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ライトノベルの賞に応募する(12)

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「じゃあ、今日は以上!」
「ありがとうございました!」
コーチの号令に礼を言って、解散する。
「タカシ! シュウ! ちょっとこっち来い!」
走り去ろうとする僕たちに、コーチが僕とタカシをこまねきして呼んだ。
「…はい。」
僕とタカシはコーチの元に走り寄った。
コーチがみんなに背を向ける形で僕たち二人の間に入った。
「再来週、ジュニアのセレクション、うちからはお前たち二人で決めようかと思ってるんだが、どうだ?」
タカシと僕は、目を大きく顔を見合わせた。
「はい!」
ふたりともコーチの目に視線が移り、ふたりの声が揃う。
「タカシ、お前は常に自分がゴールすることを考えてる。それはストライカーに絶対必要な要素だ。」
「はい!」
「お前は走り出しのタイミングもいい。ゴールに向かうスピードも早い。」
「はい!」
「そのまま、セレクションの模擬試合でもゴールしろ!」
「はい!」
コーチがタカシの目を見て話している。僕は心臓がどきどきしてきた。
「シュウ、今日のインターセプトはよかった。守備の段階から、攻撃に向けて意識が向いてるのがわかる。」
コーチと視線が合う。
「はい!」
「お前は周りをよく見ていて、その先を考えることができる。」
「はい!」
「俺の言う、作戦の意図を、正確に読み取れてる。」
「はい!」
「守備から攻撃に転じるスピードも誰よりも早い。去年お前が来たばかりの時は、積極性に欠けると思ったが、かなり良くなってきてる。」
「はい!」
「そのクレバーなプレーがきっとこれから伸びる。」
「はい!」
「セレクションでは、アシストするのはもちろんだが、チャンスを狙って自分でゴールを決めろ! お前に必要なのは図々しさだ!」
「はい!」
「じゃあ、二人とも、日程だが………」

サクセン ノ イトヲ セイカク ニ ヨミトレテイル
テンジル すぴーど ガ ダレヨリ モ ハヤイ
くればー ナ ぷれー

コーチの言葉が、頭の中でこだまする。足の裏から、喜びがこみあげてくる感じがした。じわじわと体を昇って、頭のてっぺんからしびれる感じがする。
やった! やった! 
髪の毛一本、一本まで神経が走ってるみたいに、毛が逆立つのがわかる気がする。武者震いとはこういうことなのだと思った。全身の毛が逆立って、鳥肌が立っている。手はいつの間にか固く握られていた。

