オススメ映画「ダム・マネー ウォール街を狙え!」~スカッとしません、残るのは妬みだけ~
ほんの3年前の実際の事件の映画化、とは超スピーディー。昨秋9月の全米公開ってことはその約1年前の撮影でしょう、ってことは事件の1年半後に撮影とは。本作の超スピーディーな展開に勝るとも劣らぬ、制作のスピーディーさに驚いてしまう。当然に実在の人物はザクザクで、あのイーロン・マスクも実際の映像で登場(出演料ってもらっているのかね?)。一種の下克上的なお話なので、それはもう楽しいに決まってます。
なにより「ロビンフット」なるトレード用のスマホアプリが振るっている。BUYをタップすれば紙吹雪舞う画面に高揚感たっぷりで、いつでもどこでもネット証券で出来るのね。無論、日本にだってありますし、NISAニーサと煽り立てやらなきょ損!の空気造り。しかしそもそも「空売り」なんて手法まである株式は、プロ投資家及び巨大なファンドの手の中で踊られる案配で、そうそう儲けるには「大変な努力」がいります。その努力を無視してお祭り感覚で個がマスに変貌し強大なパワーを持った稀有なお話なんですね。
そんな無力で小さな個を集約するには、ヒットラーよろしく狂信者が必要なのは世の論理。そこに、何時も風采の上がらない役ばかりのポール・ダノと、もう子持ちの役なのねのシャイリーン・ウッドリー夫婦が登場する次第。そもそもゲームストップ社が好きすぎるのか、策略なのか、今一つはっきりしないが、これが資産5万ドルの「底辺層」として描かれる。でも、平屋とは言え広い前庭もあり、広いキッチン備え、地下室もありトレーダールームに仕立てている。数年間無職で、阿呆な弟から両親も抱えてるとは言え、この家、日本の規格から言ったら立派なリッチハウスでしょ。このスタート時点からしてもはや羨望でしかないのが悩ましい。
こんな扇動者に共感してゆく弱者側人物として、アンソニー・ラモスやアメリカ・フェレーラなどが店員やら看護婦や学生として登場、対する強者側として超リッチなビンセント・ドノフリオやセス・ローゲンやセバスチャン・スタンなどが「兆」のレベルとして登場。ごく短いカットの積み重ねの上に、多様な登場人物をカットバックで描き、目まぐるしい限り。それにしても主役級の豪華な顔ぶれが短期間でよくぞ揃えられたものです。
アメリカってのは何事もスケールがデカく、やることなすこと大袈裟で、極端が生まれやすい。平凡な失業者が突然、数千億円のリッチになってしまうのですから。その振り幅の大きさこそ、自由の裏返しでもあるのですね。とは言え、こんな値上がり見てたら、その瞬間に売り逃げしたくなりますよね、私だったら。だから主人公のYouTuberへの連帯感が、それも一切の対面もなしにネットだけでってのが素晴らしい。
いつものように、ラストのエンドクレジットで本物のご本人の写真が登場しますが、「大変な過酷に同情・・」なんてよくあるパターンでなく、嗚呼こいつも今は超リッチなのね、と思ったら、本当に実話なのね、と却って苛ついてしまいました。で、本作観終わっても、スカッとした、なんてさらさら思わずラッキーだったね、としか思いませんでした。
メジャースタジオが日本も配給すべきを、怖じ気付いたのか、邦人会社である木下工務店による公開に、感謝です。ついでに邦題の後半は不要ですね、近頃この手の余分な邦題多いので。