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夕立
麦茶つくる用のボトルはやっぱあったほうがいいな。
さっきスーパーで見たら、800円くらいだったから、百均に寄って帰ろうと思ったけど忘れてたや。
図書館から帰って、一息ついたところで、そう思い立って、またすぐに家を出る。
午後5時少し前、弱い雨が降っている。
暑いでも涼しいでもない、曖昧な空気感の中、傘をさして歩く。
昨日、退職願を出した。
2ヶ月後には、はれて無職である。
3日前に急に決めたばかりのことで、彼女にも、昨日伝えた。
「好きにしたらいい」という言葉の奔放さと、その表情の強張りが、不協和音を響かせていた。
緊張が解消されないまま、切りとられたその場面は、くしゃくしゃに丸めて放り投げられ、頭の片隅に散らかった印象を残している。
百均でボトルを探す。
500円のボトルと100円のボトルが陳列されている。
さっきは800円をケチったのに、こうなってくると500円のボトルを手に取ってしまうから不思議である。
夏の間、いつでも、水分とミネラルを与えてくれるこいつを、100円、というのは、なんだか間違っている気がする。
百均を出て、商店街のアーケードを抜ける。
雨は、きまぐれに、パラパラと、降り続いている。傘をさす人もまばらである。
Tシャツは、朝から大量の汗を吸い込み、今もじっとりとした感触を上半身に与えている。
今更、気にしてどうする、と思い、傘を閉じる。
遠くの空は、重たい感じに曇り、絶え間なく轟音を響かせている。
小雨の降るなか、日中の暑さは冷めきらず、ふわふわとした能天気な気温を肌に感じさせる。
柔らかい距離で蝉が鳴いているのが聞こえる。
風が吹き、木立が静かに揺れる。
会社では、すらすらと理由を言えたのにね。
そりゃそうだよな。
心配してくれてありがとう。
大丈夫。