見出し画像

【ぼくとW杯サッカー】〜98年フランス大会編②ママチャリを買う

1998年、当時25歳だったぼくは初めての海外旅行に出かけた。

「外の世界を見たい!」だのと遅れてきたルーキーのような立場ながら、なんとか親を説得してローマin ローマoutの3ヶ月オープンの航空券と、10万円を手にして旅立った。

そんな”はじめての海外”となった最初の国イタリア編はこちらです。

スイス・ドイツへ北上

イタリアを後にしたぼくは北上してスイス中央に位置するルッツェルンに降り立つ。お目当ての建築は2つ。

・ルツェルン駅前広場にあるルツェルン市民センターの庇(ひさし)
・ヨーロッパで最も古い木造橋と呼ばれるカペル橋

庇を見たいってどういうこと?と思われるだろうけど、圧巻な庇なのです。
キャンチレバーで張り出している庇の長さは45m!設計したのはフランス建築界の巨匠ジャン・ヌーヴェル。

これが長さ45mの庇

誰だよ!って思うでしょうけど、知って損はないと思うので、興味湧いた人はこちら

6月18日、フランスvsサウジアラビア

ジャン・ヌーヴェル先生の高難度なセンスに圧倒されっぱなしだったぼくは、宿を予約し損ねるという失態を犯す。

ユースホステルや安宿ばかりを巡ってきたこともあって、芝生豊かな公園にベンチを見つけて寝床にすることにした。時間は14時とかその辺だったかと思う。

ベンチに座り、フランスパンにジャムを塗りつつ、ビールを飲んでいると、兄弟と思われる2人の少年たちがサッカーをし始め、思わず仲間に入れてもらった。多少の心得があったこともあってか、夢中になって蹴り合う25歳。

すると思い出したかのようにお兄ちゃんが慌てはじめるではないか。そう。この日は16時からフランスvsサウジアラビア戦が生中継される日だった。

「じゃあね!」

と屈託のない少年の笑顔とお別れをして、ベンチに座り直した。イタリアの時のようにカフェにでも行ってフランスvsサウジアラビア戦を観ようかと思っていた時、さっきまでボールを蹴り合って遊んだ弟が父親を連れてやってきた。

「さっきは息子たちと遊んでくれたみたいでありがとう」

スイス人らしいガッチリした体格の父親は、自宅のガレージでフランスvsサウジアラビア戦を観るから来ないか?と誘ってきた。

ぼくには「人の好意は甘んじて受ける」という旅のルールがある。いやいや、それは申し訳ない。と日本人らしく謙虚な姿勢をひとまず見せつつ、ベンチ脇に置いていたバックパックを担いでいた(笑)。

試合はアンリの2ゴールに、トレゼゲとリザラスも決め、4-0でフランスの快勝。たまにBBQをするというガレージを即席パブリックビューイング化した空間で、フランスワインをご馳走になりながら、一期一会を心から楽しんだ1日だった。

6月21日、ドイツvsユーゴスラビア

バスに乗って、かの有名なロマンチック街道を北上したぼくは、中世の宝石箱と称されるドイツ南部のバイエルン州にあるローテンブルクに降り立った。

約366kmに続くロマンチック街道は、中世の街並みが色濃く残る街が点在しているところが特徴で、数あるドイツの観光地の中でも特に人気の観光地がローテンブルクだそう。

古都ローテンブルクの街並み

こんな観光地になぜ立ち寄ったかと言うと、一つはさらに北上する経由地として、もう一つが妖怪か!と思わせるインパクト大のサムネイルのユースホステルに泊まりたかったから。

このユースホステルの2日目だったか、地元ドイツがユーゴスラビアと対戦する夜、ぼくは旅の方向性を大きく変える出会いをすることになる。

試合は、ミヤトヴィッチとストイコヴィッチのゴールでユーゴスラビアが2-0とするも、ドイツはオウンゴールで1点差とすると、残り10分でビアホフが同点ゴールで試合終了。
ドイツ人で埋め尽くされたローテンブルクのカフェはモヤモヤが残る試合展開となった。

カフェからユースホステルの部屋に戻ったぼくは、なんだか飲み足りない気分になり、もう一度宿を出ようとロビーに降りると、日本代表の青いユニホームを着た日本人・木村卓夫と出会う。

キムタクよろしくロン毛を束ねていたその日本人は、自転車でヨーロッパを周遊していて、ロビーで愛車のメンテナンスをしていたところだった。

水よりも安いんじゃないかという瓶ビールを片手に、これまで漕いできた道のりを熱く、楽しく語る彼にすっかり魅了され、ここから南下してバルセロナまで行く!と言うのだ。

距離にして1500km。1日100km前後を想定して2週間程度だという彼のプランに心を躍らせてしまったぼくは、翌日自転車を買うことにした。そこにはある切実な問題を解決したかったからだった。

ドイツでママチャリを買う

実は軍資金がピンチになっていた。

もって1ヶ月分しか持参していなかったのだけど、航空券は3ヶ月のオープンチケット。まだ帰国便までに2ヶ月以上ある。なんとかギリギリまでヨーロッパにいるためには大きな3つの経費を削る必要があった。それは....

・交通費
・宿泊費
・食費

バスや電車代を削るために購入したのが自転車。宿代を削るためにシュラフ(寝袋)を揃え、1日フランスパン1個と決めたぼくは、翌日に町の自転車屋に駆け込み、奥で埃をかぶっていたママチャリを3000円ほどで譲ってもらい、アウトドアショップで6000円ほどでシュラフは手に入れた。

バルセロナまで行くなら、こんなチャリンコはやめろ!と強く強く引き止められたけど、高価なバイクを買うお金もなく、行けるとこまで行くよ!なんて格好つけて買ったっけかな。

こうして人生初の海外旅行は、建築旅行という当初の目的は消え、「自転車でヨーロッパ1500kmを縦断する野宿の旅」と大きく変わってしまう。ルーマニアがペトレスクの終了間際の劇的ゴールでイングランドを2-1で破った日のことだった。



いいなと思ったら応援しよう!