WRCチームで働く日々雑記 [2022年1月]
こんにちは、山下です。
1月は新車が初めて投入された開幕戦モンテカルロがあり、その前後の週は車両テストと働きずめの日々でした。そして仕事に集中していると下記写真のように、いつの間にか車が雪に埋もれています。
結構ハードな1ヶ月でしたが、嬉しいサプライズもありました。
簡単に振り返ってみます。
(1) WRC新時代に感じた安堵感と違和感
1月は遂に2022年シーズンが開幕しました。昨年からずっとチームはこの開幕戦モンテカルロに向けた開発をしてきました。
最終結果はセバスチャン・オジェが2位表彰台を獲得しました。モータースポーツに”たられば”を言えば尽きないのですが、最終ステージ手前のSS16で発生したパンクにより、2番手だったセバスチャン・ローブ逆転されてしまい、惜しくも優勝を逃しました。
ただし次戦以降で明らかになっていくと思いますが。車両の信頼性や、パフォーマンスは他チームと比べて悪くは無さそうです。上述のパンクまでは2番手に20秒差をつけていましたし、最終パワーステージでの他3台のパフォーマンスも次戦以降に希望を感じるタイムでした。まとめると諸手を挙げて喜べる結果ではありませんでしたが、新レギュレーション下の初戦としてはポジティブな面も多かったです。
初戦を終えチームは車両開発の方向性が間違ってなかったことも分かり雰囲気は明るいです。一方で個人的に少し違和感も感じました。
ラリーイベント開催中、チームメンバーはイベントの状況をWRC+というストリーミングで観戦しています。その中で解説者、レポーターは ”WRC新時代 (WRC New Era)”という言葉を使っていました。開幕前のWebメディアも同じです。
これは主には2017年から続いたWR車両規定が終わり、ハイブリット車両となったRally1規定となったことを示します。
しかし、ドライバー陣営には新時代どころか過去にタイムスリップした感じです。優勝はスポット参戦した47歳セバスチャン・ローブ(フォード・プーマ・ラリー1)です。WRCを観戦しているファンはご存知だと思いますが、ローブはWRCで9年連続王者に輝いた伝説のドライバーです。しかしスポット参戦はありましたが2013年以降はWRCを引退しているドライバーです。
そして2位となったセバスチャン・オジェ(トヨタ)は昨年タイトルを獲得して8度目の王者なりましたが、2022年以降はプライベートを優先するため、WRCはスポット参戦のみと宣言しています。
もちろん、最終日まで僅差で続いた伝説の王者2人 (しかもセバスチャン対決 w)は非常に見応えがあり、個人的にも興奮しました。またモンテカルロはフランス出身の両王者の得意イベントです。
しかし、WRC新時代と銘打った開幕戦のトップ1-2が、実質的に引退済みのドライバーに支配される状況には?が浮かびました。
もう少し考えると実は、昨シーズンまでの車両と比べて、2022年シーズン規定のRally1車両ではハイブリットシステムを除けば電子制御が制限されています。パドルシフトからシーケンシャルシフトに変わり、またセンターデフの電子制御も無くなるなど電子制御が簡略化されました。
これらはハイブリット開発費とバランスをとるための規定ですが、シャシだけ考えると、車両システムは単純化されて10-20年前のラリーカーのようです。
そういう意味では新世代ドライバーよりは、経験豊富なドライバーに有利なのかもしれません。それでもF1では多くのドライバーが20代で王者に輝きます。それに比べるとWRCドライバーの年齢層は高めです。
僕はベテランが活躍できることは素晴らしいことだと思います。
一方でWRCドライバーの世代交代も進めば、もっと盛り上がるのかもな思いました。
(2) 元F1ドライバーとお話した!
夜中の3時までサービスが終わらないという地獄の開幕戦が終わり、その翌日からはフィンランド国内で行われた車両開発テストに参加しました。
テスト2日目が終わり、翌日のテスト用に部品を準備するために戻った夜のオフィスでサプライズが起こりました。
元F1ドライバー中嶋一貴さんがオフィスに来たのです!
実は昨年末に行われたトヨタのモータースポーツ体制発表会で、Toyota Gazoo Racing Europeの副会長に就任すると発表されていました。
中嶋選手がウイリアムズでF1を戦っていた2008-09シーズンとその前後は、僕がF1に夢中になり、F1エンジニアを目指すぞ!と決めた頃とドンピシャです。
上司の気遣いもあり、オフィスに残っていたメンバー数人で話をさせてもらいました。凄く気さくに話をしてもらいましたが、僕が学生でF1中継を必死にみていた頃に写っていたドライバーが横にいるのは感動と共に少し不思議な感覚でした。
到底同じレベルではないのですが、自分の目標にまた一歩近づいていることを実感できて嬉しかったです。正直、疲れていましたがこのサプライズで疲れは一気に吹き飛んだ感じでした 笑
中嶋さんは将来的なモータースポーツ活動についても考える立場になるみたいなので、機会があれば僕がnoteに書いている電動化や自動運転トレンドが業界にもたらす影響について議論してみたいでです。
(3) まとめ
1月は結構ハードでしたが、開幕戦も無事終わり、中嶋さんにも会えて充実していました。
あと僕が結構、中嶋さんに会って興奮していた話が、なぜか翌日のテスト現場にまで伝わって技術部門のトップに「疲れていたようだけど、ヒーローに会ってやる気満々になってよかった」と言われました。
噂が回るのは早いです、そして我ながら単純だと思いました 笑
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