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インターネット上の匿名攻撃に対しての法的論点整理(第3回/全8回)

こんにちは。弁護士の紙尾浩道です。

さて、一昨日から始まりました、インターネット上の匿名攻撃に対しての法的論点整理(全8回)。

本日は3回目です。

復習として、1回目をご確認ください。


記事を開くのが面倒な方のために、ここに本当の本当のポイントだけ書いておきますね。
① プライバシー侵害
② 名誉毀損(含む信用毀損)
③ 脅迫、強要
④ ストーカー行為
⑤ 業務妨害行為
実は、匿名の相手を特定したい場面としては、上記の他にも、著作権・商標権の侵害などの知的財産権侵害の場面や、肖像権(パブリシティ権)侵害の場面も想定できます。
ただ、今回は、「攻撃」的なものに絞って、検討してみます。

さて、では本題に入りましょう。

◆名誉毀損◆

ひとことで言うと、ある人のエピソードを紹介することで、社会的な評判をおとしめる行為です。

「カミオは、競馬狂いで、借金が1000万円にも膨らみ、実家から勘当された」


という書き込みがあったとします。

こんなエピソードを紹介されたら、「うわぁ、カミオってそんな人間なんだ」と社会の評判が落ちますよね。

これに対して、

「カミオはアホだ」

これは、「事実の摘示」がなく、「評価」なだけで、名誉毀損とは言えないことが多いと思います。

なお、カミオはアホだの方は、公衆の前でやられると、侮辱罪が成立する可能性があります。
こちらは、名誉=一般からの評判ではなく、名誉感情=本人が悔しい思いをすることを守る条文だと理解されています。

第三十四章 名誉に対する罪
(名誉毀き損)
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

(公共の利害に関する場合の特例)
第二百三十条の二 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

(侮辱)
第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

(親告罪)
第二百三十二条 この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
2 告訴をすることができる者が天皇、皇后、太皇太后、皇太后又は皇嗣であるときは内閣総理大臣が、外国の君主又は大統領であるときはその国の代表者がそれぞれ代わって告訴を行う。

名誉毀損の場合には、訴える側として、「カミオは、競馬狂いで、借金が1000万円にも膨らみ、実家から勘当された」なんて記載があると、評判落ちるじゃないか!として損害賠償請求をします。

これに対しては、相手方から、いやいや、それは真実じゃないか!という反撃があり得るんです。

ただし、認められる場合は次の条件に限られます。

①公共の利害に関する事実

②目的が専ら公益を図ることにあって

③重要な部分において真実であること

①は、例えば、政治家が汚職をしてる(=国民の選挙権行使に営業するため公共の利害に関する)とか、犯罪行為が起きた(=国民の被害防止等の観点から公共の利害に関する)などといった事実です。

ですので、最初の例での、競馬狂いとか、借金1000万円とか、実家から勘当されたとかは、この①には当たりません!

②も①と同じような趣旨です。
犯罪行為があったことは事実だけど、告発とか被害防止ではなく、私怨を晴らすためにばら撒いたとなると、この条件を欠くこともあると思います。

③については、例えば、犯罪行為があった時間が1時間ずれていたから、虚偽の事実指摘だ!との言い訳を封じるところです。

ちなみに、この反論のことを真実性の証明と言いますが、プライバシー侵害では通用しません。
なぜなら、プライバシー侵害の場合は、そもそも、侵害に該当する場合というのが、「私生活上の事実またはそれらしく受け取られる事実」なので、公共の利害に関係する事実とは背反しますし、何より、真実であればあるほど、侵害度合いが増してしまうからです。

◆信用毀損◆
名誉は、「社会的な評価」言い換えると、「一般の人から見た評判」でした。

では、「信用」ッテナニ?

信用とは、経済的な側面における人の信用です。

「人の支払能力または支払意思に対する社会的な信頼に限定されるべきものではなく、販売される商品の品質に対する社会的な信頼も含む」(最判平成15・3・11刑集57巻3号29頁)。

「あの会社は借金まみれで潰れる」

「あの店のジュースには有害な物質が使われている」

などがこれにあたると思われます。

第三十五章 信用及び業務に対する罪
(信用毀損及び業務妨害)
第二百三十三条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

(威力業務妨害)
第二百三十四条 威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。

(電子計算機損壊等業務妨害)
第二百三十四条の二 人の業務に使用する電子計算機若しくはその用に供する電磁的記録を損壊し、若しくは人の業務に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与え、又はその他の方法により、電子計算機に使用目的に沿うべき動作をさせず、又は使用目的に反する動作をさせて、人の業務を妨害した者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
2 前項の罪の未遂は、罰する。

◆犯罪行為◆
名誉毀損も、信用毀損も、いずれも犯罪行為ですから、仮にそんなことをしてしまうと、処罰の可能性があり得ます。

条文は、それぞれの箇所にあげておきましたので、興味があったら読んでみてください。

◆損害賠償◆
それぞれ、相手から不法行為に基づく損害賠償請求をされる可能性もあります。

慰謝料と呼ばれてるやつですね。

以上、インターネット上の匿名攻撃に対しての法的論点整理(第3回/全8回)でした。

では、また。

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かみおひろみち
記事をお読みいただきありがとうございます。弁護士は縁遠い存在と思われないよう、今後も地道に活動をしようと思いますので、ご支援よろしくお願いします。