小さな物語¦バターシュガーといちごホイップ¦上
こんばんは💫はちだです。
ゆっくり亀さん投稿なので、投稿していない間に何人か離れていってしまったフォロワーさんがいたことに気づいてしょんぼりしています🐢
投稿頻度を高められるほど、物理的にも精神的にも生活に余裕がないので、どうしてもマイペースな投稿になってしまいます。
せっかくみつけてくださったのに、届けるのが遅くなってしまってごめんなさい😔
代わりにすてきな言葉を綴っていくので、どうか見届けていただけたら幸いです☀︎
初投稿について
前回の初投稿のうたは、見ていただけたでしょうか?
誰かに作品を見てもらうのが不安で、受け入れてもらえるか心配していましたが、何人かの方に受け取っていただけて、とても嬉しいです🌷
もっとたくさんの人に、わたしの綴る言葉たちを届けたいです。
孤独で寒い夜を過ごしている、おなじ星の下の誰かをあたためてあげたいです。
わたしをみつけてくれたあなたに、とても感謝しています。
あとがき
本編は最後に書きたいので、あとがきはここに載せておきますね。
さて、今日投稿するのは、初めての小説です…!
短編小説で、文化祭に出品する文芸部誌用に執筆しました。
先日は総合文化祭にも出展させていただいた作品です。
また、この作品はわたしが初めて最後まで仕上げた小説です。
(他がどれも長編だから、という理由もありますが)
物語は不思議な世界で始まります。
うっすら考察しながら読める作品になっていますので、至らない点もありますが、どうぞお手に取ってみてください…!
今回の短編小説は3回に分けて投稿します。
わたしをみつけていただきありがとうございました。
では、本編へどうぞ!
〈本編〉バターシュガーといちごホイップ(上)
今日、マリとアユは、世界から逃げる。
「アユ、ほら行くよ」
大親友のアユの左手を握って、そのまま走り出した。今日のアユは変だ。アユは時々辛そうな顔をする。だけど今日は、ひときわひどい表情だった。今日のアユはいちだんと変だと思った。アユのピンチだとすぐに分かった。
「アユ、あれ乗ろ」
鋭い看板が世界の危機を知らせる。空へ続く階段がマリたちを急かす。今と未来を区切る、地と雲の隙間。アユとマリは、未来へ飛び出した。
知らない場所ならどこでも良い。土地を横切ってマリたちを運ぶ白いふわふわ。もう十五個ほどの地名を横目で見た。アユの手首を握って外の世界へ向かう。雲を軽快に降りたら、今度は階段を駆け下りる。ここの地名は知らない。広がるのはカラフルなレンガ街。アユはずっとゴーヤを食べたような顔をしていて、だから私は出店でクレープを買った。バターシュガーといちごホイップ。とびきり甘くておいしい食べ物!
「アユ、おいしいね」
アユにいちごホイップを手渡して、マリが持ったバターシュガーをアユの口に突っ込んだ。アユ、おいしい?何度も聞いた。アユは寂しそうに笑って、おいしい、と小さく呟いた。アユにバターシュガーのパリパリの部分を全部あげて、いちごホイップを一口もらった。マリの味覚は幸せだったけれど、アユが楽しくないなら、マリの心は満たされなかった。
「あ、王子様」
街を、マリの王子様が通りかかった。王子様はマリに気付いて、こちらへやってきた。王子様は、マリがいつもいる街からずっと遠いこんな場所にいることを不思議に思ったかもしれない。マリとアユは王子様の馬車に乗り、王子様のお城へ連れて行ってもらった。マリがアユに何か気晴らしに食べるよう急かして、アユはいちごのショートケーキを食べた。
王子様はマリのピンチになればいつでもどこでも駆けつけてくれる。マリだけの王子様だ。アユといるときにもたまにやってきて、アユはマリに王子様のことを興味津々に聞いてくれる。だからマリは王子様のことをたくさん教えてあげた。王子様と出会ったのは五月の初めで、マリが草原で夜の散歩をしているときに話しかけてくれた。それから王子様とは一緒にお茶をしたり、森で不思議な実を探しに行ったりした。王子様が素敵なプレゼントをくれることもあった。王子様と過ごす時間はとても尊いものだった。
「アユ、海に行こう」
王子様と別れて、アユの左手を再び握る。上にある青へ近づいて、下にある青へ向かってく。見えてきた、ドラマみたいなワンシーン。水平線の上に光る夕日が陽光の道を海の上にえがいて、私はそれを記憶の中に切り取った。
海へ走った。世界から離れていくようだった。とても気持ちが良くて、アユの口からも笑い声が漏れた。良かった、アユが笑ってる。マリは幸せでいっぱいで、溢れそうな思いをこぼさないように、抱えるために、アユの手を握り締めた。砂浜にマリたちの足跡が浮かび上がる。裸足になって波を感じる。マリが動けば海が動く。夜がマリたちを迎えに来た。キラキラ、キラキラ。さよならの夕日が水滴を輝かせる。
アユが鞄から手持ち花火を取り出した。ライターを鳴らして蝋燭に火を付ける姿を、マリは隣で見ていた。夜が、蝋燭の火をより強く弾かせて、アユの顔が照らされた。アユは口を閉じたまま、マリに笑いかけた。アユ、アユ、マリの大好きなアユ。細い花火の棒をふたりで持つ。アユの手のひらとマリの指先が重なる。先っぽのヒラヒラを赤に近づけて。
「アユ!点いたーーーーー!」
ひとつ、ふたつ、増えていく赫灼の流れ星。両手に火の花を握って、海の上でタップを踏む。マリが笑って、アユも笑う。近づく秋の風を背に、マリとアユは最後の青い夏を共有した。
*
朝が来たとき、アユは居なくなっていた。
[続く]