(エッセイ) 手紙が書きたい
インターネットやSNSの普及、ペーパーレス化の影響で郵便物の数が激減している。2022年度の郵便事業は211億円の赤字で、総務省は24年秋をめどに「封書110円、はがき85円」への料金値上げを検討しているそうだ。国内郵便物の量は2001年度の262億通がピークで、22年度はピーク時より45%も減少しているという。
郵便物の減少に伴って、切手や印紙を販売するコンビニエンスストアやスーパー等の数も減少。郵便ポストの数も、この10年で8000個以上減少。
日本郵便が23年6月に行った調査では、1カ月あたりの投函数が30通以下のポストが4万3000個(全体の25%)もあり(1日1通もない)、さらなる削減も検討されているそうだ。ちなみに国際郵便は黒字で、国内郵便が赤字とのこと(出典)
確かに私自身、事務的な用事はともかく、プライベートで手紙を書く機会は年に1〜2度あるかどうか。国内外を問わず友人とはほぼメールで連絡するし、以前は海外の友人にクリスマスカードを郵送していたけれど、今はメールに添付して終わりだ。紙のカード需要が激減したせいで、アメリカの大手グリーティングカード会社・ホールマークも既に倒産している。
だけど私は、手紙を書くのも貰うのも実は大好きなのだ。少女時代は国内外の人と文通していたし、ネット社会になる前は遠方の友人と手紙のやりとりをしていた。中には「字が下手で…」と謝る人もいたけれど、その人にしか書けない字の味わいやレターセット・切手のチョイスも楽しかった。
それに肉筆だと相手の気持ちの昂ぶりや浮き沈みもペンの勢いから想像できて、あの人は今こういう気持ちかなと推測したりもした。そういえば遠距離恋愛していた筆無精の恋人から、忘れた頃に手紙が届くこともあったっけ。
5年位前まで、他県に住む叔母と手紙のやりとりをしていた。
その叔母とは以前はあまり交流がなく、私の肉親が立て続けに亡くなった時期にお世話になってから交流するようになった。年も離れているし話が合わないのでは…と思っていたが、手紙のやりとりで改めて知った叔母は、苦労人だが感性が若く、辛いことがあっても顔を上げて明るいほうを見て生きる、強くて優しい人だった。ただ、感性は若くてもネットは出来なかったので、私もアナログな手紙を書いていた。
叔母から来る手紙には、田舎の生活の微笑ましい描写が多かった。いかにも長閑な毎日を送っているように見えて、実は叔母は叔母で修羅を抱えていたのを後で知ったけれど…。
叔母の家の近くには郵便局もコンビニもなく、切手を買うのも遠くまで行かないといけないのに、いつも綺麗な花の切手や可愛い切手を貼ってくれていた。私もお返しに綺麗な絵葉書に花の切手等を貼って、季節の挨拶等を送るようにしていた。文面は簡単なものばかりだったけれど。
元々そんなに丈夫ではなかった叔母は、高齢になるにつれて体調を崩すことが多くなり、ある年は心臓発作で3回も救急車で運ばれたと言った。そういうことも後になってから何気なくサラッと書いてくる。一見簡単で素っ気ない文章の行間に、どれだけの配慮が隠されているか(余計な心配を掛けないように)が透けて見えて、胸が熱くなることもあった。
そのうち叔母からの手紙は途絶えがちになり、年齢と体調を考えると仕方がなく、無事でさえいてくれれば…と思っていた。一度会いに行きたかったが、叔母の家は車でないと行けない不便な場所にあり(私は車も免許もない)、日々のあれこれに追われて行けずにいた。
やがて叔母が亡くなったという連絡があった。ご遺族の話では、最後の頃はもう手紙を書くことも出来なくなっていたけれど、私からの手紙や葉書はどれも大事に読み返していたという。いつも楽しみに読んでいたと聞いて涙が溢れた。その気持ちがありがたかっただけではなく、自分自身が恥ずかしかったのだ。
正直言って、私はいつも心をこめて丁寧に書いていたとは言えない。
高齢だし、この程度の内容でいいだろう…的な自分勝手な考えで、一人の人間としての叔母にきちんと向き合わず、体裁だけで中身のない手紙や葉書も量産していた(仕事柄、書くことは簡単だし)。それで義務を果たしたように思っていたフシさえある…なんて厭らしいんだろう。
切手もレターセットも綺麗。でも内容はスカスカの手紙や葉書を何十通貰っても嬉しいだろうか。叔母は大事に読んでいてくれたというけれど…
叔母が亡くなって、私にはもう手紙を書く相手がいなくなってしまった。
でも、時々無性に手紙が書きたくなる。できれば普通の便箋に万年筆で。
書くことに対して何の思い込みも拘泥もない、真っ白い素直な気持ちで。
そして書き終えたら、真っ青な空の下、真っ赤なポストにポン!と入れるのだ。
アナログな絵葉書の交流を楽しみたい方に。こんなサービスがあるんですね。
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