創業9年でようやくスタートラインに立てた話
PMFに至るのは簡単ではなかった
スタートアップ界隈では、「PMF(Product/Market Fit)がない事業は成功せず、PMFは事業成功の唯一の必要条件」と言われ続け、PMFという言葉を作ったBenchmark CapitalのAndy Rachleffは、
The only thing that matters is getting to product/market fit.
プロダクトマーケットフィットに至るかどうかのみが重要。
と説いています。Marc Andreessenなど多くの著名投資家もこの重要性を語っていることから、スタートアップが失敗する理由は、PMFを発見できないからだというのは明確です。
しかしPMFは簡単ではなく、アメリカでは22%のスタートアップしか、PMFに至っていないと言われています。PMFがないと、どんなに優秀な経営陣であっても烙印を押され、資金調達を困難にさせます(それはイコール倒産を意味します)。
実はANGLERSも中々PMFに至らず、ハードシングスな時期が長く続きました。そこからPMFの傾向が現れ始めたのは、創業7年目のことです。
これを見ていただくと、潜っていた期間がどれだけ長かったか、一目でご理解いただけるかと思います。
今まで所謂プロダクトのバケツの穴を塞ぎながら、自然流入のみで利用者を増やしてきました。上図の通り2018年からウェブが伸び始め、2019年から流入が大きく増えていき、2020年もそのまま右肩上がりに急伸。それが現在進行形で続いています。
スタートアップがPMFに至った状況として、よく対応ができないほどの顧客からの問い合わせが来たり、知らぬ間にどんどん利用者が増えていくなどの現象が語られていますが、ANGLERSもその急伸に至りました。
但しここまでの道のりは長く、早いスタートアップはこの半分以内の期間(2、3年)で到達していることを考えると、我々は長く掛かったほうだと思います。大きな反応が全く訪れず、耐え忍ぶ時期がとても長かったです。
また結果が出ないときは、チームの雰囲気が良くなかったです。少しの期間ならまだしも、何年も結果が出ない時期が続いたときは、丸一日会話が無いこともありました。
でもそれでも、やるべきことは進めていき、誰一人脱落することなく今に至ります。そう思い返すと、我々は覚悟とやり抜く気持ちだけで、ここまで来たのかもしれません。
どのようにPMFに至ったのか
先日、今年度初の決起会を催し、創業からこれまでの話を新メンバーに共有しました。noteをご覧いただいている方にも、どのようにPMFに至ったのかを掻い摘んで話すと、我々の行ったことは一つだけです。それは
ユーザインサイトを徹底的に分析し、UXに反映する。
これに尽きます。多くの起業家と同様に、もうこのことだけをずっとトライしてきました。
「どうすれば喜んでくれるのか」「価値を提供できるのか」「次も使ってみたいと思われるにはどうすれば良いのか」本質的な課題を見極め、ひたすら仮説検証をしてきました。
その中でとくに我々が意識しているのは、ユーザのエモーショナルの部分です。
釣りに行き、お目当ての魚が釣れるとやっぱり嬉しく、それは釣り人生の忘れられない1シーンとなります。釣り人同士の集まりを見ていただくとわかりますが、釣り人はずっと釣りの話をしても飽きることはありません。
あの時の釣りがこうだった〜と、今までの釣り話でどんどん熱量が上がっていきます。釣りバカ日誌のハマちゃんとスーさんみたいな感じです。だから最近よく思うのが、我々はその思い出を詰める「宝箱」を作っているのだと思います。
いつ・どこで・どんな魚が釣れたのか。それを一人のときでも、皆んなといるときでも、いつでもどこでもすぐに見られるもの。自分の釣り人生を思い返せるアルバムを作っています。
その釣り人のエモーショナルな部分を大切にし、釣り人の人生を充実させるプロダクトがANGLERSです。我々は、釣り人生がもっともっと彩り豊かになるための仮説を上げていき、ひたすら検証しています。
