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011話 ヒロイン

 けれど、自覚しているからこそ、煙草の向きを逆に挟み、火の着いてる方を掌側にして、何食わぬ顔で歩く。

・・・居たっ!

 OTスタッフと患者の仲間達。

「お茶、要りませんかー? 今日はレモンティーですよー」

 いつもながらの気さくっぷりで、裕司の心をホッとさせてくれた。

 次に向かったのは、主にアルコール依存症者が利用する喫煙所。誰も居なく

・・・異常なぁ〜し!

 すると、すぐ傍にある正面玄関の駐車場で人集りを発見。

・・・何事かぁ?

 裕司は当然、野次馬魂で歩み寄る。5〜6人に囲まれてる人物を見て電撃が走った!

・・・メ、メグミだ! タナハラ メグミ!!

 今回の入院中で、番号を付けるのも何だけど、文句無くNo.1に裕司のお気に入りに輝いている人物。そのタナハラ メグミがアルコール患者らと和気藹藹としている。

 そんな状況なのに「裕司のメグミだ〜!」と言わんばかりに、遠くから手を大きく振ってみた。

 メグミは、ちゃんと気付いて、満面の笑みを返してくれた。アルコールの奴らは、裕司とメグミの空気感を察してくれて、そそくさと解散した。

 メグミは3北病棟に、ほんの少しだけ入院中、仲良く接していたカヨコさんへの差し入れを持って来たと言う。

 今も3北に居る裕司なら都合良く渡せそうだから、それらの入った紙袋を裕司に託した。

 しかし数秒後、考えを改めてきた。

「直接会って話したいから、自分で渡すね」

「患者同士では会うのも渡すのもぉ、難しいかもよぉ?」

 裕司は知ってる限りの忠告をした。

「そんなの可笑しいよ」

 メグミは元看護師で多少なりとも、知識を持っている。

 一先ず、外来ロビーの出入口に一番近い長椅子で腰を下ろす2人。

「時間開放中は、外来へは行かないで下さい」

 そのように、一度、警告されているけど、裕司の心がそれを無視した。

・・・だってぇ、今回の入院中、多くの異性患者や異性看護師と出逢った中で、断トツにNo.1の人だょ〜?

 背が低く。茶髪が肩まで届き、ソレを三つ編み込みにしたり、ポニーテールにしたり。

 色白で、ソバカス(本人はコンプレックスかもしれないけど、コレもチャームポイント)、後ろ首元に太陽柄?のタトゥ。

 何よりも頭が賢いし、思いやりのある言葉使いが出来るとこも、マジで素晴らしく、裕司の好みの人なのだ。

 初めに出逢ったのは、病院内のアルコール自助会の時だった。

 マジに想う人だからか、裕司が躁状態の無敵中なのに、全く気軽に声を掛けられず、でも彼女の話す番には目と耳を集中して聞き入っていた。

 メグミは時折、ノートに目を落としたりしながら話していて、そんな他の人には無い様子も、好印象をとして裕司の心を掴んで放さなかった。

 何1つコンタクトを取れず、悔しい思いをしていたある日の自助会終了後、テーブルや椅子の片付け時に、突然、メグミから喋って来た。

「高橋さん、退院するんですか?」

 確かにその日の自助会で、裕司は退院を仄めかす発言をしていた。

 けれど、そんなちっぽけなワードでわざわざ喋り掛けてくれた事に

・・・もしかして、メグミも裕司に、喋り掛けるきっかけを探していたんじゃないのぉ?

 メグミの言葉を皮切りに、裕司も今まで喋りたかった想いが爆発した。

 けれど、なぜかどうでもいいような事ばかり、口走ってしまっていた。

「僕はぁ、自助会でぇ、もっとイッパイ話したいんだけどぉ、汗が滝の様に流れるから途中で止めちゃうんだよぅ」

「全然、気にならないよ。そーゆーのも、一生懸命に話している様に見えて格好いいですよ」

・・・っなんて! な、なんて配慮のある言葉を、自然にスラスラ〜っと言える人なんだっ!

 裕司は感激して、更に更に好きになった。

 裕司自身も、自分が傷付く言葉は相手に対して決して喋らない様、言葉は選んで話せると自負している。

・・・メグミもイッパイ苦労をしたりして、人の悲しみを理解出来る力が有るんだろぉ。

 裕司は心の深い所でメグミと繋がれた感覚を、勝手に感じ取っていた。

 その後の自助会でも数回、会えてはいたけど、お互いに喋り掛けることが出来ずに居た。

 すると、何の予告も無く、メグミは自助会から消えた。

・・・次回は来る。次回こそは来るっ。

 毎回、願っていたが全然。

・・・退院したのかなぁ?

