分だった可能性もあります)
そして、最終的に純度100%の純銀と、生身の肉体から取り出した大量の精神体がシルバーリング生成に必要であると確定した時点で、クレイシヴは大量の精神体の生贄確保のために、多数の信者を抱えるエターナルをいずれ乗っ取ることを計画したと考えられます。
このエターナルについても、個人的にはCR-0が少しでも早くシルバーリングを手に入れるために、CR-Aがすぐに大量の生贄から精神体を抜き取れるように事前にお膳立てするべく、アズグレイに干渉して「大量の信者を抱える宗教組織」として設立を促したのではないかと筆者は疑っています。
Switch版で判明したエターナルの前身は、約11年前にアズグレイが盗賊団対策として傭兵を集めて創設した「アズグレイ戦士団」であり、当初は盗賊団撃退を主な目的としつつ、ツーリアの区画整備や伝染病で滅びかけたセノウの支援に乗り出すなど、アズグレイなりの理念のもとでフィルガルトへの貢献を図っていた組織であったことが垣間見えます。
戦士団が宗教組織エターナルとして再編されたのは本編から4年前のことですが、この頃のアズグレイは、傭兵を集めて各地を助けるだけでは、自身の目的である「見捨てられる町や村がないような世を作る」ことには繋がらないと焦りを覚えていたと思われます。
そんな折に、クレスティーユの正体と彼女の居場所を突き止めたことで、かつての神聖帝国のような統一国家を築くことで、誰もが救われる世界へと変えていくことを目論むようになり、戦士団を宗教組織エターナルに再編して多数の信者を集めるようになったわけです。
この変遷の過程において、アズグレイに「統一国家の下地となる宗教組織を作り上げて、多数の信者を集める」という考えを植え付けた背景にCR-0がいた可能性は充分あり得ると思います。絶対君主を持たない現在のフィルガルト大陸においては、効率よく大量の人間を集めるには宗教の力を用いるのが最も確実ですし、人並み外れた頭脳やカリスマを持つアズグレイにはそれを成しえるポテンシャルが備わっていたので、CR-0が人集めの偶像として目を付けても何ら不思議ではないでしょう。(元からある大陸教会は宗教というより慈善団体の側面が強く、大量の人を集める力には乏しかったでしょうし)
エターナルを作り上げた後のアズグレイは、物量に物を言わせてなりふり構わず市町村を占拠していくようになりますが、これもCR-0に影響されたとみることができそうです。
ただ、クレイシヴは自分が作るシルバーリングの持続時間が前述のとおり短いことを予測しており、肝心のクレスティーユが傍にいない状態でシルバーリングを作っても持続時間の関係で全く意味をなさないことも知っていたと思います。そのため、シルバーリングの生成方法が判明した後はクレスティーユの消息を掴み、彼女の動向を常に把握しておくべきと思っていたはずです。
自分の目的のためにオイルレイク蒸発=クレスティーユの力が必要だと察した段階で、一度は幻惑の樹海の保存装置にいるはずの彼女の様子を見に行ったと思われますが、既にこの時クレスティーユは覚醒済みでガゼールの養女になっており、クレイシヴは消息を掴めなくなっていたと思われます。
(クレスフィールドは地理的に見ても一番怪しいと思うのですが、クレイシヴは恐らく保存装置に彼女がいなかった時点で「シルバーリングの生成方法を割り出すのが先だ、クレスティーユの行方を捜すのはシルバーリングの生成方法が確定してからでも遅くない」と考えた可能性が高いと思います。広いフィルガルト大陸で特定の人を探し出すのに時間を費やすことを考えると、シルバーリングの生成方法割り出しに時間をかけるほうがまだ進展がありますから)
【本編開始(クレスフィールド陥落)以降のクレイシヴの動向について】
クレイシヴが具体的に自分の目的に向けて動き出したのが、ウェスカ⇔セーネの橋でルナンと出会った直後からなので、シルバーリングの生成方法自体は恐らくゲーム開始直前には完全に割り出しており、後はクレスティーユが現在どこにいるかを探し当てられれば、いつでも計画(エターナルを乗っ取り、その立場を利用して純銀と大量の精神体の生贄を確保)の始動に向けて動ける状態だったと思われます。
