六十二年分のラブレター
『夫から妻へ、妻から夫へ 60歳のラブレター』(NHK出版)という本があります。10冊以上のシリーズ物で、60歳に限らず40代から90代まで、一般人の公募から選ばれた作品集。健在のパートナーにあてたものだけでなく、亡きパートナーへのラブレターも多数載っています。
たまたま読む機会があり、どれも市井の方々の飾らない思いが籠っていて、特に亡くなった方にあてたものは、泣ける作品が多数ありました。
…が、コピーライターの性分で、私は軽やかな感じのものが好きですねぇ。いいなと思った二編を。
六十二年分のラブレター
大切な僕の奥さん しいちゃんへ
僕が生まれた二日後に近所のしいちゃんが産声をあげました。
毎日一緒に暗くなるまで三輪車や缶蹴り、鬼ごっこをしました。
小学校へ入学しました。いつも遊ぼうと誘いにいきました。
中学生になりました。用もないのに家に遊びにいきました。
高校生になっても同じクラスだったので「宿題写させて」と家にいきました。
高高卒業後、天王寺駅一番線から始まった二人の社会人生活。
僕はしいちゃんとあえるのが本当に楽しみでした。
二十四歳でやっと大阪でプロポーズしました。
胸が爆発しそうでした。何を言ったか、どこで言ったかよく覚えていません。
二人の子宝にも恵まれました。子育ての手伝いもせず自分勝手なことばかりしても、
しいちゃんは愚痴や文句ひとつ言わないで黙って見守ってくれました。
そのずっと後になって僕はしいちゃんに指輪を買いました。
年金三か月分でした。僕からしいちゃんへの初めての指輪でした。
今年も大切なしいちゃんと六十二回目の誕生日を迎えました。
毎週のように山登りに出かけるしいちゃん。
目を輝かせて今日の景色や山の色を話してくれるしいちゃん。
今の僕の気持ちを表すことが出来ません。
今の僕の気持ちをどう表していいかわかりません。
ありがとう。しいちゃん。
これからもずっと大好きです。
和歌山県 男性(62歳)
午後のパートを終えて、今日も私はあなたにTELします。
「仕事終わったよ。ヨーイドン」
私は家に向かってウォーキング。今日は、どの辺で会えるかな。遠足気分で、焼き立てパンも買いました。
だいぶくたびれたけど大きく両手を振るあなたの姿が見えました。近づいてくるあなたに小走りになる私がいます。
おどけてスキップする私がいます。四十年前に感じたときめきを忘れていない私がいます。
そんな私を好きですか。
私は今も大好きです。
メロンパンほおばるあなたが大好きです。
千葉県 女性(61歳)
(本には氏名が載っていますが、個人情報に配慮して伏せています)
…と、せっかくのいい感じに水をさすようですが、フリーペーパーにこういうシニア川柳が出ていて笑った( ^ω^ ;)
「永遠(とわ)の愛 誓った指輪 おたからや」 男 75歳
「時として 恐竜に似る 婆の顔」 男 90歳
「声かけず ご飯できたと LINEする」 女 77歳
「年金日 夫婦の会話 この日だけ」 女 73歳
前に見た70〜80代の老夫婦。並んで座っていて、お互い何十分も無言で自分のスマホに夢中でした。LINE会話夫婦かも?