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(ショートエッセイ) 実直な金谷さんの話


 中学の一時期、親元を離れて祖父母の家に住んでいた。父は転勤が多く、私は小学校を5回も転校したので、高校受験を控えて落ち着いて勉強するためだ。

 祖父は定年退職後、町内会長やボランティア的な名誉職に就いていた。
町内会には副会長や会計係等の人達がいて、会計係をしていたのが金谷(かなや)さんという中年男性だった。中肉中背で妻子のいる会社員。ごく普通のおじさんで、メガネを掛けていたような気もする。


 私には町内会のことは分からないし興味もなかったが、金谷さんのことは印象に残っている。というのも祖父母が会話をする時、その人の話になると名字の前に必ず「実直な」という形容詞がつくのだ。
 「実直な金谷さんがこう言っていた」「明日は実直な金谷さんが来る」…
もう名前自体を「実直な金谷◯◯」にしたほうがいいんじゃないかと思うほど、その人と「実直」は切り離せないようだった。

【実直】誠実でかげひなたのないこと。また、そのさま。律儀。「—を旨とする」「—な人柄」(国語辞典より)


 中1の私は実直の意味を知らず、祖父母に「実直って何?」と訊いたら
「真面目でいい人ということだよ」と言われた記憶がある。祖父母は、その人がどんなに真面目で信頼できるかを私に話して聞かせた。
 

 金谷さんは町内会の用事でよく家に来た。私が玄関先に出て取り次ぐ時も子供だからと適当にせず、真面目な顔でちゃんとした言葉遣いで挨拶をした。電話を取り次いだ時も同じ。祖父が町内会長だからではなく、誰に対してもなのだ。
 当時の私は実直であることの尊さも分からず、ただ「ジッチョク」という語感を面白がって、「実直な金谷さんが来たよ」なんて取り次いでいた。


 無駄口を叩かず、特に愛想がいいわけではないが不機嫌な時もなく、いつも背筋が伸びて、真剣に役目に打ち込んでいる感じの人だった。書類等の入った袋を手に、直立という感じで玄関口に立っていた姿からは、大事な役目をしている責任感と矜持のようなものが子供の私にも伝わってきた。
 面白味はないけれど、変にエラそうで不機嫌な多くのおじさん達に比べたら好感の持てる人だった。


 祖父母はとうの昔に亡くなり、その家も取り壊された。私は引っ越したので、町内の人達のその後は知らない。随分前に用事でその辺りを訪れたら、よく行った近所の個人商店はほとんど消えてマンション等が建っていた。
 金谷さんもとっくに亡くなられただろう。

 この頃なぜか時々、実直な金谷さんのことを思い出す。
 今の私は当時の金谷さんより歳上になったけれど、中1の子に、あんな風に接することができるだろうか。
 町内会の会計係という目立たず地味で面倒な役割を、あんな風に背筋を伸ばして、誇りを持って務めることができるだろうか。
 

 歳を重ねるにつれ、子供の頃は何とも思わなかった人達の姿が、人生の先輩として懐かしく記憶の中に立ち上がる。昔は何だか滑稽に思えた「実直な金谷さん」の呼び名も、結構いいよなあ…なんて思ったりする。

●楳図かずお先生、亡くなられたんですね。残念。あの服装やポーズで誤解されがちだけど、『漂流教室』『わたしは真悟』は漫画史に残る傑作です。数年前、「街で見かけた有名人」で一番多かったのが楳図先生で、あちこち出没されていたようで、お元気だと思っていました。ご冥福をお祈りします(-∧-)


おまけ:
ネットの拾い物。中高年の皆さん、これ身に沁みますよね(;^ω^)
コレは違う、と思う事も1つ2つあるけど。

年齢を重ねてわかるビンゴ

●疲れる前に休む ●自分の子供に期待しない ●面倒になる前に別れる
●重力には敵わない ●合わない人は合わない ●適度な距離を取るに限る
 ●人はすぐに忘れる ●若さは最大の武器となる ●怒っても意味がない
 ●人は自分しか関心がない ●万人に好かれるのは無理 ●他人の言葉は無責任 ●お金は本当に大事 ●人は「育ち」が9割 ●継続することで力になる ●成功するかはほぼ運で決まる ●人は簡単には変われない ●いつでもどこでも寝れる人は強い ●健康がなによりも大切 ●同じ経験がある人に相談する ●年をとるほど親に似る ●1人の時間はとても大切 ●性格は顔に出る ●迷ったら直感 ●勝てる場所で勝負する (C) HISATOTAGUCHI

動くもんか! ストライキ中

     閲覧ありがとうございました( ^ω^ )

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樹山 瞳
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