ホワイトカラー消滅　私たちは働き方をどう変えるべきか (ＮＨＫ出版新書)【冨山 和彦】

著者：富山和彦　IGPIグループの会長で、地方の中小企業を活性化させる支援をしている日本競争プラットフォームの経営者

一言で言うと：2040年に向けて働き方をどう変えるべきかを教えてくれる本

今日本は少子高齢化や人口減少、東京への極集中、財政危機など数多くの問題を抱えている。その中でも働き手の不足は特に深刻な問題になる。実際にリクルートワークス研究所が出した「未来予測2040」という報告書によると、2040年に日本で1100人の働き手が不足すると予測されている

労働者が足りないと、将来私たちの生活に不可欠な介護や医療物流などのサービスが受けられなくなる可能性も出てくる。だがそんな時に「生成AI」が生まれた。AIをうまく活用することができれば、働き手不足の日本でも増え続ける高齢者を支えつつ、社会システムを維持することができる可能性が出てきた

ところが著者によると「AIが浸透すると『ホワイトカラー』つまり今オフィスでやっているデスクワークの仕事の8割が消滅してしまう」と指摘している。そこでこの著者から、そんな激動の時代を生き抜くためにどのように考えどう行動すべきかを学ぼう

今日の授業を受ければ、2040年に向けて私たちが働き方をどう変えるべきかを知ることができるようになるだろう

1100万人の人手不足と人余りが同時に発生する

さっきも言ったように、2040年には日本で1100万人の労働者不足になるという試算が出ている。だが日本で1100万人もの労働者が不足しているのにもかかわらず、なぜか「人が余って仕方ない」という産業もある。それがさっき言った「ホワイトカラー」つまり、

• 事務員

• 弁護士

• 税理士

• 会計

• デザイン

• 中間管理職

• コンサルティング

などの仕事。こういうデスクワークの仕事はAIにとって変わられる可能性が高く、著者は「8割くらいのホワイトカラーの仕事がなくなる」と指摘している実際に三菱総合研究所の試算によると「2035年の段階でホワイトカラー事務職がすでに180万人は余る」ということが分かっている

一方猫の手も借りたいくらいにひどい人手不足になるのが、

• 警察官

• 自衛官

• 介護医療

• 農業

• 水産業

• バスの運転手

• 運搬・輸送

飲食などの現場で働く「エッセンシャルワーカー」の仕事になる。ちなみに「エッセンシャル」というのは「必要不可欠」という意味で、多くの人が生活する上で必要なサービスを提供している職種のこと。こちらも三菱総合研究所の試算によると「2035年の段階で専門技術職や運搬などの仕事が270万人以上の人手不足になる」という試算が出ている

タクシーの運転手あたりは自動運転になっていそうだが、残念ながらほとんどのエッセンシャルワーカーの仕事はどれだけAIを取り入れても絶対に人の手が必要な部分が出てきてしまうため、なくなることはない

✅今後は高学歴で税理士や一般事務、コンサルティングなどのホワイトカラーの仕事の価値が下がって、代わりに現場で汗水垂らして働くエッセンシャルワーカーの価値が上昇する

という価値の逆転現象が日本で起こる可能性がある

これからは現場仕事の時代がやってくる

残るホワイトカラーの仕事は優秀な経営者か、クリエイターだけになる

ここまで説明したように、2040年には8割のホワイトカラーの仕事がAIによってなくなってしまう。だが、

✅残りの2割は、今まで通りホワイトカラーの仕事を続けられる。その2割が「優秀なクリエイター」か「経営者」になる

まず「クリエイター」はAIには真似できない独自の才能を持つ人だけが生き残ることができる

例えばスティーブン・スピルバーグ監督の映画や藤井風さんの音楽、村上春樹さんの文章のように、オリジナリティあふれる作品を生み出す人たちのこと

だが残念ながら、それ以外の平凡なクリエイターは生成AIにとって変わられてしまうだろう

次に「経営者」。彼らは自分の頭で考えて世の中の問題や課題を見つけてくるし、組織を動かしたり経営の責任や意思決定などの人間じゃないといけない仕事があるため、今後も不可欠な職業として残るだろう