 その結論に行き着いた。

 その頃の裕司は2南病棟で糞退屈な土日に不満を抱いていた。

「時間開放を土日もさせてもらえませんか?」

 主治医に頼み、結果、3北病棟に転棟出来て、まず驚いたのが彼女の存在だった。

 タナハラ メグミがアルコール病棟だったのに、精神病棟へ移っていた。

・・・それを知ってりゃ、もっと早く「時間開放したい」って言っていたのにっ。

・・・同じ病棟で一番好みの女性と混じ合えるなんて、……夢みたいだっ!

 メグミは元看護師だけあって、弱っている患者や不自由な患者に積極的に優しく接したり、手助けしている姿は裕司の良心をも擽り

・・・見習うべき所がイッパイ有るなぁ。

 感服してしまう程に素晴らしかった。

 ただ一つ疑問なのは

・・・看護職の人が後ろ首元にタトゥ? ……そ〜言えば、看護師の元嫁も右胸と腰にタトゥ入れていたなぁ。そ〜ゆ〜もんなのかなぁ?

 本人らに訊けば解決するのに、自分勝手に納得していた。

 そんなメグミが今、裕司の左横に並んで座っている。それも、裕司と喋る目的だけで。

 裕司は喋りネタを探った。

「そ〜言えばぁ、アルコールの施設には顔を出したぁ?」

「まだ行ってないけど、そこの依存症施設に行くつもり」

「僕も行っていぃ?」

 メグミは驚きの表情のまま。

「この間、異性の問題も話していましたよね?」

 恐らく院内自助会で、裕司は自爆行為のように余計な事を口にしていたのだろう。

・・・記憶にございませ〜ん。

「メグミさんの事は大好きだけど、そ〜じゃなくて今の施設で13カ月学んできて、まだまだそこでも成長できるだろ〜けど、違う所に移るとゆ〜選択肢も有りかなぁ? って。そして、そこに知り合いが居たら尚、良しかなぁ? って」

 裕司は滑らかに言い訳した。

「うん、それなら良かった」

・・・何とか誤魔化せた。

「ココの病院でも、薬物の自助会とかスピーカーとかやってるよ?」

 そんな事、誰も教えてくれなかった。

・・・今回は依存症の病で入院していなぃから?

「何曜日に有るのぉ? ……頭に叩き込むから教えてぇ?」

「そんなの忘れます! 書きます、千切ったのでもいい?」

 メグミは鞄から出した、自分のノートを破り、その切れ端に読み易く綺麗な字で記入し始めた。    
 書き終えた文字の多さに

・・・書いてもらって助かったぁ。

 普通にそう思った。

 後で、凄く後悔した事なんだけど、その書き終えた紙の裏側にでも「『メグミのスマホ番号』をついでにぃ?」って感じでお願いしておけば

・・・案外、あっさり教えてくれてたかも? 玉砕覚悟で頼むだけ頼んでおけば、こんなに後悔せずスッキリした気分だったりしたのかもっ?

 最近になって、やっと自分を客観的に観れる様になってきた。

 自分の気持ちの整理が出来る様になったのは、サオリとの会話がきっかけだった。

 薮から棒にサオリが

「今の髪、……シャンプー変えた? ボブヘアーみたいでいいね」

「え?……何もしてないょ?」

「……あっ、そー言えばこの間、売店で凄い頭の人が居たんだよ!」

「どんなぁ?」

「もおっ、金髪でパーマが爆発してて、3北の人じゃなーいー?」

「ふっ……、そんな人が居たら、すぐお近付きになってるょ」

「そーなのー?」

「僕も、金髪やアフロやドレッドやってたし」

「…………あちし、そーゆー人、苦手って言うか嫌いなんだよねー」

「えぇ〜?」

「そんな髪型したいのー? …だったら、…あちし無理。だって、親にだって合わせ難いし、保育園とかにそんな頭のパパだったら、子供が可哀想だし、あちし自身が恥ずかしいし……」

・・・自分のことを「わたし」じゃなく「あちし」と言っとる奴が、何を恥ずかしぃと?

 裕司は心の中で毒付いた。

「ん〜……、そ〜だね。でも、僕の今までは、元嫁との関係の時にそ〜ゆ〜髪型をしていて、それ以外の髪型を好んでした事が無いんだぁ。だから今、伸ばしているのは、パーマを当てよ〜かと」

「今のままでいいよー……、自然な感じ」

「あ! じゃぁ、昨日の裕司が右側の髪を丁髷に縛っていたのも嫌だったのぉ?」

「え? ……う、うん」

「え〜……、言ってょ〜……」

 こうして、髪型について互いの思いをぶつけ合えた事はとても良かった。

 もし、どちらかが嫌なのに許す想いを継続していたら、そうゆうのが我慢に変化し、ストレスに変化して

・・・結果的に悪い関係へと移ってしまいそ〜だからっ。

・・・お互いがHな行為で結ばれる前に、相手の事を理解して、許し許されが丁度良い塩梅で生活が出来るかを見極める事こそが、恋愛期間に行なうべき事なのかなぁ?

 今回のハグ中、当たり前の様にサオリのお尻を触って始めたら

「今日、生理だよ」

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