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リードユーザー探索における「ダブルキャリア」の重要性 /USER INNOVATION LAB. レポートVol.11

はじめまして。博報堂ブランド・イノベーションデザインの和泉と申します。

今回の記事では、日本マーケティング学会カンファレンス2022でベストポスター賞を受賞した研究発表「リードユーザー探索における"ダブルキャリア"の重要性 ― 約80名の探索から得た先進類似市場に辿り着くコツ ―」の内容について解説します。

この発表は、博報堂と法政大学西川英彦研究室が共催する産学連携による研究会「ユーザー・イノベーション・ラボ」の活動成果です。(「ユーザー・イノベーション・ラボ」の活動に関しては、過去に連載記事を書いています。ご関心のある方は以下の記事をお読みいただければと思います。)

この研究はユーザー・イノベーションの手法のうち、「リードユーザー法」に関するものです。本ラボでは、この「リードユーザー法」の中でも「ピラミッディング探索」と呼ばれるものについて研究し、10月に行われた日本マーケティング学会のポスターセッションで発表を行いました。約50チームの中から5チームに贈られるベストポスター賞に選ばれるなど、研究成果について反響を得ることができました。ユーザーとの共創や新製品開発などに関心のある皆様のお役に立てればと思い、内容をご紹介していきたいと思います。

ぜひ最後までご覧ください!

★ご参考:日本マーケティング学会主催「マーケティングカンファレンス2022」に関心がある方は、以下の記事も参照いただければと思います。
日本マーケティング学会 - カンファレンス2022 (j-mac.or.jp)

①ピラミッディング探索とは?


「ピラミッディング探索」、皆さん聞いたことはありますか?

名前の通り、「ピラミッド」の三角形をイメージされた方も多いのではないかと思います。起点となるインタビュー対象者(リードユーザー候補)を何名か選び、「あなたより詳しい知識がある方を紹介してください」と紹介を辿ることで、起点となった人よりも、さらにレベルの高い知識を持つ人を紹介してもらう手法です。こうした紹介を繰り返すことで、異なる分野(≒先進類似市場)にいるリードユーザーと出会い、新規性の高いアイデアが得られると言われています。

出典:Poetz & Prügl, 2010

※「リードユーザー」とは、イノベーティブなアイデアをもつ先進的なユーザーを指します。詳しくは下記の記事をご覧ください。



ピラミッディング探索について、先行研究では以下のようにまとめられています。

・イノベーションを起こすためには、自社や自社の事業領域を超えた探索を  行うべきであり、自社や自社の事業領域に閉じた探索を行っていると新規性が得られない。
・文脈的に遠いけれど、類似した領域にいるリードユーザーから新規性の高いアイデアを得ることができる。
・領域横断的な探索を行い、新規性のあるアイデアを得るためにピラミッディング探索は有効である。

出典:Franke, Poetz, & Schreier, 2014.

このように本手法の有効性は述べられているものの、先行研究の中では“どのような対象者を選ぶべきか”といった対象者選定条件については、あまり深い議論がされていません。本ラボでは、3社のプロジェクトを通じて、対象者選定条件に関する発見を行いました。

②日用品、食品、飲料メーカーでの実践


本ラボでは、2021年から2022年にかけて、日用品メーカーA社、食品メーカーB社、飲料メーカーC社において、新製品開発を目的に「ピラミッディング探索」を取り入れたプロジェクトを実施しました。インタビュー対象者を選ぶにあたり、「トップレベルの知識」を持ち、「文脈的に遠い領域にいる人」を選定すべきである、という先行研究(Poetz & Prügl,2010)を踏まえて、対象者を選定し、インタビューを行ったのですが、先進類似市場にいるリードユーザーまで紹介を辿ることができたケースはわずかであり、「ピラミッディング探索」という手法の有効性を高める上で、対象者条件のさらなる精査が必要だと思われました。



③先進類似市場に辿り着く人の特徴:「ダブルキャリア」


先進類似市場にいるリードユーザーまで紹介を辿れる対象者と効率的に出会うにはどうしたらよいのか?

