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変なおじさんとの運命の出会い…

我が家には犬がいます。黒い雑種です。

犬の散歩をしていると、日本もそうなんでしょうか?犬の飼い主たちとあいさつを交わしたり、立ち話をしないといけない、ということを犬を飼って初めて知りました。

犬同士が挨拶する度に、お互いの犬の名前を聞き合ったり(覚えられません)、犬の年齢だとか健康状態だとか話したり。できれば挨拶ぐらいで済ませたいと思っていますが、時に思いの外長い時間話をしないといけないケースもあったりします。

「変なおじさんとの運命の出会い」

ある日、夕方犬の散歩で近くの公園に行ったとき、あるミニチュアプードル系の犬と私の犬が興味を示し合ったのです。いつもするように、私はその飼い主の年配の男性に「こんにちは」と笑顔でいいました。

するとその男性は目をきらっと輝かせて私にこう言いました。

「あなたはどこの国の出身ですか」と。

そして私は答えました。

「日本です。」

彼はこう返してきました。「これは運命的な出会いだ」

私:「運命的な出会い・・・(苦笑)?」

それから彼は彼の行っているビジネスについて話し始めました。

その変なおじさんは、ビジネスとして「エロティック アート」をオンラインで売っているとのこと。そのビジネスの顧客対象を日本にも広げていこうと思っていたのだそうです。誰かにウェブサイトの日本語の翻訳等に関するアシストをしてもらえないかなぁと考えていたところ、日本人の私に出会った・・・というのが彼の言う「運命的な出会い」の理由だそうでした。

「エロティックアート」

初めて耳にする言葉。モネの「草上の昼食」のような巨匠による女の人が裸でランチをしてる風景画ではないカテゴリーのアートだというのは容易に想像できました。

「エロティック」っていう言葉がその変なおじさんの口から出た瞬間から、その場から立ち去りたいと思っていましたが、その変なおじさんは熱心に彼の「エロティックアート」の話を延々として、気がついたら夕焼けの空に星が見え始めていました。

変なおじさんは、私に「連絡を”必ず”くれ!」と言って名刺を渡してきました。

話の途中で色々な理由をつけて帰ればよかったのにもかかわらず、最後まで話を聞いてしまったということもあり、私はこう言ってしまったのです。

「私にはできない仕事だけれども、誰か興味のある人がいるかきいてみる」と。本当に流れで言ってしまったのです。じゃないと帰してもらえないような状況だったのです。

その後、仕事を探していると言っていた日本人の友達に「エロティックアート」販売のお手伝いなんだけど・・・と話してみたところ、やはりNOの返事。頭の片隅・・・というより「”必ず”連絡をくれ!」と言っていた変なおじさんの事を毎日考えてはいたものの、何もせず3日が過ぎたある日、変なおじさんに遭遇しないように散歩コースまで変えていたにもかかわらず、教会の小道でバッタリ変なおじさんと再会してしまったのです。

開口一番、Hiもなく「連絡を待ってたけど連絡が来ないので、どうなったかと思ってたよ」と。

私は「あ・・・え~と、友達に聞いたけど(嘘じゃない)、彼女は忙しいそうで・・・」

それで諦めてくれると思ったら、「何か方法はないか?ん?ん?ん?」と言って私の顔を覗き込む。

困った私は「ちょっと考えてみる」と言うと、なんとか変なおじさんとの長話を回避することができました。

その変なおじさんは去り際に「連絡を”必ず”くださいね」と言いました。

主人も友達も「無視してればいいよ」というのですが、なんと数日後また散歩で出くわしてしまって、彼は「ん?何か進展は?」のような態度で、何をどう考えても普通じゃない感じの接し方で、正直、だんだん怖くなっていっていました。変なおじさんに会ってしまうことも、はたまた犬の散歩に行くことさえも憂鬱になってしまって、散歩のルートを変えたり、時間を変えたりしても、彼も私を探して色んなルートを老体に鞭打って歩きまわってるのかという確率で会ってしまうので、これは何か彼が納得できる解決法を見つけなけばということで考えていたところ、私の頭にある考えが浮かびました。

「広告を出すよう提案してみる」

在イギリスの日本人向けにある情報サイトがあり、そこに求人広告を出せるということを思い出しました。

そこで早速その情報サイトにアクセス。広告を出すのにいくらかかるかとかいう情報を調べ、そのリンクを変なおじさんのメールアドレスに添付して送信しようと、そのリンクをコピペしている最中に、ある広告記事が目に入ったのです。

「留学生のお世話をする人を募集」

私は当時専業主婦で、子供が少し大きくなってきたので仕事でも考えようかと思っていたけれど、ロンドンに住んでいない私にとって、コロナ前は自宅勤務を認めていない会社が多い中、ロンドンまで片道1時間かけて毎日通勤するのは難しいと思っていました。仕事はしてみたい、けど現実的に難しいかなぁ…とあきらめていた時だったので、留学生のお手伝いというのは自宅からもできるし、定期的に働く仕事ではないので、大きな収入には結びつかないけれど、仕事復帰の準備体操ぐらいの経験にはなるんではないかと思ったのです。

すぐにその会社に連絡をとり、即、面接→採用という運びになり、そこで2年ほど働かせていただきました。

変なおじさんのおかげ(?)で、仕事をゲットしたんです。

その後、変なおじさんには「知人を当たってみたけれど地元では見つかりそうもないので、イギリスに住んでいる日本人を対象に広告をだして声を掛けてみたらどうか?」というメールを送り、そのメールを送るだけのためにあらたなメールアドレスを作成して、変なおじさんにメールを送ってから、そのメールアドレスには一度もアクセスしていないので、彼とのやり取りもすることもなく過ごせました。

その話をちょっと離れたところに住むママ友にしていたら、なんと、変なおじさんがその友達の向いに住んでいるおじさんだったことが判明。何やら同居していたパートナーと別れ、どこか遠くに引っ越しをすると家を売りに出したばかりだったと知りました。その後、不思議に一度も変なおじさんと遭遇することありませんでした。後から考えたら、実は変なおじさんは、私に仕事を与えてくれるために神様が送り込んできた「エロティックアート」を売る妖精だったのかなと、今では笑いながら思い出せる話になりました。

2年間イギリスで大学受験をしようとしていた日本人留学生のお世話をすることによって、日本の教育システムと異なるイギリスの複雑な大学受験のシステムを理解することができました。その経験もあって、現在娘が大学受験の年なのですが、何をどうすればいいかも?というアドバイスまでしてあげれるような知識を得られたことは、これも間接的に変なおじさんのおかげでした。

人生って、本当に不思議ですね。嫌だった経験がのちに自分の身を助けることになったりということもあります。「エロティックアート」を売る妖精に感謝をしつつも、あの変なおじさんには二度と会いたくありません(笑)。

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