ではその中で、具体的に何を行ったからPMFに至ったのかというと、それは釣果の「記録」と「情報」の最適化です。
PMFに至った要因①「釣果記録」
釣果記録(釣った魚の成果を記録すること)は、先述した「釣りの思い出」を残すためには、無くてはならない存在です。今でこそ、国内でもっとも多くの釣り人が釣果記録するサービスになりましたが、ここまでの道のりは前途多難でした。
他の多くのスタートアップでもそうだと思いますが、たった一つの本質的な課題を解決するための、その最適な解決手段を生み出すのが、とてもとてもとても大変です。。
ANGLERSでも、釣り人が「心地よく釣果記録できる」ためのプロダクトをつくるのに、何年も要しました(今でもまだまだ理想には届いていないです)。
我々としては、急いで度々改善しているつもりでも、月日はあっという間に過ぎていきます。領域や事業形態の違いによりスピードが違うのは理解していますが、同じくらいにスタートした企業が先を行く度に、焦りが生じたこともあります。
それでもユーザの課題に真摯に向き合い、どんなタイミングで釣果記録することが多いのか。何を記録したいのか。それを実現するにはどんなUIが良いのか。釣果記録のしやすさを追求し続けてきました。
以前、外部にお願いしてプロダクトの「ユーザ満足度」を正確に(NPSとSean Ellis testを用いて)測定したところ、SlackがPMFに至ったときと同等のユーザ満足度でした。
ユーザの反応には感謝しつつも、まだまだ我々の理想には至っていないので、今後さらなる改善が必要だと感じています。
PMFに至った要因②「釣果情報」
もう一つの要因が情報です。釣りをする際は、釣果の情報がないと成り立ちません。
この二つの情報があることにより、釣り人は理想の釣りを楽しむことができます。
そして今までは、これらの情報が上手く可視化されていませんでした。とくに釣果記録に関しては、スマホ時代に入ってようやく手軽に写真が撮れ、情報を簡単に残せるようになりました。
ANGLERSでは、公開している人の釣果記録を検索して見られます。どこで・何が・どんな釣具で釣れているのか。リアルタイムに更新されているので、釣り人に必要な情報がすぐ取得できます。
この情報基盤も、今でこそある程度引き出しやすいレベルまで整いましたが、当初はここまでのレベルに至っていませんでした。
しかし釣果記録と同様に、公開データを整理して引き出しやく「心地よく使えるデータ」にするためにはどうすれば良いかをチームで追求・改善し続けた結果、PMFに至ることができました。
PMFしてわかったこと
このように長い潜り期間を経て、PMFに至ることが出来たわけですが、実際にこの状況になってみてわかったことがあります。
それは、ようやくスタートラインに立てたということです。
創業当社は、多くの先駆者が重要指標と説く、このPMFに早く辿り着きたい。どんな景色が眺められるだろう。と思っていましたが、いざ至ってみると、今までスタートラインに辿り着いていなかったことがわかりました。
これからが本当の事業創造で、今まではその土壌を築いていたに過ぎません。釣り人の人生を心豊かにするためには、これからが本番であり、まだ何も世の中に明確な価値提供ができていないことに気づかされました。
また、事業創造で至るPMFは、一度だけではありません。最初に掲げたものでPMFに至ると、次の上位レイヤーの課題を解決していき、またPMFする。海外展開したときに、またPMFする。というように企業では何度でもPMFが起こります。
それにより企業は、長期的に右肩上がりの成長をしていきます。故にANGLERSも、次のPMFに焦点を合わせています(後述するSNSでのPMF)。
先日の決起会でも、その意味を込めて「これからが第二創業期」と宣言し、新たな決意表明をしました。思い描くビジョンの、まだ1/10も到達していないので、これからさらに邁進していきます。
これからのフェーズで何をするのか?
