朝4時、突然の来客。


午前4時。玄関の方からガチャガチャと音がして目を覚ます。

夫か。「今日は忘年会だ!」と大張り切りで出社した夫がこんな時間に帰宅したようだ。しかし声も聞こえる。酔っ払いのひとりごとにしてはずいぶんハキハキと。なぜ?

ベッドから起き上がり、寝室のドアを開け、「おかえりー」と声をかけてみる。すると夫はわたしを見て、ばつの悪そうな顔で「あぁ…起きたか…」とこぼし、「ほんとにごめん!!これは緊急事態なんだ!」と、何も聞いていないのに言い訳をはじめる。

夫と逆側を見るとそこには、メガネをかけた真面目そうな男性が申し訳なさそうに立っていた。会社の後輩だ。ふたりで終電を逃してさっきまで飲んでいた、我が家まではタクシーで帰ってきたが後輩の家は遠いので始発までここで待たせて欲しい、手前の部屋でいい、という話だった。

夫は静かにしていれば大丈夫だろうと思っていたようだが、わたしは起きてしまった。ド派手な柄の全身もこもこパジャマに、とっ散らかった寝癖、100%すっぴん。その状態で今、わたしは決断を迫られている。

にこやかに出迎えるのか、はたまた追い出すのか

なんて言っても選択肢は実質前者しかない。こんなとき、自分の掃除の雑さをうらむ。最近は以前よりはこまめに行うようになったほうだけれど、むかしから掃除が苦手で、普段人を家に招くときは2週間前までの完全予約制を敷いている。夫もまた掃除が苦手である。夫おおお!!!とキレたくなったが、事情もわかるし、外は寒いし、何より後輩くんの子犬のような顔。これは、いつか『家、ついて行ってイイですか?』の取材を受けることになったときのリハーサルだと思って、脳内でレット・イット・ビーを再生しながら彼を受け入れることにした。「散らかってるんですけどどうぞ」と言いながら、まずいほんとに散らかっている…と心に変な汗をだらだらかきながら、スリッパを差し出した。


至急、見られてはならないものを奥へしまい込む。座ってもらい、お茶を出す。「飲み会はたのしかったのですか」「どんな話で盛り上がったのですか」などと自然に彼に質問を投げかけるふりをしながら、机の上を整頓する。はあ、普段からきれいにしておこう。けれど、そんなわたしがきれいを保っている場所がある。そう、トイレだ!彼にトイレに行ってほしい。ピカピカのトイレを堪能してほしい。と思うのに彼は一向にトイレへは行かない。


おもしろいのは夫である。後輩に対して、「ほんと期待してるから」「大丈夫?会社辞めたくなってない?」などと、先輩面が止まらない。いやいやこれは、「大丈夫?妻辞めたくなってない?」案件だろう。わたしはちょっと片付けたら寝室へ戻るつもりだったが、後輩くんはとても温厚な青年でなんと共通項もあり会話が弾んでしまい、気づけば始発のありそうな時間帯。

「そろそろ電車が動き出しそうなので帰ります!助かりました!」と彼は立ち上がる。「トイレはこちらにありますよ」と勧めてみたが、「大丈夫です」とあっさり返され、披露失敗。夫は「駅まで送るよ」と言うが、「大丈夫です、ひとりで歩いて行けます」と後輩くん。結局、「じゃあ着いたら連絡してね。心配だし。連絡待ってるから」と夫は彼をマンションの外まで送ることにした。普段見ることのない、夫がいい先輩をしている姿を見られて、実はちょっとうれしかった

もう2度とこんなことはしませんと夫は誓っていたけれど、実は結構、たのしかった(世の中の家族と同居している皆さんは真似しないでね!)。

しかし夫は、寝た。秒で寝た。連絡待ってるからと言いながら睡魔に勝てず速攻寝て、目を覚ましたのは昼の12時だった。やはり夫はどこまでも夫であった。


おわり

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望月
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