橋でクレスティーユの消息を掴んだクレイシヴは、クレスティーユがアネート方面まで自分を追ってくることを企図して、セーネのエターナル虐殺を行ったと推測されます。この時点でウェスカ方面にはサヴィアーがいたため、サヴィアーが自分の凶行を聞きつけてセーネ方面に来てクレスティーユと出会い、サヴィアーに連れられる形で再び自分に会いに来るように仕向けたのでしょう。
(実際にセーネのエターナル施設でルナンと出会ったのはディザであり、彼もまたクレイシヴを追う者であったため、結果的にはクレイシヴの意図通りに事が運ぶことになりましたが、これはクレイシヴにとっては完全に予想外の展開だったはずです。セーネでの虐殺の時点ではクレイシヴはディザを全く認知しておらず、ルナンとディザがウェスカ北の森で既に顔見知りであったことも知らないはずなので)
そしてサヴィアーとも知り合ったルナンはディザに付き合う形で、ドーグリ南の遺跡で再びクレイシヴと遭遇することになります。この時点でルナンが「クレイシヴ」という名に顔見知りとしての反応を全く示していないので、クレイシヴは「今の彼女に自分と過ごしたクレスティーユ時代の記憶はない=新たな人生を生き直すために過去の記憶を消した」と推測し、名前を訊ねて「ルナン」と返ってきたことでそれを確信したのでしょう。
クレスティーユが過去の記憶を失っている状態なら、シルバーリングを使っても生命兵器の力を十全に発揮できない可能性が想定されたため、クレイシヴはシルバーリングを作るという目標の他にもう一つ、ルナンの記憶を戻すという目標を持つことになります。
ルナンがエターナルを追っており、そのエターナルは幻惑の樹海に眠るとされるクレスティーユを呼び覚ますためにクレスフィールドへ向かっていることを知ったクレイシヴは、ルナンが幻惑の樹海の保存装置まで辿り着くことを想定して、そこで彼女の記憶に働きかけて過去の一部を解放させた次第です。トレイアでわざわざルナンの前に姿を見せて「記憶を取り戻してみるがよい」と挑発したのも、そうすればルナンは確実に自分を追ってくるだろうし、メモリーオーブを求めるようになると踏んだからでしょう。
時を同じくして、アズグレイが皇帝の象徴ファスラクリアを求めてゼビアマインに歩を進め、ルナンたちもそれを追ってゼビアマインへと向かった辺りで、クレイシヴはエターナル乗っ取りの頃合いだと見計らってゼビアマインでファスラクリアを奪い取ります。
(本編ではルナンたちとアズグレイたちの戦いで弾き飛ばされて落ちたファスラクリアを漁夫の利の形で奪い取りましたが、もし両者の戦いがなかったとしても、剣を手にした方の陣営に実力の差を見せつけてファスラクリアを強制的に奪い取ったと思います。統率者としてエターナルを乗っ取る象徴としては、ファスラクリアは欠かせない物でしたから)
そしてクレスフィールドでの建国宣言で瞬時にアズグレイを葬り、フォールンとラーフィアを倒す圧倒的な実力差をエターナル信徒に見せつけたうえで、ダメ押しとして皇帝の証たるファスラクリアを掲げて「我こそが統率者」と名乗りを上げることで、あっさりとエターナル信徒の尊敬を集めて乗っ取りに成功します。
クレイシヴはエターナル乗っ取りを成したと同時に「多くの人を集めろ」と言い放ちます。これは元からの目的である精神体生贄の数を増やすのが主目的ではありますが、エターナルが元から進めていた「ジーダイ遺跡の発掘」「大神殿建設」の2プロジェクトが奇しくも自分の目的に適うものであり、少しでも早く進めるために人手が必要となったこともあったのでしょう。
(穿った見方をすれば、遺跡発掘も大神殿建設も、クレイシヴへのお膳立てのためにCR-0が予め仕組んでいた可能性もあると思います。どちらも本来ならそれなりに時間がかかる事業ですし)
