hidetoshi_igawa

趣味は音楽演奏・鑑賞(クラシックギター、ピアノ等)、美術展・アート展巡り、読書(音楽、…

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趣味は音楽演奏・鑑賞(クラシックギター、ピアノ等)、美術展・アート展巡り、読書(音楽、美術、国際政治、小説等)。主に国内でぶらぶら旅行するのが好きです。

最近の記事

瀬戸内国際芸術祭2022

瀬戸内国際芸術祭2022の夏会期に行ってきた。3年ぶりの瀬戸内だ。 1日目はまず女木島から。 エルリッヒなど既存作品は何回観てもいいが、新作もなかなか良い。特に漁師で工芸作家の緻密なガラス作品、しかも風車が精巧に動く。古着の断片を繋ぎ合わせ建物内を覆う、異世界のようだ。小谷元彦氏の作品に期待してたのだが、制作中で秋会期になるとのこと。「こんぼうや」となるらしい。まだよくわからない。 次に男木島。 注目は大岩オスカール氏の新旧作品。新作は坂茂設計の建物の窓に瀬戸内イメージの

    • 菱田春草と上村松園~春草晩年の未完成画《雨中美人》をめぐって~(5)

      おわりに  このように、春草と松園には同輩として浅からぬ接点が確認でき、互いに影響し合う姿を想察できる。その過程で、春草が、松園作品から傘と女性群像の造形的な可能性を認識し、それを《雨中美人》のモチーフに活かしたことから、両者の作品の間に造形的な共通点を見出せると考え得る。  春草は、論文「古画の研究」で、作画には「古画の研究」、「写実の研究」、「自己の考按」が不可欠だと述べた[註28]。松園は、諸派の縮図で研究を重ねるとともに、師の竹内栖鳳から写生の重要性をたたきこまれ、そ

      • 菱田春草と上村松園~春草晩年の未完成画《雨中美人》をめぐって~(4)

        3 傘をさす女性群像の造形性に着目した松園作品と《雨中美人》  松園は1907年から1910年の間に、美人観桜図の系譜を引く、傘をさす女性群像を集中的に描き、群像表現の研究を行っている[註23]。ここでは1910年の2作品を取り上げる。 (1) 《花》(1910年 姫路市立美術館蔵)  桜の花びらが舞う中で傘をさす3人の女性群像である。女性を重なるように並べて奥行きを表現しつつ、傘を右側へ楕円状に配置し、下から上へ奥に向かって流れをつくる。傘と女性像で形づくる造形美を追求し

        • 菱田春草と上村松園~春草晩年の未完成画《雨中美人》をめぐって~(3)

          2 《雨中美人》の構想に結びつく可能性がある春草と松園との具体的な接点  《雨中美人》では、なぜ女性像がモチーフに選ばれたのだろう。一つの可能性として、京都画壇の上村松園との関わりによる影響をあげ、春草と松園との間における《雨中美人》の構想へと結びつく接点について、具体的に追ってみる。 (1) 展覧会への出品および受賞  1874年生まれの春草は、1875年生まれの松園とは1歳違いで、ほぼ同時期に活動していた。二人とも展覧会への出品を重視し、賞も受けてきており、下表のよう

        瀬戸内国際芸術祭2022

          菱田春草と上村松園~春草晩年の未完成画《雨中美人》をめぐって~(2)

          1 春草の未完成画《雨中美人》とは ~その特徴と作画意図~  春草の《雨中美人》は、6人の女性が木立の中で傘をさして佇む情景を描いた作品で、「美人」画ながら1人だけ顔を出し、5人の顔は傘で隠れている[註6]。  こうした全体像は2015年の屏風画本体の発見でわかるようになったものだが、それ以前から部分的なスケッチや下図、関係者の回想などによりある程度知られた作品であった。1940年の評伝でも、「数名の今様美人が雨中に傘を指して往来する光景を六曲屏風一雙に描い」[註7]たとされ

          菱田春草と上村松園~春草晩年の未完成画《雨中美人》をめぐって~(2)

          菱田春草と上村松園~春草晩年の未完成画《雨中美人》をめぐって~(1)