どれだけAIが優秀でも、AIに責任を取ってもらうわけにはいかない。とはいえこちらもクリエイター同様に並みの経営者ではダメで、生き残るのは優秀な経営者に限られる

このように自分の頭で考えてやる仕事は残るが、作業になっているようなホワイトカラーの仕事は消滅していく運命にある。そのため著者は「学生でなんとなく文系を選んで、漫然とホワイトカラーの仕事をしようとしているのなら考え直した方がいい」と警鐘を鳴らしている。AIが2秒でできるようになることを4年かけて学んでもあまり意味がないから

例えば「フェルミ漫画大学」も全然大丈夫じゃない。最近は聞き取りやすいAI音声も出てきてるし脚本だってAIで書けるようになってきてるし、イラストもAIが書いてくれるから

エッセンシャルワーカーの賃金が大きく上昇する

まず現在医師以外の医療や介護・農業・物流などのエッセンシャルワーカーの仕事の賃金は比較的低い傾向にある。その理由は2つ

1. 人材が多くて買い手がたくさんいること

2. テクノロジーの活用が難しくて生産性が低いこと

ネットの配信者と違って、介護や農業は一人が1時間にできる仕事量に限界がある。だがここに来てエッセンシャルワーカーの仕事がひどい人材不足に陥ってきているし、何よりAIを活用することで生産性を2～4倍に上げることができると見込まれている

イメージとしては、AIの活用により一人で20人以上の介護を担当したり一人で広大な農地の管理が可能になるような感じ。それこそ、

✅学歴がなくても現場でバリバリ働ける人の方が稼げるようになるだろう。ついにエッセンシャルワーカーが評価される時代が来る

ちなみにすでにそういう例もあって、北海道の猿払村のホタテ漁では村全体で価格維持とブランド化に成功しているため、漁獲量の多い時期には40代で年収3000万円、20代でも2000万円の収入を得ることができている

さすがにここまで上がるかはわからないが、現場仕事の収入が上がっていくのはほぼ確実と言っていいだろう

ホワイトカラーは現場仕事への転換を考えなければならない

これまで説明してきた通り、今後8割のホワイトカラーの仕事が不足になる一方で、エッセンシャルワーカーの人材不足は深刻化していく。であればシンプルに、余っているホワイトカラーをしている人たちがオフィスを離れて現場仕事に移行すれば人材のミスマッチを解消することができる

そこで現在ホワイトカラーの仕事をしている人たちは、まず今勤めている会社の現場で活躍できる人材になることを目指すといいだろう。もし今勤めている会社で現場の仕事につけない場合は、スキルをから学び直して寿司職人やバスの運転手、医療従事者、介護、ホテルマンなどの現場仕事に転職することが求められる。もちろんノウハウだけじゃなくてAIの導入によって現場で必要なスキルも変わってくるはずなので、そういう新しいやり方を学ぶ

しかしこれまでスーツ姿で事務やコンサル資料作成をしていた人たちが、いきなり介護や運転手、農業に転職するのは大変。なんとか逃げ切ろうとする人も出てくるだろう

✅50代ならギリギリ逃げ切れるかもしれないが、50代未満の人はこの影響をもろに受けることになる。だからできるできないに関わらず、やるしかない

ちなみに著者はこうした状況は明治維新による「武士階級の消滅」に似ているという

江戸時代の武士は殿様に使えるサラリーマンのような存在だったが、江戸時代から明治時代になると徐々に武士が必要なくなってきた。武士の賃金もどんどん減らされ、そこで政府は「数年分のお金を支払うので武士をやめなさい」というそう今でいう早期退職制度のようなものを導入した。そうした状況の中で、武士たちは政府に抵抗を示しながらもやむを得ず武士を辞めて官僚や軍人、教育者や商人などに仕事を変えていった

今ホワイトカラーをしている人たちは、この時の武士と全く同じ状況にある。パソコンでやる資料作成や事務とかはAIに任せて、現場に出て体で稼がなければならない

東京から地方の現場仕事に目を向けてみる

放っておいても人が集まってくる東京と違って、地方では人口が減少の一途をたどっている。その結果地方では、一人が複数の役割を担わなければならないほど人手不足が深刻な状況

