ありがとう、カーリングの小林さん
先日行われたカーリングの世界選手権で、女子の日本代表、ロコ・ソラーレ北見が準優勝した。快挙だと報じられている。生島淳さんの記事によると
”日本でカーリングが大きな注目を集めたのは、ちょうど10年前。トリノ・オリンピックで当時のチーム青森がカナダに勝ち、小林宏氏の分かりやすい解説も手伝って(先日、他界された。合掌)、この競技の面白さに目覚めた人も多い。”
『氷の読み、正確性、第1エンド後攻。世界銀のカーリング女子は黄金時代。』
そう。僕もトリノ・オリンピックでの小林さんの解説にハマったひとりだ。その小林さんは先月他界された。僕なりに惜別の気持ちを込めて書き残しておきたい。
高校時代はスピードスケートの選手だった小林さんは、30歳を過ぎた1979年にカーリングに出会い、86年と87年にチーム「東京MAX」のメンバーとして日本カーリング選手権で優勝している。
94年アルベールビルオリンピックでは日本代表監督を務め、98年長野オリンピックではカーリングの競技委員長。そして、06年トリノオリンピックで解説者を務めて、カーリング愛を余すことなく伝える見事な解説っぷりで世間に知られることになる。
そんな小林さんの驚くべきエピソードは、05年、自費で1億3000万円をかけ山梨県山中湖村に通年利用可能な国内初の民間運営でのカーリング場「Curlplex Fuji」を建設し、山中湖メイプルカーリングクラブを設立したことだろう。生涯をカーリングに捧げた人と言っても言い過ぎではない。
下の動画の中で"山中湖"を選んだ理由を3つあげています。
・山中湖には氷の文化があること
・標高が1000m以上あること
・首都圏から100km圏内であること
そして、多くの人を虜にしたトリノオリンピックでの解説に当たって心掛けたことをこう語っています。
・前半の第1エンドから第7エンドまではカーリングの楽しさ=戦略的な楽しさを伝えること
・後半の第8、9、10エンドは、選手目線での解説を心掛けた
小林さんの特徴として、敵味方関係なく解説するところがあります。そのことをこう話していました。
・(カーリングは)"敵"という考え方ではなく、"相手チーム"という考え方
・スポーツマンシップに則ったゲームとして、相手を叩きのめすのではない
・技術の勝負なので、相手チームが技術的に素晴らしいショットをしたら、自分の心の中で『ナイスショット』と言えるような気持ちの余裕が大切
・相手チームと技術の勝負、戦略の勝負をするゲーム
このトリノで、日本女子チームはカーリング大国カナダを破るという大金星を挙げます。サッカーで言えば、W杯でブラジル代表を破る、ラグビーで言えば、W杯でオールブラックスを破るほどの出来事で、「きっと近い将来、ベスト4に入り、メダルを取れる日も遠くない」と希望を語っていました。そのトリノから10年後の今年、世界選手権で銀メダルを獲得したわけです。小林さんが亡くなられたおよそ1ヶ月後の事でした。
メジャーではないスポーツの愛好家には独特の"熱"が存在していたりする。自己の得意とする専門分野に熱狂する"マニア"と言い換えても良いかもしれない。本来的に、どの分野の"マニア"も寛容的で、本質的で、そして愛に溢れている。決して、閉鎖的ではなく、"ニワカ"にだって優しい人は一流で、"ニワカ"にマウントを取りたがるのは二流だ。
そうだ、思い出した。小林さんがカーリングに対してみせる姿が何かに似ていると常々感じていた、その何か。大相撲を熱く語るデーモン小暮閣下、世界王座13度防衛という未だ破られていない大記録を保持する具志堅用高を熱く語る俳優の香川照之。小林さんを思い出す時、彼らがオーバラップしてくる。
もう一度聴きたかったな。あの言葉を
「これがカーリングだ! This is Curling!」
※画像は「富士の国やまなし旅センター」さんより