これからも「記録」と「情報」の最適化をするのはもちろんですが、それに加え今後のフェーズでは、「SNS機能」の強化を図っていきます。
先述した、ユーザの満足度調査で高評価を頂いた多くは、釣果記録ができる点と、その情報が検索できたり整理されている点でした。釣果記録と情報という、創業当初から掲げていた課題に、解決手段がフィットしたということなので、その点は嬉しい限りです。
一方、それ以外はまだこれからの点が多く、改善余地が大きくあります。
アングラーズは、「釣りで人々の人生を豊かにする」というビジョンを掲げています。それは、ユーザの分かりやすい便益を狙って解決しただけでは達成できません。
歴史上繁栄する事業を創造した企業は、便益の奥にある本能的な欲求を狙って解決しています。人々の根底にある感情を満たしてあげることにより、ユーザはそのプロダクトに心から愛着を持ちます。
強い欲求を満たせるものが存在すると、それを使うあらゆるコストがユーザの中で正当化されるので、そのプロダクトを使います。どうしても使いたくなります。
スタートアップでは、自分たちが挑戦しているテーマ(課題)を抱えているユーザが、どのような本能的欲求を持っているのか。まずそこを理解することから試みていますが、我々もそこが今後の明暗を分けると考えています。
ユーザの本能的欲求を満たすことが重要
アングラーズはCGM・SNSですが、SNSは単純に便利という役割だけではなく、エモーショナルな「心の課題」を満たすことがより重要です。それができたものは世の中で影響力を持っています。
例えば、Instagram、Twitter、TikTokなどのSNSでは、大きく分けて5つの欲望を満たしています。
1. 自分の考えやイメージなどを表現する「記録」
2. 他人の投稿から新しい情報を得る「情報取得」
3. 新しい人間関係を構築したり、ファンを獲得する「関係性&人気獲得」
4. 楽しさや暇つぶしを求める「娯楽」
5. すでに知り合いである人との交流に使う「既存交流」
各SNSでさらに細かい要素はありますが、世の中に浸透したオープンなSNSは、この要素を満たすための設計が緻密に施され、ユーザの利用動機に繋がっています。
ではANGLERSは、上記が現在どれくらい満たされているかというと、満足度調査では1と2はある程度満たされていましたが、3、4、5は弱かったです。
もちろん仕組みとしては今もあるのですが、それがまだ上手く効果を発揮していません。それは1、2の改善に集中した結果ではありますが、今後さらに成長するためには、3、4、5をどれだけ満たせるかに掛かっています。
ここにはある程度のエネルギーと時間が掛かりますが、ビジョン実現のためには乗り越えなければいけないので、第二創業期の大きな山だと感じています。
世の中に与える最大のインパクトとは
ANGLERSが、世の中に提供する最大の価値は一体何だろうか?と考えることがあります。もちろん先述した1〜5は重要ですが、実はそれ以外にもう一つあると考えています。
上記は、人気コンテンツの一つである「◯◯◯(エリア)で釣れてる魚」のページです。これは公開釣果記録をエリアごとに整理して表示しています。釣り人にとっては、「ここでどんな魚が釣れているのか?」を確認でき、それを元に釣りの戦略を練ることができます。
一方、別の視点では(釣り人でない人も含めての視点では)「エリアごとの魚図鑑」です。
小学生の授業のコンテンツでも使えるほど、リアルな魚の生息実態が可視化されています。皆さんが住んでるエリアの池や川や海に、どんな魚がいるのかがすぐ分かるので、大人でも楽しめます。
しかもそれをユーザ皆んなの力で、リアルタイムにデータを日々更新させています。魚版のwikiと言ってもよいかもしれません。
日本全国エリアごとの生息実態を、ユーザが楽しみながら釣りをするだけで、データが更新されて出来上がっていきます。釣り人にとってはただの釣果記録かもしれませんが、改めて考えると、これはとても意味のあることです。地球の貴重なデータです。
故にANGLERSは、調べることが困難なエリアごとの魚類の生息実態を、釣り人と協力しながら創造している会社。釣り業界のためだけではなく、地球の海川湖などの水中に生息する生物の実態を、釣り人と一緒に可視化する。そういった会社であるとも言えます。
世界を変えた偉大な企業は、大局観や抽象度の高い視座を持ち合わせているので、我々も単に顧客とANGLERSの関係性だけではなく、地球規模で物事を捉えることが大切だと感じています。
釣り人の日常に、小さなハッピーが生まれることが大切
最後に、先日こんな投稿をみました。
これは事業創造の核心を突いていると思います。
事業をつくっていると、売上やユーザ数が伸びることに心を奪われたり、メディアに取り上げられることについ反応してしまうこともあります。しかしこの指摘の通り、それぞれのユーザの日常の中で、小さな幸せが生まれることのほうが重要であり、それが何よりも事業家冥利に尽きます。
一人でも多くの釣り人の日常に、心から満たされる何かを提供すること。それを実現することが我々の使命であると、改めて感じました。
2021年度も、メンバー一同どうぞよろしくお願いいたします。