          はじめに  明治時代の日本画家・菱田春草(1874-1911)の作品には、《雨中美人》という珍しい未完成画がある。2015年に飯田市美術博物館の調査で発見されたこの作品[註1]は、春草が死の約1年前の1910年8月から9月ごろに構想した[註2]六曲一双の屏風画である。第3回文部省美術展覧会(文展)[註3]出品作の《落葉》が高評価を得た後、第4回文展[註4]に向け、それに並ぶものと意気込んで描こうとした作品[註5]で、傘をさす女性群像がモチーフであった。ここで疑問に感じるのは、

          菱田春草と上村松園~春草晩年の未完成画《雨中美人》をめぐって~(1)

          レッサー・ユリィ〜『印象派・光の系譜』展より〜

          あべのハルカス美術館で開催中の『印象派・光の系譜』展に行ってみた。 イスラエル博物館所蔵のコレクションで、モネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガンなど印象派中心の珠玉のコレクションだ。 注目はこれらの作品のはずなのだが、どうもドイツの画家 レッサー・ユリィのほうが話題になっているらしい。東京展では、初日にユリィの絵葉書が完売になったとかいう話も。 確かに観てみると、印象派的に描かれた雨の中で反射する光や影が美しい。その静けさが日本人の琴線に触れるのかもしれないと思われる。 ど

          レッサー・ユリィ〜『印象派・光の系譜』展より〜

          音楽における楽譜の役割とは

           私たちが「音楽」と聞いたとき、まず何を思い浮かべるだろうか。「音符」、「ト音記号」、「五線」など、これらはすべて楽譜を構成する要素である。専門的に音楽に関わる、関わらないに関係なく、私たちは幼少の頃から、学校の音楽の授業などで五線譜という楽譜に親しんできた。日本では、音楽といえば楽譜が存在することが当たり前であり、楽譜はとりわけ西洋音楽の普及に重要な役割を担っていたというべきであろう。  そもそも楽譜は何のためにあるのだろう。基本的には、音は出された瞬間から減衰し、時間の流

          音楽における楽譜の役割とは

          理想世界への思いを表現する小京都「平泉」

           日本では、地方都市を表現するのに、「小京都」という美しく魅力的な表現がある。平安時代末期、「小京都」ならぬ「みちのくの京都」とも言われ、平安京に次ぐ大都市が東北地方に存在した。それが、岩手県南部の都市「平泉」である。  11世紀末以降、約100年にわたって繁栄を極めた奥州藤原氏の本拠地が平泉である。初代清衡が造営した煌びやかな金色堂と大伽藍を備える中尊寺、二代基衡が造営した大堂塔と広大な浄土庭園を備える毛越寺、三代秀衡が造営した平等院鳳凰堂を模した無量光院や政庁の柳之御所な

          理想世界への思いを表現する小京都「平泉」

          神戸・塩屋に残された洋館「旧グッゲンハイム邸」~取り違えられた施主情報をめぐって~

           私の自宅がある神戸市垂水区の東部には、南が海に面した坂の多い塩屋という街がある。昨年、塩屋にある旧グッゲンハイム邸として知られる洋館が、実は別人宅だったという驚くべき報道がなされた。ここでは、邸宅の施主情報の取り違えをめぐる過程を中心に追いながら、旧グッゲンハイム邸の歴史の一端をとらえてみたい。  神戸では1868年の開港後、外国人は今の神戸市中央区の指定された居留地または周辺の雑居地に住んだが、1899年に居留地制度が廃止され、それ以外の場所に居住可能となった。また、18

          神戸・塩屋に残された洋館「旧グッゲンハイム邸」~取り違えられた施主情報をめぐって~

          グリーンバーグ『モダニズムの絵画』と現代写実絵画

           芸術批評の典型的な例として、アメリカの美術批評家クレメント・グリーンバーグの「モダニズムの絵画」がよく知られている。グリーンバーグはこの批評において、絵画における「モダニズム」を対象として、それがどのような特徴を持つのか概念の定義を行うとともに、評価できる点について論じた。  批評のポイントとして、まずアプローチの方法があげられる。それは、イマヌエル・カントによって始められたとされる「自己‐批判」の方法、つまり、ある規律を批判するために、その規律の独自の方法を用いるという内