ジーダイ遺跡、もとい記憶の遺跡の発掘はメモリーオーブでルナン(クレスティーユ)の記憶を取り戻すために最優先で進める必要があり、建国宣言直後に多くのエターナルがそこに派遣されたことがツーリアのモブとの会話で伺えます。事実、ジーダイ遺跡にメモリーオーブがある旨の情報が伝わったのは、ツーリアエターナル建物でルナンたちが捕まった頃ですが、日数的には建国宣言からそれほど経過していないと考えられます。逆を言えば、フォールン(およびシンディ)を利用してルナンたちをツーリアエターナル建物に留め置いたのは、記憶の遺跡を発掘してメモリーオーブまで辿り着ける環境を確保するまでの時間稼ぎだったのでしょう。
ルナンたちはサヴィアーがグラウンドシップを入手したおかげで、ゼビアマイン出立からそう時間をかけることなく、クレスフィールドの建国宣言→ツーリア→ジーダイと渡り歩いています。しかし、ルナンたちがもしグラウンドシップを持たず、ゼビアマイン出立後も徒歩でイーストプレーンの移動を余儀なくされていたのであれば、クレイシヴはルナンたちが真っすぐジーダイの記憶の遺跡を目指すように、何らかの形でメモリーオーブの情報がルナンたちに伝わるように仕向けていたと思います。
(クレイシヴは建国宣言においてはエターナルを乗っ取ることのみが主目的だったので、そこにルナンたちがいなくてもよかったはずです。また、記憶の遺跡の発掘が完了していれば、わざわざルナンたちをツーリアに足止めする必要もないですし)
また、大神殿は元々アズグレイが数年がかりで建設する予定であった、神殿の名に相応しい壮麗な造りになるはずの建物でした。
もっとも、クレイシヴにとっては単に、大勢の人間を集めて精神体を抜き取りやすい好都合な構造の建物に過ぎなかったため、数年がかりどころか物量に物を言わせて、建国宣言からわずか数週間程度の突貫工事で完成させた形になります。当然、そこにはアズグレイが目指した壮麗さのかけらもなく、単に精神体抜き取りという目的に合致する広い密室空間のみを有した大きな建物でしかないものが出来上がったのでしょう。
土砂を取り除く作業が中心となる記憶の遺跡発掘とは違い、どんなに大勢の人を差し向けてもさすがに建物建造には時間がかかります。
なので、クレイシヴは大神殿が完成して降神祭を挙行できるようになるまでの間に、シルバーリングに必要なもうひとつの素材である純銀の材料入手、および精錬に注力した形になります。
(その途上で、ユミの母親の命日の墓参りのためにサンピアスを訪れます。この時にユミと出会うのは、命日である以上は半ば想定していたのでしょう。ユミ、そしてルナンと完全に対立し、それでも自ら決めた道を歩むことを決意した彼は、シルバーリング作成のための最後の仕上げに突き進むことになります)
サンピアス墓参り後、ルナンたちが大クレーター遺跡→蜃気楼の塔を攻略してアージェの真相を調べている間、クレイシヴはフォールンを伴って南部大雪原のシルバープラントにこもり、純銀の精錬に勤しんでいたことになります。(降神祭の実施に係る運営などは手頃なエターナルに任せきりにしていて、クレイシヴは単に実施日のみを把握していた形だったのでしょう)
純銀の精錬は本職であるシルバースターの者ですら難色を示す困難な作業であるため、純度の高い金属を作り上げることについて研究して知り尽くしているはずのクレイシヴであっても、シルバープラントの力を借りて何とか為しえる大変な作業だったのでしょう。
純銀製の輪が完成したのは降神祭開催の直前で、その時にちょうどルナンたちがシルバープラントに辿り着いたので、クレイシヴはフォールンを利用してガゼール達奴隷の処刑の報を伝え、ルナンたちがいったん流砂の遺跡に行くように仕向けます。これも恐らく、降神祭で精神体を抜き取るタイミングでちょうどルナンたちが辿り着けるように仕組んだ時間調整だったのでしょう。
流砂の遺跡に閉じ込められたルナンたちを助けたのはシンディとマークスの人たちですが、仮に彼女たちが助けに来なかったとしても、クレイシヴはルナンたちが遺跡を脱出して、降神祭で大量のエターナル信者が集まっている最中に大神殿に到着できるように、施錠装置が程よい時間で自動的に解除されるように仕組んでいたと筆者は考えています。