これが本研究の出発点となる疑問です。先進類似市場にいるリードユーザーを紹介してくれたインタビュー対象者と、紹介がない、もしくは同じ領域内での紹介にとどまるインタビュー対象者のプロフィールを再度洗い出してみると、前者のインタビュー対象者には、2つ以上の専門性=ダブルキャリアを持つ人が多いという事実が見えてきました。

このような仮説を検証するために、本ラボでは定量的な分析も行っています。

2つ以上の異なるキャリアを経験しているユーザーをダブルキャリア、1つのキャリアのみのユーザーをシングリキャリアと定義。カイ二乗検定を行った結果、遷移の有無に有意な差があった(χ2(1)=6.81, p<.01, φ=0.37)。
マーケティングの専門家2名が、キャリア同士の遠さを判定(1=シングルキャリア、 2=近い2分野以上、3=やや近い2分野以上、4=やや遠い2分野以上、5=遠い2分野以上)。遷移の有無で分析した結果、有意な差があった(t(47)=3.19, p<.05, d=1.32)

※「遷移あり」・・・先進類似市場にいるリードユーザーまで紹介を辿れた
「遷移なし」・・・紹介がない、もしくは同じ領域内での紹介にとどまった

分析を通じて見えてきたのは、やはり仮説の通り、「シングルキャリア」よりも「ダブルキャリア」を持つ人の方が、先進類似市場にいるリードユーザーを紹介してくれる人が多く、さらに「ダブルキャリア間の距離が遠い」という条件が加わると、より先進類似市場に辿り着く可能性が高いという発見です。「トップレベルの知識」「文脈的遠い領域にいる人」という先行研究があげる対象者条件に加えて、「ダブルキャリア」という条件が加わることで、リードユーザーとの出会いに導いてくれる対象者を選定することができ、本手法の有効性をさらに高めることができると考えられます。

④結論と考察:「ダブルキャリア」を探せ!

ピラミッディング探索の実践に興味がある方には、ぜひ以下のような条件で
対象者を選び、インタビューを行ってみていただきたいと思います。

1.「トップレベルの知識」を持ち「文脈的に遠い領域にいる人」を選ぶ。

2.さらにダブルキャリアを持ち、ダブルキャリア間の距離が遠い人に絞り込む。

こうした条件で対象者を選ぶことによって、先進類似市場にいるリードユーザーとの出会いのチャンスが増え、新規性の高いアイデアを得られる可能性を高めることができると思います。
 
本ラボでは、今回のような発見によって、ユーザー・イノベーションの実践をより容易にし、多くの実務家や研究者の方に貢献することを目指しています。また今後に向けた課題として、より多くの実践を通じて、今回の発見をさらに確かなものにしていきたいと考えています。
 
今回の「ピラミッディング探索」に関する記事、いかがでしたでしょうか?

コモディティ化している市場において、新規性のあるアイデアを得たいと考えている方に、本手法を取りれてみることをお勧めします。自社内では得られないを新しい発想を持つリードユーザーとの出会いは、とてもワクワクするものですよ!「ピラミッディング探索」、是非チャレンジしてみてください。

★「ユーザー・イノベーションを自社で取り入れてみたい!」と興味がわいた方は、ユーザー・イノベーション・ラボ事務局(uilab@hakuhodo.co.jp)までお気軽にお問い合わせください。


<参考文献>

Franke, Nikolaus , Marion K. Poetz, and Martin Schreier(2014). “Integrating Problem Solvers from Analogous Markets in New Product Ideation”. Management Science, 60(4), 1063–1081.

Poetz, Marion K. and Reinhard Prügl (2010). “Crossing Domain-Specific Boundaries in Search of Innovation: Exploring the Potential of Pyramiding”. Journal of Product Innovation Management, 27(6), 897–914.

Lilien, Gary L., Pamela D. Morrison, Kathleen Searls, Mary Sonnack, and Eric von Hippel(2002). Performance Assessment of the Lead User Idea-Generation Process for New Product Development. Management Science, 48(8), 1042–1059.

von Hippel, Eric. (2005). Democratizing innovation. MIT Press(サイコム・インターナショナル訳『民主化するイノベーションの時代』ファーストプレス, 2005年)

von Hippel, Eric, Susumu Ogawa, and Jeroen P.J. de Jong(2011), “The Age of the Consumer-Innovator”. MIT Sloan Management Review,53(1). 27-35.


 

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