          グリーンバーグ『モダニズムの絵画』と現代写実絵画

          ボッティチェッリの作品《受胎告知》の特徴について

           サンドロ・ボッティチェッリの《受胎告知》という作品を分析するにあたり、造形的特徴をとらえたうえで、それらを主題に照らして考え、社会的背景という文脈の考察を加えていきたい。  まず、造形的特徴について、本作品の中心をなす2人の人物像からとらえてみる。画面の左側には、天使が左手に白百合の花を持ちながら、右ひざをついた低い位置から右手を伸ばして、右側の人物に向かう姿勢で言葉を伝えようとしている。画面の右側には、赤い衣服に青いヴェールをまとい、頭上に光輪のある聖なる女性が描かれる。

          ボッティチェッリの作品《受胎告知》の特徴について

          近代と現代における恋愛小説の関連性〜『舞姫』と『ノルウェイの森』との比較から〜

           日本の近代小説から現代小説へという展開の中で、その時代特有の状況を背景としながら青年を主人公にして恋愛を描く小説は、主要なテーマの一つとして位置づけられる。  近代小説の確立期において重要なものが、森鴎外の初期の名作『舞姫』である。ベルリンを舞台に、日本の官僚の青年と現地の可憐な踊り子との悲恋を描いた短編小説である。一方、現代小説の成熟期においてベストセラーとなったのが、村上春樹の『ノルウェイの森』である。主人公が大学時代を回想し、自殺した友人の恋人で精神を病むことになった

          近代と現代における恋愛小説の関連性〜『舞姫』と『ノルウェイの森』との比較から〜

          ロマン主義の形成過程について〜ヨーロッパ文学の潮流の視点から〜

           18世紀末から19世紀にかけて、ヨーロッパの文学、美術、音楽等の諸芸術において、ロマン主義という傾向が広がった。これまでのギリシア・ローマを規範とする古典主義からの自由を求め、理性ではなく感性と想像力を重視し、主観的な美の創出を目指した芸術潮流である。  ロマン主義の形成を考えるうえでは、まず大きな社会変動という時代潮流をみるべきであり、それが産業革命であり、アメリカ独立戦争やフランス革命といった市民革命である。これらに共通するのは、市民階級の台頭により、人間という存在の重

          ロマン主義の形成過程について〜ヨーロッパ文学の潮流の視点から〜

          ギリシア・ローマ文化のヨーロッパへの伝播の過程について

           ギリシアとローマの文学や思想は、ヨーロッパ文化の出発点として位置づけられる。  まず起点となるのはギリシアである。そこでは、ヨーロッパ最古の文学とされるホメロスの作品を始めとした古代ギリシア文学、ソクラテス、プラトン、アリストテレスを始めとした古代ギリシア哲学、アイスキュロス、ソフォクレス、エウリピデスを始めとしたギリシア悲劇が開花した。これらの考え方の中心にあるのは、人間という存在への関心と自由な発想・創造である。  続いて、ギリシア文化の影響を強く受けたのが、ローマ文化

          ギリシア・ローマ文化のヨーロッパへの伝播の過程について

          朝鮮半島における演劇の歴史的展開~伝統芸能としての演劇の観点から~

           上演芸術における演劇は、通常、劇場において観客に対して俳優が物語等を演じるという構造を備えている。この観点から、朝鮮半島における演劇は、20世紀初頭以降の近代演劇から始まったといえる。ただ、伝統芸能からみると、視聴衆に対して演じる行為という意味での演劇は先史時代から始まり、様々な影響を受けながら発展してきたとみるべきである。  この広義での演劇は、近代演劇の出現以前では、「古代」「中世」「近世」の時代区分にわけることができる。  古代ではまず、他の民族の歴史と同様に、祭礼の

          朝鮮半島における演劇の歴史的展開~伝統芸能としての演劇の観点から~