かくしてクレイシヴの目論見通り、多数のエターナル信者が集まっている大神殿中枢にルナンたちが辿り着いた瞬間に、彼がこの時まで積み重ねてきた全てのものを一点に収束させる最後の引き金は引かれました。エターナル信者たちの精神体を吸ってシルバーリングは完成し、降り立った神クレスティーユの力でオイルレイクの油は完全に吹き飛ばされて、廃都イリーディアが千年の時を経て姿を現します。
ユミたちの抵抗でシルバーリングを失い、ルナンを支配下から引きはがされたものの、クレイシヴの最大の懸念だったオイルレイク蒸発を成し遂げてイリーディアが姿を現した以上は、クレイシヴにはもはやイリーディア最奥に眠るアージェを目指して進む以外にありませんでした。
(ちなみにCR-0は前述のとおり、シルバープラントでフォールンが敗れて表舞台から姿を消し、かつユミの狙撃でシルバーリングが崖下に落とされた時点でもはや彼らに干渉する術がなくなったため、自らの目的が果たされる可能性が限りなくゼロになったことに歯噛みしながらクレイシヴとルナンの様子を見ていたのだと思います)
イリーディア最奥のアージェの前で、彼を追いかけてきたルナンたちと最後の戦いに臨んで敗れ去ったクレイシヴのその後については、EDでサヴィアーの口から「クレイシヴの行方は分からないが、もうあんなことはしないし、できないだろう」と言われています。恐らくは、神聖帝国の古代の神が全て消え去って新たな時を刻み始めた大陸の片隅で、誰の目にも止まらないように生きながら、ひっそりと世界の変わりようを見続けているのでしょう。
こうして振り返ると、10年前のサンピアスの悲劇で運命が大きく暗転し、その時から道を外してしまったクレイシヴの辿った軌跡は、間違いなく「Cresteaju」の物語における重要な大黒柱です。
主人公ルナンを常に傍で支えてきたディザが、彼女にとっての現在と未来の導き手に等しい表側の準主役であるなら、クレイシヴは彼女が向かい合わねばならない過去へ誘う者としての裏側の準主役と言っても過言ではないと改めて思った次第です。
【全ての元凶たる銀の輪と神の頭の滅亡について】
さて、ここまでクレイシヴの作中行動について書いてきましたが、彼を凶行に駆り立てたそもそもの元凶であるシルバーリング、そして「神の頭」ことCR-0の末路について最後に簡単に記載して筆を置くことにします。
CR-0はフォールンを操って彼をシルバーリングもろとも深淵の遺跡に連れ込み、ルナンたちも彼を追って自らのもとに誘い込むことに成功しました。
ルナンたちが到着した時点でCR-0はフォールンを操って装置の封印を解いており、一時的にシルバーリングに自らの精神体を封入して、リング経由でフォールンの肉体に力を与えて彼の十八番たる剣技以外にも古代魔法などを駆使できるようにしたのでしょう。
(フォールンは生身の人間なので、直接フォールンの肉体に取りつくわけにはいかなかったのでしょう。直接取りついたらその瞬間にフォールンが死んでしまい、今後手先として活用できなくなりますし。シルバーリングに自らを封入したのは、ルナンたちを返り討ちにしてからフォールンを使ってルナンにシルバーリングを触れさせ、その瞬間にCR-Eの身体を乗っ取る目的を果たすためだったと思います)
深淵の遺跡内の書物に「シルバーリングは火や雷に弱い」と記されていたのも、その時にCR-0が宿っていた本体がシルバーリングであることの証明のようなものですし。
死闘の末に、CR-0は自らを封入したシルバーリングもろとも破壊されて完全に消滅し、クレイシヴを突き動かした全ての元凶、そしてルナンの未来を阻みうる障害は全て消え去りました。
ルナン、そしてクレイシヴが過去の運命の全てから解放されて新たな世界で生きていくには、この元凶どもの消滅が必須だったことを考えると、こうやってSwitch版で全ての決着を付けられて本当によかったと改めて思いました。
非常に長文で申し訳ございませんでしたが、ここまでお読みいただき、ありがとうございました。