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超一流になるのは才能か努力か?【アンダース・エリクソン】


著者:アンダース・エリクソン フロリダ州立大学心理学部教授
ロバートプール サイエンスライター

一言で言うと:「超一流と一流を分けるのは何なのか」を教えてくれる本

例えば大谷選手が超一流の野球選手になれたのは、なにも生まれもっての才能があったからだけじゃないだろう

本書の著者であるエリクソンさんは、30年以上にわたってって様々な分野のエキスパートを研究してきた。その中でわかったのは「超一流が持っている『才能』とは私たちが一般的に思い浮かべるものとは少し違っている」ということだった

一言で説明するのは難しいから、授業の中で順を追って解説していこう。今回の授業を受ければ、超一流になるために必要なことが学べるだろう

誰しもが才能を持って生まれている

突然だが「絶対音感」というものを知っているだろうか?

じつはこれも、持って生まれた才能ではない。近年の研究結果では、絶対音感は子供の頃に訓練することで誰でも手に入れられることが分かっている。

これは日本の心理学者が行った実験だが、音楽教室に2歳から6歳の子供24人を集めてピアノの音を聞き分けられるようにするトレーニングを実施した。

すると1回あたりたった数分間のトレーニングを1日に4,5回繰り返しているうちに、次第に音の識別ができる子供が現れ始めた。そして最後にはなんと参加者全員が絶対音感を習得した

この実験から、絶対音感は天賦の才能ではなく訓練によって誰でも手に入れられる能力だということがわかる

こういった事実から本書では「才能とは絶対音感などの個別の技能ではなくて『技能を身につけられる能力』こそが才能」だと語られている

つまり「新しい力を習得できること」こそが才能ということ。しかもこの才能は、大抵の人が生まれつき持っていると書かれている。訓練さえすれば誰でも優れた技能を身につけられるということ

ということは大切になってくるのは「どうやって訓練をするか」になる。そこで本書では「限界的練習」が必要だと主張している。ここからは「限界的練習」について解説していこう

【一般的な練習】では頭打ちになる

早速「限界的練習」について話していきたいが、これがなかなか説明するのが難しい。なのでこの授業では、

  • ステップ1:一般的な練習

  • ステップ2:目的のある練習

  • ステップ3:限界的練習

の3段階に分けて解説していく。まずは「一般的な練習」

もしも今子供だったとして「野球をやってみたい」と思ったら、何から始めるだろうか?とりあえず道具を揃えて、クラブや部活に入るのががごく普通の流れ

そしてクラブや部活にいるコーチから、野球の基本動作を習うことになるだろう。動きを教えてもらったら、それを身につけるために今度は一人で反復練習をする。例えばバッティングフォームを固めるために家で素振りをして、練習を繰り返していくことでだんだんと意識せずとも体が自然に動くようになってくる

これが一般的な上達の流れ。コーチから教えてもらった通り練習を続けていれば、ある程度は試合でも打てるようになるだろう。だが同じことばかりを続けていては、成長が止まってしまう。確かに基本動作を身につければヒットなら打てるかもしれない。だがホームランを打とうと思ったら、もっと別の練習が必要になると思わないだろうか

そこで必要になるのが第2ステップの「目的のある練習」。次のパートで詳しく解説していこう

【目的のある練習】ステップ1:目標を設定し集中して練習する

さてここからはステップ2の「目的のある練習」の解説に入る。本書では「目的のある練習」のポイントとして、

  1. 具体的な目標を設定する

  2. 集中して練習する

  3. フィードバックを受ける

  4. コンフォートゾーンから飛び出す

の4つを挙げている。まずは簡単な1と2について話していく

1の「具体的な目標を設定する」はさっきの野球の例で言うと「試合でホームランを打つ」になる。目標を立てたら今度はその目標を達成するために必要な要素を考えていく。例えばホームランを打つためには筋力アップやボールをマシンで捉える技術などが必要になるだろう。あとは必要な要素を満たすためのトレーニングを積み重ねて目標に近づいていくのみ

【目的のある練習】ステップ2:目標を設定し集中して練習する

そして一つ一つのトレーニングは、全神経を集中させて行わなければならない。だらだらと練習していても何も身につかない。筋トレをするにしても、どの筋肉に効いているのか意識を集中させながらやると効果が高まる。このように「目的のある練習」をするための最初のポイントは「具体的な目標を設定した上で、必要なトレーニングを集中して行うこと」

【目的のある練習】ステップ3:客観的なフィードバックを受ける

次は「客観的なフィードバックを受ける」。「目的のある練習」をするためには、フィードバックを受けることも大切

フィードバック:簡単に言うと「自分のやるべきことがきちんとできているのか確認すること」

例えば、ホームランを打つために筋トレを頑張ったとしよう。だがいくら筋力がついたからといって、バッティングフォームが崩れてしまっていたらホームランは打てなそうだろう

だから「今の自分が目標に向かってまっすぐ進めているか」を確認しておくことはとっても大事。だからフィードバックが必要

具体的にどうやってフィードバックを受けるのかというと、一番簡単なのは指導者に見てもらうこと

野球の例で言ったら、コーチにバッティングフォームが崩れていないかチェックしてもらえばいい。あとは「自分でチェックする」という方法もある。鏡の前で素振りをしたり、試合中の自分の様子をビデオで撮ってもらってチェックしたりする

