日本ファクトチェックセンター編集部の見解(2024.6.7)について
昨日、日本ファクトチェックセンター(JFC)が「編集部」として出した「検証手法」に関する見解について、若干のコメントをしておきたいと思います。これは、5月23日付スローニュースの記事(有料)を受けて出されたものです(翌日、総務省の会合でもJFCに関連した問題が取り上げられていましたが、これについては「JFC運営委員会」見解を参照)。
一言で言えば、ここに書かれていることをもって「これがファクトチェックだ」とは思わないでほしい、極めて重要な要素が抜け落ちている、ということを申し上げたいと思います。
ファクトチェックは、読者が検証過程を辿れるようにエビデンスを明示するルールになっている、というのはその通りです(IFCNのCode of Principles #4)。
ファクトチェックと調査報道は、役割、機能が異なるというのもその通りです(一方で、共通する部分も多々あると考えています)。
その前提の上で、しかし、このことは、
(1)エビデンスとして使うオープンソースの信憑性について確認するための取材をしなくてもよい、オープンソースだけに頼って検証すればよい、ということを意味するものではありません。
(2)完全な匿名取材源をエビデンスとして使うことができないというだけであって、実名・組織・部署名など「明示された取材源」を使うことは何ら排除されていません。
(3)エビデンスも「公的機関」のものだけ使うということが奨励されているわけでもありません。
特に、議論・論争のあるテーマについては、両サイドの主張の根拠を確認することが求められます。検証対象の発信者にも取材することが原則となっています。
これらのことは、国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)の原則(Code of Principles)やその審査基準(criteria)、ガイドライン(guidelines)を読めばわかりますが、長くなるのでここでは詳細を割愛します。
「JFC編集部」見解のうち、私がファクトチェックの価値を毀損していると感じた部分はここです。
まるで、IAEAという権威ある機関が公開した報告書をオープンソースとして疑わずに依拠するのがファクトチェックであり、反対側が主張する疑念を手がかりに公的機関のウソを暴くのが調査報道、という役割分担があるかのようですが、そうではありません。
そういう認識をもっているなら、大変まずいことです。
スローニュースは有料記事ですが、添田孝史さん(朝日新聞科学部出身のジャーナリスト)の言及の一部を引用させていただきます。
まさにその通りで、これが問われている問題の本質だと思います。
ファクトチェックも、公開資料に疑義が呈されていれば検証し、徹底的に「事実」に迫ることを本質としています。
(どのような疑義が指摘されているかは調べればわかることですが、一例として、FOE Japanの解説や資料。なお、私が疑義指摘の「内容」を肯定しているわけではなく、ファクトチェックがスコープに入れるべき疑義指摘の「存在」を指摘しています。)
匿名情報源が使えないというハンディを除き、事実探求を旨とするジャーナリズムの本質は変わりません。
それが大変だからできない、そこまで事実を探求する熱意はない、というなら「ファクトチェック」の看板を下ろすべきでしょう。