(58)行動経済学が勝敗を支配する
同調効果
周りを味方につける環境作りが成功のカギ
【ファンは2点分のディフェンダー】
歓声によって、ホームチームのファウル15%減っていることがわかりました。
サッカーの1試合のファウル数は10から15程度なので、歓声によって1試合に1個程度ファウルが減っていることになります。
ファウルが減ればピンチを減らすことができます。Jリーグのデータで計算すると、ファイルが1試合に1個減れば、年間で失点が2点ほど減ることが期待できます。サッカーでは1点が天地の差を開けるため、2点はかなり大きな違いにつながります。
サポーターは、12人目の選手と表現されることもありますが、実際にプレイすることはできなくても、必死に声援を送ることで、試合結果に関与し、勝利に貢献していると言えるのです。
そのため、12人目の選手と言うのは単なる比喩ではなく判定に影響与えて、年間2年分の働きをしていることがわかりました。
逆に言えば、スタジアムに観客が入らなかったり、チームのファンが多かったりする場合は、ホームアドバンテージを弱まってしまいます。
【集客の基準に使える同調効果】
ホームアドバンテージは多くのスポーツで見られることが知られています。声援よってチームの勝利に貢献できるのです。近年はネット配信などにより現地に行かなくてもスポーツを楽しめるようになってきました。しかし、応援しているチームに絶対勝ってほしいと、のぞむファンサポーターは現地に行くことをお勧めします。声を出して審判に届けることでほんの少し、されど少し勝利を高めることができるのです。
なぜなら、チームの勝利に貢献してほしいとアピールすることで、集客につながるからです。
集客数とホームアドバンテージの環境を分析することで、スタジアムが満員になれば「勝率が○%上がる」といった具体的な数字を掲げることができます。普段から応援に力を入れている人も、実際に貢献できていることを知ることで応援するモチベーションが上がるでしょう。今回は歓声が「ある」か「ない」かの実験で声援がチームを支えていて、それが現地に行く価値の1つであることがわかりました。
【サッカー専用競技場では、イエローカードが6枚減る】
この研究では、ドイツのサッカー1部リーグであるブンデスリーガの1430試合を対象に分析し、ホームチームとアウェイチームのイエローカードの差をホームアドバンテージとして定義しています。
例えば、ある試合でホームチームがイエローカードを2枚、アウェイチームが3枚もらったとします。この場合は3枚から2枚を引いて1枚がホームアドバンテージとして計算されます。このホームアドバンテージの量がサッカー専用競技場と陸上競技場で異なるかを検証したところ、結果はかなり明確でした。
サッカー専用競技場の場合は、1試合あたり0.66枚のホームアドバンテージがあるのに対して、陸上競技場のホームアドバンテージは0.36枚まで減ってしまいました。この結果は陸上トラックがあると声援の効果が小さくなる可能性を示しています。
サッカー専用競技場と陸上競技場のホームアドバンテージを比較すると、イエローカード0.3枚の差になります。ホームで20試合戦うと仮定すると、年間6枚の差が生じます。この差は選手起用にも影響するに違いありません。サッカー専用競技場をホームとするチームは、陸上競技場ホームとするチームと比べて、果敢なタックルを仕掛けられるので、戦術も変わってくるでしょう。
また、陸上競技場をホームとするチームは、イエローカードが出やすいので、カードによる出場停止や選手交代を強いられる場面が多くなるとも言えるでしょう。
このように、サッカー専用競技場と陸上競技場では、ホームアドバンテージに明確な違いが見られました。サッカー観戦をより楽しくすることに注力しているサッカー戦や競技場ですがホームアドバンテージを増大させると言う点でも勝利貢献していることがわかりました。
【陸上競技場をサッカー専用競技場に変えるとゴールが増える】
声援の効果は日本のJリーグでも見られるのか分析してみましょう。今回は2015年から2018年までのJ1リーグの試合における、フリーキックの数とイエローカードの数を集計しました。
Jリーグのスタジアムの陸上競技場、球技専用球技場、サッカー専用球技場の3つに分類し、陸上競技場とサッカー専用競技場の結果を比較していきます。
まず柏レイソルを例に分析してみます。柏レイソルはこの4年間ホームでのフリーキックは1029回、アウェイでのフリーキックは996回でした。