こんな感じで、フィードバックは目標を達成するために必要不可欠。今の自分の努力が本当に正しい方向に向かっているのかどうかは、常にチェックしておこう

【目的のある練習】ステップ4:コンフォートゾーンから飛び出す

ここまでは「目的のある練習」をするために必要な、

  1. 具体的な目標を設定する

  2. 集中して練習する

  3. フィードバックを受ける

ことについて解説してきた。この3つというのは、スポーツや楽器を習う時には比較的よく聞くポイントだと思う。だが「目的のある練習」で最も重要なのは、これから紹介する「コンフォートゾーンから飛び出す」こと

コンフォートゾーン:日本語に直すと「居心地の良い領域」。つまり楽でいられるところから抜け出して、自分を限界まで追い込むということ

例えば「ホームランを打つ」という目標を達成するために、毎日素振りをすることにしたとしよう。自分が好きで野球をやっているのだから、素振りをするのもある程度の回数までなら楽しんでできるだろう。しかしコンフォートゾーンから飛び出すためには、毎日ギリギリまで自分を追い込まなければならない

事実プロになるような野球選手は、学生時代から1000回を超える素振りを毎日続けてきたような人たちばかり。やっぱりプロになるためにはそれくらいの努力が必要

このように「目的のある練習」ではコンフォートゾーンを抜け出して自分を限界まで追い込まなければならない

次は超一流になるための「限界的練習」

【限界的練習】超一流になるための限界的練習

前のパートまで「目的のある練習」に必要なポイントを解説してきた。しかし「目的のある練習」を続けていたとしても、一流止まりで超一流にはなれない

コンフォートゾーンを抜け出すのも当然辛いが、超一流になるためには「目的のある練習」からさらに一歩進めた「限界的練習」が必要になる

✅「限界的練習」とは、プロフェッショナルなコーチが高度な理論に基づいて設計したメニューのこと

このメニューは、プレイヤーの現在のレベルを少しだけ超えられるよう設定されている

そして指導を受けるプレイヤーはコーチの監督の下で練習を行い、常にフィードバックを受けながらメニューを調整していく。つまりは英才教育

野球の名門校だと、監督を外部から引っ張ってきたりする。あれはまさに「限界的練習」をするためにプロの指導者を雇っている例

「限界的練習」はその性質上、実施できる分野が限られる。これは技術やトレーニングの理論が高度に発達していて、プロフェッショナルなコーチが存在するスポーツや楽器演奏の分野でしかできない練習法

最高のプレイヤーから練習法を学ぶ

超一流になるためにはそれ相応の環境が必要で、環境を整えるためにはお金が必要なことは否定できない。だが本書では、どんな環境でも超一流に近づける方法が紹介されている

それは「最高のプレイヤーから練習法を学ぶ」。今の世の中には、ありとあらゆる情報が溢れている。自分が超一流を目指している分野の最高のプレイヤーがどんなトレーニングを積んできているのか、なんて割と簡単に調べられるだろう

メジャーリーガーが今までどんな練習をしてきたのかは、雑誌やらネット記事やらyoutubeやらで紹介されてたりする

✅超一流のプレイヤーが行っているのはもちろん「限界的練習」だから、そういう人たちと同じトレーニングを積めば必然的に超一流に近づけるだろう

これならどんな環境でも「限界的練習」に近いトレーニングができる

ただしこの方法で一つ難点があるとすれば、客観的なフィードバックを受けづらいこと。こればっかりは自分で自分をチェックしながら、目標にまっすぐ向かうための微調整をしないといけない

自主練習に膨大な時間を費やす

ここまでの話をまとめると、練習には

  1. 一般的な練習

  2. 目的のある練習

  3. 限界的練習

の3つの段階があった。そして超一流になるためには最高峰にあたる「限界的練習」が必要不可欠。しかし「限界的練習」でさえも、それだけでは超一流にはなれない

他に何が必要なのかというと、それは「自主練習」。しかも膨大な時間をかけたもの

いくら野球の名門校に入ったって、監督が毎日つきっきりで指導してくれるわけではない。教えてもらったことを自分一人で身につけていく作業が必要になるはず

この本の著者は、とある音楽学校のバイオリン専攻の学生に対して、練習時間に関するアンケート調査を実施した。その結果成績上位の学生たちは、他の学生と比べて練習時間が桁外れだった

超一流に関する研究を重ねてきた著者のエリクソンさんは「近道をしてエキスパートになった天才は一人もいない」と語っている

✅プロの指導者の下で練習を積むことはもちろん有効。しかしそれに加えて膨大な自主練習を重ねない限り、超一流にはなれない厳しい世界

まとめ

超一流になるための素質自体は、ほとんどの人が持って生まれている。ただし生まれ持った才能を開花させて超一流になるためには、「限界的練習」と膨大な練習時間が必要になる

あの大谷選手だって、才能だけでメジャーのスタープレイヤーになったわけじゃない。きっと私たちには想像しえない血の滲むような努力があったはず。超一流になるというのはそれほど大変


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