孤独な人間の拠り所、それがバーだ
ていくすりーさんの非公式コンテスト「バーテンダーとの思い出」に事前参加表明をしたので、昔話でもしようかと思います。記憶も曖昧なので所々フィクションかもしれないです。
数年前。20歳だった私はぐしゃぐしゃに荒れていた。当時付き合っていた男と喧嘩し、バイト先へ向かった後に自転車のカギを持ち去られた。神奈川県の、某駅高架下の有料駐輪場に自転車を止めていたため、このままだと駐輪代だけで財布がすっからかんになってしまう。
「駐輪場のお金だけ払って、自転車を引きずって持ち帰らねば。」
そう考えたらむしゃくしゃして仕方がなかった。なんで自分だけこんな目に合わないといけないんだ。腹が立って、泣きたくて、でも家にも帰る余力が無くて、途方に暮れていた。
バイトが終わって夜10時。腹も空く時間である。
「そういえば、駐輪場の傍にダイニングバーがあったな……。」
その頃の私はバーに行ったこともなかった。ただ、ものすごい憧れがあった。カウンター越しに喋るバーテンダーと客の光景が、ものすごく眩しく見えて、羨ましかった。
「この際だから、もうなりふり構わず行ってしまおう。」
常連でもない、酒に詳しいわけでもない、成人したての小娘だけど、意を決してドアを開けた。
店内には、オーナーらしき人と、店長らしき人、それと店員さんが数名、常連だと思われる客が2,3人いた。
店長らしき人に声をかけられた。
「いらっしゃい。1人?」
「はい。」
「カウンターの好きな席座っていいよ。」
「はい。」
はい、しか言わない私。心は様々な感情が混じっていた。場違いだな、来てしまった、大人の階段のぼった?そんな感じ。
「ドリンク決まった?」
「あ…この、ファジーネーブルってやつと、あとハンバーグください。」
ここの名物はハンバーグだと事前情報で仕入れていた。夕飯代わりにそれを食べることにした。
「了解。…お姉さん、見ない顔だね?初めて?」
「あ、はい。そうなんです。」
「そっか。ゆっくりしていってね。」
「有難うございます。」
そんな会話をしていたら、常連であろうお姉さんに話しかけられた。
「あなた若いね。いくつ?」
「20歳です。」
「え!?成人したて!?よくここ見つけたね!度胸あるなぁ。」
「あ……ちょっと色々あって、お酒飲みたくなって……。」
その時、お姉さんにすべてをぶちまけた。男のこと、自転車のこと、これからのこと。それを、店長もといバーテンダーのお兄さんに聞かれていた。
「色々あったんだね……。じゃあ、ドリンクはおまけしてあげる。」
初対面の私に、こんなに気前よくおまけをしてくれるものなのだろうか。
そう思ったら、ふと、涙がこぼれていた。久方ぶりに人の優しさに触れたからだろうか。孤独から抜け出せたと、その時思った。
高々数百円かもしれない。でも、何にも代えがたい、暖かい数百円であり、特別なファジーネーブルになっていた。
それから、お姉さんや周りにいたお兄さん、店長やオーナーを巻き込んでダーツをするなどして、午前様で帰宅した。
あれから何度か通ったが、引っ越しをしてしまい、その店舗には行けず終いである。しかし、あの味、あの雰囲気は今でも私の中に残っている。
心に孤独を感じたら、また新しいバーの扉を叩こう。そしたらきっと、新たな人間関係ができるから。