この数字をもとにホームからアウェーを引いて、試合数で割ると、ホームではアウェーに比べて1試合あたり0.5回フリーキックが多い結果となりました。また、同様の計算をイエローカード数についても行うと、柏レイソルの場合、ホームではアウェイに比べて1試合あたり0.25枚イエローカードが少ないことがわかりました。数字は全クラブでもトップの値でした。柏レースは三協フロンティアスタジアム、サッカー専用競技場をホームにしていますが、その効果が出ているといえます。
【広島は新スタジアムで躍進する可能性あり?】
2024年からサッカー専用競技場であるエディオンピースウィング広島に引っ越しする予定です。
この新スタジアムはピッチと観客席の距離が近いだけでなく、声援が反響しやすい構造になっています。以前のエディオンスタジアム広島に比べて、ホームアドバンテージも大幅に拡大することが予想されます。
近年はタイトルまであと一歩の惜しい戦いが続いているサンフレッチェ広島ですが、新スタジアムが最後の後押しになるか注目です。
【勝利のための新スタジアム】
サッカー専用競技場はサッカーしかできず、サッカーが好きな人の自己満足なのではないか、と言う疑念を持たれ、スタジアムの話が進まないこともあるのです。この状況を打破するために、声援の効果をアピールポイントになります。
つまり、新スタジアムは観客の満足度を上げるだけではなく勝利につながることをアピールできるのではないかと考えています。
また勝利が増えればニュースで町の名前が呼ばれる回数が増えるため、スポンサー企業は全国的な宣伝になります。また、勝利によってクラブが潤えばサッカー教室をはじめとするホームタウンでの活動にもリソースを割くことができ、地域社会の貢献にもつながります。
優勝して、スポーツバラエティー番組に呼ばれた選手は自治体の宣伝をしてくれることもあるでしょう。新スタジアムを作る、ホームアドバンテージが増える、勝ち星が増える、地域に利益をもたらすという構造がもっと広く知られてほしいです。
【同調効果とクラウドノイズ】
Jリーグでは各チーム、特徴のあるチャント(応援)や応援方法を行います。今回は鹿島アントラーズのチャントについて取り上げます。
鹿島アントラーズはタイトルを何度も獲得し、2桁順位はほとんどない強豪チームです。そんな鹿島アントラーズのチャントは、複雑な歌詞がほとんどないことが特徴的です。
例えば、柴崎岳のチャントは「オー柴崎オー柴崎オー柴崎」です。
歌詞を知らなくても、ノリやすく声も出しやすいため、審判の同調効果につながりやすいチャントなのかなと思っています。同調効果と言う視点から見ると複雑な歌詞よりも歌いやすさの方が重要なのではないかと、鹿島アントラーズの応援を見ていると感じます。
【スポーツ版ナッジ】
柵の位置を調整してホームランを増やす
1つ目のグループは柵を越えるように打つよう指示されました。
制約(スポーツ版ナッジ)を用いたのです。最初、柵はホームベースから45m離れた箇所に設置してあります。打球が柵を超えたら、柵を遠くに移動します。柵を越えなかったら柵を近くに移動します。これを繰り返して遠くの柵を越えるように打つ練習をします。
2つ目のグループはホームランを打つための現象を説明されました。
3つ目のグループはホームランを打つための体の動きを指導されました。
スポーツ版ナッジと従来的な練習方法のどちらが効果的かを比較した実験となっていました。
6週間の練習の結果、柵越えを指示したグループ(スポーツ版ナッジ)では、従来の練習方法のグループに比べてホームランの数や外野フライの割合が高まることが示されました。
どうして、従来の方法に比べてスポーツ版ナッジに効果があるのでしょうか。
グレイは運動の協調性が効率よく学習されるためだと考察しています。
たとえば従来の指導では腕の動きと足の動きを別々に学ぶ必要があるのに対して、制約を用いたやり方では動作全体を学べるので効率的な上達に繋がるという可能性が考えられます。
【ナッジの代表的手法「デフォルト」】
これは何かを選ぶ際にゼロから選ぶのではなく、あらかじめ選択されている状態にするというテクニックです。たとえば、臓器提供の意思を記入してもらうときにあらかじめ「希望する」にチェックが入っている(希望しない場合はチェックを付け加える)。
先述のセイラーは、この手法を用いて臓器の提供者を大幅に増やすことに成功しました。
このデフォルトは臓器提供のような公共性の高いものから、サブスクリプションのサービスやソフトウエアのダウンロードなど、様々な場面で利用されます。