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エブリデイ ハネムーン | 莉琴

きっかけは忘れてしまったけれど、当時お付き合いしていた方と「きれいな海を見たいね」という話になった。
沖縄本島か石垣島辺りかと見当をつけていたら「モルディブとかどう?」と提案された。
(え、なんでもない日に行っていいところだっけ?)と思いつつ横を見ると、スマホで旅行会社を調べ始めている。
わたしもちょうど新婚旅行でモルディブへ行った友人から話を聞いたばかりで興味があったため、その後は気づいたら水上コテージでシャンパンを飲んでいたようなスピード感で旅は実現した。

朝昼晩それぞれ異なるレストランで食事をして、野生のウミガメと泳いだり、ピクニックセットを持って無人島を貸し切って一日のんびり過ごしたり、夕陽を見ながらアーユルヴェーダの施術を受けたり、これでもかというくらい非日常にどっぷりと浸かった。

ある日のディナータイムに給仕の方から、
「ハネムーンですか?」と尋ねられた。
付き合いたてで違うと答えるとにっこり笑って「everyday honeymoon」と返された。
その途端、旅行前からなんとなく引きずっていた《特別な日でもないのに、特別なことをしていいのか》という、うっすらとした遠慮や気後れが一気に吹き飛んだ。
記念日など節目にお祝いするのもいいけれど、割合的には圧倒的に多い”特別ではない日”も思う存分スペシャルに過ごしたって構わない。
わたしは誰に、何に遠慮していたんだろう。


モルディブ旅行の相手と今は家族になったが、同じように願望の即現実化は続いている。
好物のイクラを思いっきり食べたいなあと言ったら北海道旅行が、感動するくらいおいしいカニを食べてみたいと言ったら松葉ガニ解禁日に合わせて城崎旅行が実現した。
わたしは手近ないいもので済ませようと省エネにまとまりがちだ。だから、楽しむなら本物を存分に、とブレない家族の姿はとても新鮮に映る。

先日鉄板焼きのコースを食べに行ったとき、
「メインはどうされますか」と尋ねられた。
《サーロイン or フィレ(+4,400円)》

(もともと極上のお肉だからどちらでもおいしいだろうし、サーロインで十分でしょう…)とわたしが脳内会議をしている間に「フィレで」と家族は即答していた…!

いつの間にか自分の中にまた”この程度で十分精神”が幅を利かせていることに気付かされた。
わたしの「この程度」はそこそこの程度を想定しているから、さらに疑似満足にハマりやすい。ドンピシャではなくとも、諸々総合的に考えた結果、最良の選択として映ってしまう。
自分が好きなものを素直に自由に選ぶ。
everyday honeymoonで暮らしていきたい。


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HAKKOU(はっこう)/リレーエッセイ
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