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実りある何もしない時間|ひかり

一年ほど前からからだのメンテナンスとして、はりきゅう院に通っている。

腰を痛めた時に扉をノックしたことがきっかけで通い始めたのだけれど、現在は腰の痛みはほとんど感じないほどに回復し、さらに元々備わっているからだの機能が全身で巡りだしているのを感じられるようになった。

そんなはりきゅう院の先生との出会いは、運命の出会いと言ってよいほどに大きな影響をいただいている。
先生の手がからだに触れると、ふかふかの優しさに包まれ、私を大切にすることに、ひたひたに浸れる、最高のご自愛の時間を過ごすことができる。
治療を受け始めてから私は、日に日に健康になっていて、日に日に幸福感が増していっている。
先生の人柄と治療とからだを通して私は私と出会い直すことができたのだ。

そうして通ううちに治療だけでなく、お家で行われるお餅つきに呼んでいただいたり、ご飯をご馳走になったり、そこで行き交う人達との新たな出会いに交わらせていただいたりするようになった。
先生のお家は山の麓にある標高200mほどの街にあり、光や緑が透き通るように綺麗で、何種類もの鳥の囀りが重なり響き、気持ちのいい風が絶えず吹いている。
そこはとても開かれた場所で、先生ご夫婦の人柄に惹かれてたくさんの人が自然と集まってくるような魅力的な空気がもくもくと漂っている。

つい先日は家族で泊まりがけで遊びに行かせていただいた。
炭火を囲んでゆったり話をしながら夕食をいただいて、幸せに眠りにつき、朝起きると最高の秋晴れが広がっていた。
肌寒かった夜の風とは変わって、心地よい風が吹き、太陽の光が柔らかく差して、田んぼの稲が光っていた。
そんな中で朝食を食べて、珈琲を飲んで一息つくと、心の底から豊かだった。
食べた食器もそのままに、ゆっくり話をしながらどこかへ出かけようかと言うけれど、今この時間の心地よさにからだを動かすことができずにいた。
「とりあえず片付けをして考えようか」と言って片付けるも、結局その日は猫を眺めたりして、みんなでまどろみの中に過ごした。

こんなふうに何もしないで過ごしたことあったっけ?と家族と思い返すも、多分なかった。
この日から数日経った今も私たちは、じんわりじんわり広がる充実感と共に過ごしている。
何もしないことって、何も残らないと思っていたけれど、違っていた。
何もしない時間は、私の動力を動かすためのエネルギーを蓄える必要な時間なんだということに気づいた。
何もしなくていい、これもまたご自愛だ。

先生に導いていただいた、束の間の秋の豊かな時間だった。

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HAKKOU(はっこう)/リレーエッセイ
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