「おい! シュウ、聞いてるか?」
コーチの言葉で我に返った。
「はっ、はい!」
「お前、大丈夫か?」
「だ、大丈夫です!」
「おいおい、選んだ俺を、後悔させないでくれよ~。」
コーチがちょっとニヤッとした。
「はっ、はい! 後悔させません!」
「…お前、真之みたいなところあるよな。」
「えっ?」
「秋山真之って覚えてるか? 前に話しただろ? ボード使ってリアルタイムで戦況把握して、戦略立てた、昔の海軍の軍人だ。」
「あっああ。」
「真之はな、日本が負けると、世界中が思ってたロシアに、日露戦争で勝つんだよ。」
「はっはい。」
「わかるか? ずっと鎖国してたこんな小さい国の日本が、大政奉還して、明治維新起こして、できたばかりの真新しい海軍が、世界最強と言われてたロシアのバルチック艦隊を破るんだよ。」
「…。」
「地図観たらわかるだろ? 日本とロシア、どっちが大きい?」
「…ロシアです。」
「世界中が植民地政策で、植民地を増やしてる中、帝国ロシアも南下政策って言って、凍らない港を求めて、世界中に喧嘩売ってたんだ。で、日本にも触手を伸ばしてきた。」
「…はい。」
「戦って勝たなきゃ、植民地にされるところだったんだよ。わかるか?」
「…はい。」
「秋山真之はな、帝国大学予備門から、兄貴のすすめで海軍にはいるんだ。開成卒業して、東大の教養学部に入った文学少年が、自衛隊の防衛学校に編入するようなもんだよ。すごい進路変更だろ?」
「…はい。」
「真之はな、コツをつかむ天才ともいわれてる。地道に何でもコツコツやるタイプじゃなくて、テストに出るところだけを重点的に学ぶんだ。できたばかりの海軍士官学校で、先輩に過去のテストの問題借りまくって、先生の出題傾向を抑えて対策をする。必要な努力は惜しみなくしてるけど、周りからは必死そうに見えなかったそうだ。それなのに、テストで好成績を収めて、若くして海軍の参謀につくんだよ。参謀ってわかるか? すべての作戦の立案者で責任者なんだよ。」
「…。」
「お前もそういうところあるだろ? 最も今、必要なことを見極めて、そこに全力で注力する。俺は、一つのプログラム始める前に、できるだけそのプログラムの意図を、わかりやすいように話すようにしてる。けど、話してる最中、ぼーっとして早く終わんないかなって思ってる、上の空の奴が多いんだ。そういう奴は伸びない。けどお前は、その時間が一番集中してるように感じる。お前見てると、秋山真之の逸話を思い出すんだよ。」
「…はい。」
「ここに入って1年で、お前は想像以上に伸びた。技術で言ったらまだ上の奴は居る。でも、伸び率で言ったらシュウなんだよ。だから今回、お前を選んだ。」
「…。」
「いいか? お前はそのチームの参謀になれ。秋山真之になれ。戦況を正確にとらえて、勝つにはどうすればいいか必死で考え続けて、行動しろ。シュウが居たら、なぜか試合に勝つって言われるようになれ。どんなに大きい敵でも、お前が居ると必ず勝つって言わてるようになれ。そういう奴は滅多にいない。お前ならできる。」
「………はい。」
自分がコーチに期待されてるのがわかる。なんだかすごくありがたかった。
「…ちなみにいうと、真之の師匠はアメリカ人だぞ?」
「…留学してたんですか?」
「そうだ。今にみたいにちょっと飛行機で行って、すぐ帰ってくるってわけにいかない。船で海を渡る時代だぞ。留学してる人数だってすごくわずかだ。そういう時代にアメリカの海軍の大学校の校長に気に入られて、文献を読みまくったり、実際の戦闘を観戦して最先端の海軍の戦術を学んだんだ。もちろん全部英語だぞ? 今みたいに小学校から学校で英語の授業があるわけでもない。youtubeみたいな簡単に学べる動画の資料があるわけでもない。携帯だって、ネットだってない。語学学校さえない。そういう時代にアメリカに単身留学して、才覚を発揮して、短期間で大学校の校長の懐に入って認められて、学ぶべきことを学んで、日本を勝利に導いたんだよ。人間、必要に迫られたらどんな状況だってできるってことだよ。お前たちが海外出るのなんか真之に比べたらずっと簡単だろ? 俺だって出れたんだ。お前たちにできないってことはない。自分で勝手に天井を作るなよ。」
「コーチ! 俺は誰っすか?」
ずっと黙って話を聞いていたタカシが口を開いた。
「んんー? お前か…。そうだな…。伊地知かな?」
「それ誰ですか?」
「ふふふっ。嘘だよ。お前は、奇襲攻撃の源頼朝か、無鉄砲な織田信長か、蛮族の海賊、坂本竜馬かな。」
「誰が一番かっこいいフォワードですか?」
「ふふふっ。好きなの選べよ。そうだな、タカシがルフィだとしたら、シュウはナミかジンベイだな。そっちの方がわかりやすいか? タカシは、ルフィみたいに、周りからお前は絶対に負けるわけがないと信じられるようになれ。つまりさ、ルフィばっかり11人必要なわけじゃないんだよ。みんな得意なことを持ち寄って一つのチームになる。なすべき役割は、一人一人違うんだ。ルフィが居れば、ゾロも、ナミも、サンジも、チョッパーも、ロビンも、フランキーも、ブルックも、ジンベイも要る。ウソップだって要る。ウソップはネガティブな奴だけど、ウソップが居なかったら麦わらの海賊団は成り立ってなかったと思うぜ? タカシは自分がウソップだって言ったら怒るだろ?」
「いやですよー!」
「ふふふふふっ。俺はウソップ好きだけどな。時に平気で大見得きって、大嘘ついて、臆病で怖いのにそれ悟らせないように強がって、嘘を本当にしちゃうところなんかかっこいいぜ? まだわかんないかもしれないけど、チームにはそういう奴も必要なんだよ。」
「でも俺、ウソップは嫌です。」
「お前も少しオトナになれば、ウソップの良さがわかるよ。なーウソップ?」
「嫌ですって!」
「ふふふふっ。でも、これがゴールじゃないからな。二人ともセレクション通れよ? 仲間が居るんだよ。」
「はい!」
ふたりで声を揃えて返事をした。

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