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つながっていく|茉記
おひさまが一段と高くなるころ、額の汗を拭きながら仕事場のドアを開けたら、おおきなバケツいっぱいのハーブが迎えてくれた。
ローズマリー、ユーカリ、スペアミント、キューバミント、ローリエ…
この日ご一緒した方が、前日に畑から収穫されて持ってきてくださったのだ。
玄関いっぱいにたちこめた、力強い枝ぶりのハーブらしい香りが、涼しさを運んでくれていた。
「薬草と小さな花束」というワークショップを
ライアー奏者の山下りかさんとご一緒させていただく前日のことだった。
わたしにとっては、どきどきでいっぱいのはじめてのワークショップ。自然界のハーブにネットワークがあって、畑からも応援に駆けつけてくれたように感じて、うれしさがこみあげてきた。
会社員の頃「なに食べたい?」と聞かれたら
「なんでもいいです」としか答えられない時期があった。聞いてくださった方々には、大変失礼なことをしていたと思う。
食べたくないものはたくさん浮かぶのに
本当に食べたいものにたどり着くことができない。
生まれながらの食いしん坊のわたしが…である。
本来の自分から、ずいぶんと離れたところまで来てしまっていたように思う。
その頃の居場所を離れた頃、世の中もストップしたようになり、日々の暮らしのスピードがずいぶんとゆっくりになった。ある本を読んだことをきっかけに、日常のちいさな選択のたびに、本当にぴったりかを自分自身で感じてみることにした。
続けられたのはぴったりであることが、なんておいしく、実に楽しく、本当に心地よく感じたから。
そんな日々の中に、薬草との関わりがあった。
体調やきもちの状態で選んだり、香りや、目がいくものを選んでみたり…
実験を重ねながら、暮らしに馴染んでいった。
もう「なんでもいい」とは答えられなくなったタイミングで、ありがたいことにリレーエッセイの仲間と出会った。仲間のエッセイを読んでいただければ、それぞれが自身に本当にぴったりがどうかをていねいに感じていねいに暮らしていることは、おわかりいただけるだろう。
わたしの変化からつながっていく、新しい世界。
近所のガレージで元気いっぱいに鳴いていた
つばめの雛たちの姿が、今朝はもうなかった。
巣立っていったかれらの新しい世界も
素晴らしくありますように。
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