実際に2024年1月の全国の平均有効求人倍率は1.27倍だが、

• 宮城県：1.33倍

• 群馬県：1.36倍

• 富山県：1.43倍

など、地方での人材不足が顕著になっている。そういう意味でも、

✅東京で仕事の争奪戦をするより、地方に目を向けてみると意外にいい仕事が転がっている可能性がある

また東京だと家賃や生活費が高く自分で自由に使えるお金が少ないため、令和5年の東京都の合計特殊出生率は0.99(全国では1.20)と全国で最も低くなっている。今の東京で働きながら高い家賃や食費、高熱費を払ってさらに脱毛・美容院・筋トレ・デート・結婚・子育てとなるとかなりハード

つまり今みんなきついのに、足をプルプルさせながら東京で踏ん張っている

一方地方なら年収350～400万円程度の仕事でも、貯金も結婚も育児も十分可能。それでも若い女性たちが東京に来るのは、地元に高収入の仕事が少ないから。だからこそ地方の経営者は、AIを導入してエッセンシャルワーカーの生産性と賃金を向上させ、魅力的な仕事を作っていく必要がある

ちなみに著者も、経営難に陥った地元の企業をAIなどで生産性を高めて再建する事業を手掛けている

グローバルな大企業から地方の中小企業に目を向けてみる

日本のGDPの7割を占める中小企業が活性化しないと、日本経済は良くならないから

まず前提として、日本を代表する世界で戦っているトヨタ自動車やSony、ユニクロ、任天堂などのグローバルな大企業たちが日本を支えていると思っている人も多いと思う。もちろんこういう会社は日本の宝であり、外貨を稼いでくれる。だが、

✅大企業ばかりが成長してもそこまで国内の雇用は増えないし、日本全体の豊かさには繋がりにくい

なぜなら任天堂やSonyなどのIT産業では高度な人材のみを必要としているし、製造業の多くはベトナムや中国などで作ることが多いから。実際トヨタ自動車・Sony・ユニクロ・任天堂などのグローバル企業が日本国内で生み出すGDPは全体の3割程度に過ぎない一方で、地方の無名な中小企業が生み出すGDPは7割を占めている。数が圧倒的に多いから

そのため著者は「中小企業ひいては地域経済、地方経済が全国的に回復することなしに日本経済の復興はありえない」と言っている

それども『地元の会社って給料が安そうだし、すぐに潰れそうでなんか怖い。できれば任天堂に就職したい』という気持ちはわかる。ただ地元で活躍している中小企業は大企業と違ってあまりデジタル化が進んでいないため、AIなどを導入すれば生産性が2～3倍に成長する可能性がある会社がたくさんある。それに現場仕事も多い。つまり可能性しかない

そういう意味でも地元の会社の経営者はAIを活用して生産性と賃金を上げないといけないし、私たちのような労働者は地元のAIを活用している賃金の高い会社への転職を検討してみるといいだろう。自分ひいては日本全体にとってメリットが多いはず

日本の政府は生産性の低い企業が潰れるのを黙って見過ごすべき

まず日本では最近、ついに多くの会社が人手不足と賃金アップができずに潰れ始めている。実際に東京商工リサーチによると、2024年の倒産件数は1万6件で、1万件を超すのは2013年以来11年ぶりになる

一見悪いことのように思えるが、実はいいことになる。なぜなら、

✅生産性が低くて賃金の安い企業が淘汰されて、その人材が生産性と賃金の高い企業に移ることで働く人の全体の賃金が上がっていくから

時給1000円の会社が潰れて時給1400円の会社で働くことになれば、働いている人はみんなハッピー

ではなぜ今まで政府は生産性の低い会社を助けてきたのか？それは失業者が増えてしまうから。人が余っているときは生産性が低くて賃金の低い企業でも、誰かを雇用して社会保険料とかを払ってもらった方が大量の失業者が出てしまうよりマシだった。多少賃金が安くても、会社に雇用されていた方が無職よりはマシ

だけど今は猫の手も借りたいくらい深刻な人手不足になっているため、一時的に失業者が出たとしても現場作業やエッセンシャルワーカーの求人はどれだけでもある。だから生産性の低い会社が淘汰されるのを政府は静観している

そもそもあんまり儲かっていないということは「価値を提供できていない」ということなので、そういう会社はなくなってもそんなに困らない。というか誰も気づかないことが多い

まとめ

今回の内容で、今後日本でどういうことが起こるのかがより深く理解できたと思う。とりあえずは現場仕事への転職を視野に入れておかない。その時のためにジムで体を鍛えておくのもいいだろう