古代骨が語りかけてくるもの
「古代骨」を見たことはあるでしょうか。化石までは古くない、ごく最近(1000年くらいの単位)の遺跡から出土した骨です。
写真は、オホーツクのモヨロ貝塚から出土した、エゾタヌキの古代骨です。サンプル数が非常に少なく、現生のタヌキと比較論文は書いていませんが、何百個体とタヌキの頭骨を計測してきた私が見ると、ミリ単位でエゾタヌキかホンドタヌキかおよそ見分けることができ、この古代骨(約1000年前)もエゾタヌキの特徴を示していることが解ります。
ここからは、私の仮説ですが、北海道には元々、タヌキは生息していたのだろうか?という疑問を持っています。というのは、ホンドタヌキは、中期更新世(12万年以上前)の古い時代から化石が出ているのに対し、エゾタヌキは、比較的最近の遺跡からしか出土していないのです。出土していないだけなのか、あるいは、元々いなかったのか?という疑問がそこで生じるわけです。
縄文人は、野生動物を移動させてましたから、もしかしたら、本州からタヌキを北海道へ連れて来たのではないか?という疑いを持っています。
もしこの仮説が正しいなら、エゾタヌキは、古い時代の国内外来種ということになります。あるいは、エゾタヌキは元々いたけれど、ホンドタヌキと混ざっている可能性もあるかもしれません。
津軽海峡が氷期に陸化し、その後、最後に海峡となったのは、今から約10~15万年前ですから、エゾタヌキとホンドタヌキは、かなりの長い期間、地理的に分断されていたことになります。しかし、DNAでは亜種レベルの違いしかありません。遺伝的に見ても、不思議なのです。古代骨を触りながら、このタヌキは、実は人類が北海道に連れて来たのではないか?そんなことを骨が語りかけているような気がしたのです。
※トップの写真は、北海道大学植物園・博物館収蔵標本
現生のエゾタヌキとホンドタヌキ頭骨形態の地理的変異の論文は以下。
Haba, C., Oshida,T., Sasaki, M., Endo, H., Ichikawa, H. and Masuda, Y. 2007. Morphological variation of the Japanese raccoon dog: implication for geographical isolation and environmental adaptation. Journal of Zoology 274(3), 239-247. ➡論文は、以下より。
https://zslpublications.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1469-7998.2007.00376.x