目
僕は昔からあまり目が良くない。
視力もそうだがなによりも見間違えが多い。
街ですれ違った人をすぐに知り合いの〇〇さんと思ってしまって挨拶してしまったり、飲食店で食事をしている一般の方をお忍びで来ている有名人の〇〇さんと勘違いしてその人が大きな声で喋っている話に聞き入り、勝手な推測をしてしまったり、何かと目から入る情報で苦労してきた。
だからこそ、この年になり人一倍その辺のことについては気をつけているつもりだったのだが、またやってしまった。
先日の夜、吉本の劇場を出たところでその日出番が一緒だった後輩のカゲヤマの益田の後ろ姿を見かけた。
益田は駅に向かって黙々と歩いていく。
僕は駅とは逆の方向に行きたかったのだが、なんとなくついて行くことにしてみた。
この人は確かにカゲヤマの益田だよな?いつもの見間違いじゃないよな?
僕は黙々と駅に向かう益田の後ろ姿を何度も観察してこれは100%益田だ、と確信を得た…ハズだった。
益田は渋谷駅を通り過ぎて黙々と進んで行く。
コイツどこ行くんだ?と思いつつも後輩の素行、気になるではないか!
僕も一定の距離をおいてついて行く。
益田はひたすら歩く。
青山学院大学の裏の路地に入った辺り、僕はもうその頃には少し追跡に飽きてきたので益田に聞こえるくらいの声で後ろから、
「おーい、おーい」
と低く唸っていた。
しばらくすると益田がパッと振り向き、そして叫んだ。
「な、なんだ、さ、さっきからお、お前は!」
全然違う人だった。
服装とか歩き方とか荷物の持ち方とか、後ろ姿はあんなに益田だったのに前は全然違う人だった。
あーあ、またやっちまったのか。
と思いながらもそんな時にもこの災いの元の目は余計な情報を脳にもたらす。
被ってるキャップにでっかく漢字で
"不知火"
って書いてある。
不知火?なにそれ?どこで売ってんのそんなキャップ!?欲しい!
自然と口元が微笑んでしまう。
元益田さんは言う
「さっきっからずっと付いて来てよー、な、なんなんだよ!」
そうだ、この方にとてつもない不安を与えてしまったんだった!
でもどうしよう…ヤバい、デカいし強そうだ。
ここはもうこっちもヤバい奴返ししかない!
と意を決した私、一か八かだ。
ゆっくりと片足をあげドスン、とシコを踏んで
「不知火マン!」
うわーっ!と走って行ってしまった元益田さん。
あの時は本当に申し訳ありませんでした。
心からお詫び申し上げます。